Works 185号 特集 ニッポンの“課長”の処方箋

管理職要件を「共創型」に一新し、女性管理職が35%になったポーラ

2024年09月25日

化粧品大手・ポーラは2018年、管理職に求める要件を、従来の「組織で成果を出すプロフェッショナル人材」から「共創型リーダー」に一新した。制度改定の背景や足元の状況、そして今後の展望について人事担当者に聞いた。


ポーラが基幹職に求める要素
出所:ポーラ

ポーラが2018年、管理職の要件を改定した背景には、内向きな組織風土に対する問題意識があった。人事戦略部部長の岸本裕氏は、「『上から言われたことをきっちり実行する』ことに重きを置く内向きな組織では、今後の市場を十分に見通すことはできない。未来志向の組織に生まれ変わるため、人材開発を進めないといけないという危機感がありました」と説明する。

これまで管理職には「組織で成果を出すプロフェッショナル人材」を求め、要件として「実行力」や「成果の完遂」を挙げていたが、制度改定にあたっては、こうしたマッチョなリーダー像を一新。部下一人ひとりと向き合ってそれぞれの成長を支援したり、チームの士気を高めてアウトプットを最大化したりする「共創型リーダー」を目指し、「対話力」「感受性」「訴求力」「多様性」といった新たな要件を加えた。

社内外の複数の目で能力判断
女性の合格者は50%超に

改定された人事制度のもとで、管理職の選考はどのように進んでいくのか。

まず管理職試験の受験が「可能」との評価を得た社員は、管理職として必要なスキルやマインドセットが基準に達しているかを確認するため、外部のコンサルティング会社によるアセスメントを通じ、「対話力」「感受性」「訴求力」「多様性」など12の項目についてチェックを受ける。

基準を満たしているとの判断に至れば、次に上司が、管理職試験を受けるのに妥当な人物であるかどうかを評価する。続く試験では論文と面接があり、合格すれば、会社の中核を担う「基幹職」のプール枠に入る。最終的には、社内の任用委員会が評価し、管理職に任命するかどうかを決める。

上司を含め社内外のさまざまな目で本人の能力が十分かどうか、複数回のチェックを受けるのが特徴で、外部のアセスメントを入れることで、直属の上司のバイアスがかからずに、社員それぞれの能力を客観的に判断することができるようになった。

「ジェンダーバイアスがない状態で管理職候補を挙げてみると、結果として、多くの女性が管理職候補としてリストアップされるようになりました。今では、候補に挙げられる女性の数は、男性よりも多いほどです」(岸本氏)

実際、管理職試験の受験者のうち、女性の割合は50%を超え、さらに女性の合格者自体も顕著に増えている。

以前は、女性の合格者の割合は20%ほどにすぎなかったが、2020年以降は50%を概ね超えるようになった。あえて女性を増やそうとしなくても、今の時代にふさわしい管理職の要件を見直したことで結果的に増えているといえる。

対話力や感受性も重視する新たな制度のもとで、管理職に登用された人材が得意とする能力にも、変化が見られるようになった。直近3年間の合格者と、それ以前の合格者のコンピテンシーを比較すると、直近の合格者は「自分の軸で考える力」と「多様な個人を尊重し生かす力」が高いという。

岸本氏は、「ただ言われたことに対応するのではなく、自分の美意識を持って自分軸で考えられる、そんな能力がある人が増えてきました。さらに、他者の多様性まで認められるしなやかな人が多いのが最近の特徴のように感じます」と指摘する。

外部アセスメントで計測しているコンピテンシー一覧「ポーラが基幹職に求める要素」(上図)を、外部アセスメントを活用し、下図の主体性、多様性など12のコンピテンシーで測定している。
出所:ポーラ

   

現場での効果も出てきた。同社では、2020年に「私と社会の可能性を信じられる、つながりであふれる社会へ。」とビジョンを改定し、その実現に向けて、社員一人ひとりの“will”を引き出し、挑戦を後押しする風土づくりを進めている。ここで、管理職の対話力や感受性、多様な個性を生かす力などが発揮されている。

「マネージメントサーベイでも、部下をサポートしている、アイデアに耳を傾けている、オープンでフランクな対応を行っている、などのスコアが高く出ています」(岸本氏)

悩む管理職に、ヨコ連携で
つながる場を会社が提供

一方で、課題も見えてきた。出産や育児、介護などのライフイベントに直面しがちな女性のなかには、家庭の事情や本人の意向で管理職受験を辞退する人も一定数存在する。人事戦略部ヒューマンバリューチームリーダーの松場裕子氏は、「そんなときには上司からその社員に向けて挑戦を応援するコミュニケーションを取ってもらえるよう、人事が上司に依頼しています」と話し、きめ細かい対応を心がけている。

管理職になってから、部下の時間管理や育成を巡って、悩む社員も少なくない。同社では、管理職が集う研修の機会を定期的に設け、職場の好事例などを紹介する時間を取っている。

「研修の後半で少人数のグループに分かれて話す頃には、それぞれの悩みや本音が出てきます。リーダー同士が、組織のタテの線ではなく、ヨコの連携でつながる場を提供することで、それぞれの解決法を見つけてほしいという思いで研修を実施しています」(松場氏)

制度の微修正も続けている。2022年には、管理職の要件に「中長期的な視点で部下の育成を支援する」ことを加えた。目先のことだけでなく、中長期的な視点で部下のキャリアを支援することはもちろん部下のために重要だが、管理職社員本人がキャリアの主体としてどうしたいのかを探ってほしい、との狙いがあるという。

ポーラは創立100周年となる2029年、女性管理職の割合を50%にすることを目指している。制度改定前には、30%前後で伸び悩んでいた女性の割合は、改定後に伸びて2024年の段階で35%に至った。未来の管理職になる可能性がある30~40代の係長級に限ると、女性の占める割合は6割にも及ぶ。

国内の化粧品業界で初の女性トップが誕生したことでも注目を集めたポーラだが、一朝一夕ではない取り組みの結果が出ている。

Text=川口敦子 Photo=ポーラ提供

岸本裕氏

ポーラ
人事戦略部部長

松場裕子氏

ポーラ
人事戦略部
ヒューマンバリューチームリーダー