Works 185号 特集 ニッポンの“課長”の処方箋

「管理職なりたくない」問題。若手は「管理職の課題」をこう見ている

2024年09月11日

日系大企業らの若手中堅有志のコミュニティであるONE JAPANは2021年から管理職世代を対象にした「ミドル変革塾」を始めた。
なぜ若手の団体が管理職を対象にしたのか。共同発起人の濱松誠氏に聞いた。


ONE JAPANは2016年に発足し、現在は約50社、2000人程度が参加しています。若手社員の立場から経営層を巻き込み、大企業の変革を目指す活動を続けてきましたが、会社は若手と経営層だけでは変えられない、「若手・ミドル・トップ」が三位一体である必要があるという現実に直面したのです。

しかし、実態は現場の若手が声を上げたり、経営層がトップダウンで指示したりすると、ミドル層が板挟みになり、3つの層が対立しギスギスしてしまう。企業を変えるにはミドルがキーになるとわかっても、管理職たちの苦しい、厳しい現実は若手にも伝わってくる。そのうえ、ミドル層は何千人もいるため、変革の難度は格段に高く、改革に前向きな人材ばかりでもありません。

ただ、ONE JAPANの創設メンバーたち自身が実際に管理職になることで、「ミドルの罠」も見えてきました。

1つはミドル層に訪れるライフステージの変化です。ちょうど管理職になる年代に結婚や出産、育児、離婚などさまざまな変化を経験する人もいます。若手のときのようには働けないし、深夜まで飲んで、仲間と議論することもできなくなります。

もう1つは、会社からオールラウンダーであることを求められることで、「管理職は完璧でなくてはいけない」と意識するようになることです。攻めるだけじゃなくて守りも固めないといけないという意識によって、自然と部分最適を求め、結果的に視野が狭くなってしまうのです。こうした課題を克服するために発足させたのが、ミドル変革塾です。ニューリーダーを生み出すために、同じ志を持つ者が集まって切磋琢磨する、“本気”のプログラムを作りました。

変革塾で大事にしたのは、劇薬、実践、仲間です。劇薬とは叱咤激励感もある良質な学びのことです。経営共創基盤グループ会長の冨山和彦さんや、A.T.カーニー日本代表の関灘茂さんなどを講師に招きました。その学びを受けて自社の変革案を形にして実践する。行動しなければ評論家と変わりません。「前例のない判断」ができる人材の育成には、同志の存在も不可欠です。約半年間のプログラム期間中は、2~3週間に1度集まり、横のつながりを作ってもらいました。

一方で、個人を支援するプログラムだけではうまくいかないという課題もわかってきました。今後は私たちと企業側が連携し、ミドル人材の育成とその後のフォローアップも充実させ、受講者の裾野を広げたいと思っています。

ONE JAPANとして、もう1つ企業側に働きかけたいのが若手人材の登用です。変革塾で学び、同志を作ったとしても、そのときに40代半ばだったら、定年までの時間は長くはありません。管理職登用を10年前倒しにしてもらい、30代半ばのニューリーダーを生み出していきたいと思っています。

一方で若手にとっては、ミドル層になって活躍する姿が描けていないと感じます。ONE JAPANメンバーで日系大企業の20代後半の男女3人に「管理職になりたいか」と聞いてみたところ、「時代とともに商材も変化している。私が管理職になったときに若い世代の価値観に対応できるのかわからない」「社内のミドル層に目指す姿が見つからない」などと口にします。そう言いつつ、彼らは「何とかして私が会社を良くしたい」とも考えています。僕は彼らに希望を感じますし、若手のミドルになることへの不安を取り除いていきたい。

ミドルを巻き込んだ組織改革はまだ始まったばかりです。ミドル層へのアプローチで成果を出せるよう、やり抜きたいと思っています。

Text= 横山耕太郎 Photo= 濱松氏提供

濱松誠氏

ONE JAPAN
共同発起人・共同代表

2006年パナソニックに入社。社内の若手を中心とした縦・横・斜めをつなぐ組織の活性化と共創を狙いとした有志の会One Panasonicを2012年に立ち上げ、2016年にONE JAPANを設立。2018年、パナソニックを退職し、フリーランスで大企業やベンチャーで人材・組織開発プログラムの企画を手がける。