Works 185号 特集 ニッポンの“課長”の処方箋
キャリア採用市場での管理職ニーズは減らない
一部の若手人材が言及する「管理職の経験があると、自身の市場価値が下がる」という懸念は事実だろうか。転職エージェント、ジェイ エイ シー リクルートメント(以下JAC)で、転職希望者と企業の橋渡し役を務める水上悠一氏に、管理職のニーズや求められる姿について聞いた。
JACでコーポレートサービス部シニアマネージャーを務める水上悠一氏は、転職希望者と人材を募集する企業の双方と対話しているが、「『管理職の経験があると、市場価値が下がる』と感じたことはまったくありません」と断言する。ただし、20代を中心とした若手人材のなかに、管理職という仕事を否定的に捉える人が存在することもある程度は理解できるという。それはなぜだろうか。
水上氏は、「SNSも含めて転職情報が過多に存在する現代において、若手人材はワークライフバランスの実現や専門性の追求、転勤の有無、年収アップなど、5年前後のやや短期的な視点で見た条件に着目しがち」だと指摘。管理職は自分の守備範囲だけで仕事が完結せず、部下の面倒をみることまで求められるため、特にワークライフバランスや自身の専門性を重視する人には魅力的に映らないのではないか、と推測する。
中長期的なキャリアをどう形成していくかという課題への向き合い方は、年代による違いが大きくなりがちだ。「若手人材が重視しがちな、目先の『点』の情報をたくさん集めたとしても、中長期的なキャリアという『線』にはつながりません。求職者が思い描く5年のスパンを10年単位まで延ばして、どのようなキャリアを形成していきたいかを対話することが重要です」
水上氏の実感では、30代半ばから40代を境に、「線」でのキャリア形成を意識する求職者が多くなり、転職して管理職にチャレンジする人も出てくるという。
「マルチな管理能力」と「経営目線」が大事
企業側はキャリア採用において管理職に何を求めているのだろうか。水上氏は「マルチな管理能力」と「経営目線を持つこと」の2点を多くの企業が挙げるという。
1点目の「マルチな管理能力」は、従業員の働き方の多様化に対応するための能力だ。さまざまな従業員が存在するなかでのハラスメント対応や、在宅勤務を含めた部下の労務管理、男性にも増えている育休取得者への対応など、管理職に求められる管理能力は多岐にわたる。「これまでの仕事のなかで、自分と異なる多様なバックグラウンドの人々とどのぐらい接したことがあるかによって、この能力が十分かどうかが決まってきます」
2点目の「経営目線を持つこと」は、ピープルマネジメントや業務の体系化、プロジェクトを回す力など、管理職が行うさまざまな業務が、どのように経営につながっているかを考えて実行する力だ。
「経営を理解し、経営層が実現したい姿に向かって自分の能力を使うことができる人が求められています」
一方で、そのようなスーパー管理職を探そうと思っても、そう多くはないのが現実だ。自社でも「なり手がいない」と困る状況にあって、企業はどうすれば自社が求める管理職を採用できるのだろうか。
「本来は企業によって抱えている課題はさまざまあり、それらの課題に応じて求める管理職の姿は異なるはずです。多くの人事の方が『欠員のため募集』と最初はいいます。そうだとしても、若手人材の成長、競合とのシェア争いに勝ちたいなど、管理職の採用によって実現したいことがあるはずです。課題や目標の具体化、言語化を通じてそこにたどり着けると、自社に必要な管理職の能力やスキルが見えてくるのだと思います」
Text = 川口敦子 Photo=JAC提供
水上悠一氏
ジェイ エイ シー リクルートメント
コーポレートサービス部 シニアマネージャー