Works 185号 特集 ニッポンの“課長”の処方箋

管理職の多くがプレイング領域3割以上 負荷の高い1on1も見直すべき

2024年09月19日

マネジメント業務に加えて、プレイング業務も兼務している「プレイングマネジャー」。管理職の実態に詳しい中尾マネジメント研究所代表の中尾隆一郎氏は、今、多数の管理職がプレイングマネジャー状態で、本来の目的である「チームの成果を最大化する」ことに時間を割けていない状態だと指摘する。


リクルートワークス研究所が2019年3月に管理職2183人を対象に実施した調査では、約9割がプレイングマネジャーという結果になりました。さらに実態を把握するために、私の知人の管理職約100人に調査したところ、プレイング業務の割合が「70~80%」と回答した人が最も多く2割強で、「プレイング業務が3割以上」だった人は約85%に上りました。

管理職のプレイング業務が多すぎると、チームの業績が落ちてしまいます。リクルートワークス研究所の調査では、プレイング業務が3割以上になると「チームの業績が下がる」こともわかっています。

知人の管理職への調査では「困っていること」についても聞いたのですが、1位が「自分自身のマネジメントスキル不足」、2位が「メンバーへの対応の難しさ」、3位が「プレイング業務の増加」という結果で、いずれも半数以上の人が選択していました。

プレイング業務に追われ、しかもマネジメントのやり方もわからない。そんなプレイングマネジャーたちの窮状が浮かび上がりました。

そもそもマネジャーの役割とは何でしょうか?マネジメントの意味について「管理すること」と勘違いされがちですが、もともとの英語の意味は、「manage to(何とか~する)」です。つまりマネジャーの役割は「何とかして結果を出すこと」です。

チームで結果を出すという本来の目的のためには2つのスキルが求められます。1つはチームの関係性をよくするスキル=PeopleEmpowerment、そしてもう1つは、業務を進めるProject Managementのスキルです。

これらはスキルなので習得しないと使えないのですが、マネジャーの上司側もその点をよく理解しておらず、「プレイング業務ができる部下は、管理職になればマネジメントができる」と勘違いしています。

そしてマネジャー自身もマネジメントの方法を学んでいないので、これまでと同じようにプレイングで成果を出すことで存在価値を示そうとしてしまうのです。

問題ばかりの1on1がマネジャーの負担を増やす

そして昨今、マネジメントの2つのスキルのうち、People Empowermentの重要性だけが強調されているように感じます。

その象徴が、頻繁な「1on1」です。毎週または毎月1on1をしている会社も少なくないと思いますが、私は毎週の1on1はやめたほうがいいと思っています。弊害も多いからです。

1on1の最も悪い点は、面談の場でメンバーがマネジャーに仕事を渡しマネジャーの仕事を増やすことです。「こんなことに困っています」と部下に請われたら、人事部から「共感性を高めろ、サポーティブになれ」と言われているマネジャーたちは、部下から課題を受け取らざるを得ません。

しかも会話の内容は秘密保持が原則なので、人事や上司による問題解決の介入もなされず、1on1はブラックボックスになっています。

1on1のもう1つの問題は、チーム会議が活性化しなくなることです。メンバーは、ほかのメンバーの目があるチーム会議では言いにくいことも「1on1ならば言える」と思ってしまい、会議の場では発言しなくなります。

別の問題点としては、マネジャーとメンバーの相性が悪かった場合には、毎週の1on1が心理的な苦痛になってしまうという問題や、1人につき30分以上の時間が必要になり膨大な時間がかかるという問題もあります。

ルールを決めてノウハウを共有するなど、運用を徹底できれば話は違いますが、多くの企業にとって、そこまでして1on1を続ける意味は本当にあるのでしょうか?私は定期的な1on1は手間のわりにリターンが小さく、オーバースペックだと感じています。

負担を減らしながら業務の生産性を上げるには

私は、People Empowermentの方法として、1on1のように1対1でメンバーと向き合うのではなく、グループコーチングの導入や、チーム会議を活性化させることをおすすめしています。メンバー同士が意見を言い合い、考えをすり合わせる関係を作ることができれば、マネジャーの負担も大きく減らせるはずです。

Project Managementに関しても、やり方を知らないプレイングマネジャーが多い。我流で進めるからうまくいかないのです。

たとえばProject Managementの世界標準である、PMBOKを知っているだけでマネジメントの段取りはずっと良くなります。私は「G-POP」という独自の方法論をおすすめしていますが、メンバー一人ひとりが常にゴール(G)を意識し、事前準備(Pre)に時間を使い、臨機応変に実行(On)し、振り返り(Post)をして次回に生かすという循環を作ることに有効です。

今の管理職の一番の問題は負担増です。そのなかでも「人事評価に手間がかかりすぎている」という課題もあります。現状では、毎週の1on1に加えて、評価のために1on1をやって、そのうえで査定会議のための資料を作って……と膨大な評価作業により通常の業務が止まってしまうという声をよく聞きます。

私がおすすめしたいのは、個人が毎週、目標設定と振り返りをする仕組み(G-POP版グループコーチング)の導入です(下図)。

G-POPシートの記載185toku_9_G-POPsheet①人生をかけてのゴール、②今年のゴール、③今月のゴール、④その他のゴールをそれぞれ設定し、毎週それぞれについて達成できたかどうか◎、◯、△、×で自己評価して振り返る。それぞれ、5~7 項目記入することを推奨しているという。
出所:中尾氏により作成、一部編集部改変

長期的なゴールを達成するために、今月・今週は何に取り組むべきかを因数分解して目標とすることでメンバーは目先の目標だけに追われることがなくなり、かつマネジャー側はメンバーの状況について◯や×を確認するだけで、一目で把握できます。日々の仕事に追われるプレイングマネジャー自身も、日常の業務の生産性を上げていく工夫が求められていますが、この方法をとれば、半期・通期ごとの評価作業に膨大な時間をかけることはなくなり、余力も生まれるはずです。

Text=横山耕太郎 Photo=中尾氏提供

中尾隆一郎氏

中尾マネジメント研究所
代表

大阪大学大学院工学研究科修了後、リクルートに29年間勤務。リクルート住まいカンパニー執行役員(事業開発担当)、リクルートテクノロジーズ社長、リクルートワークス研究所副所長などを経て、2019年より現職。『最高の結果を出すKPI マネジメント』(フォレスト出版)など著書多数。