Works 185号 特集 ニッポンの“課長”の処方箋

管理職の「感情労働」に対して今求められるケアとは

2024年09月19日

リクルートワークス研究所研究員の筒井健太郎は、マネジャーの仕事が「感情労働」化していると警鐘を鳴らす。苦境に立たされるマネジャーの現状と、必要な支援について考える。


感情労働とは、職業や状況にふさわしい言動が求められ、常に自分の感情を管理しなければいけない労働のことをいいます。もともと感情労働の研究は、航空会社の客室乗務員や集金係から始まったのですが、接客・販売、医師や看護師、教員など多様な職業へと広がっていきました。いまやマネジャーの仕事も、そこに連なるのではないかと見ています。

マネジャーの仕事が「感情労働」化していると考えるようになったきっかけは、私がコーチやキャリアカウンセラーとして多くのマネジャーの悩みに向き合ってきたなかで、「まるでカウンセラーみたいな仕事をしている」という声を現役のマネジャーから聞いたことでした。この言葉は、今日のマネジャーの苦境を如実に表していると感じます。

実際、今日のマネジャーには、部下を「ケア」する役割が強く期待されています。もちろんこれまでも、部下に対して配慮や気配りをすることはマネジャーの役割とされてきました。しかし最近ではさまざまな環境変化を背景に、「配慮」のレベルを超えて、部下一人ひとりに対して個別に世話を焼く「ケア」が必要になっています。配慮からケアへ、対人支援のレベルが上がるに伴い、より高度な感情の管理が求められ、それがマネジャーの負担増につながっています。

一般に感情労働では、その場にふさわしい形で、意図した感情を表現するような「演技」が求められます。それはつまり、自分らしくいられないということでもあり、行きすぎると、バーンアウト(燃え尽き症候群)につながると指摘されています。

いまやマネジャーの5割以上がバーンアウトの状態にあるという調査もあります。その裏ではマネジャーの仕事の感情労働化が進んでいるのかもしれません。

また、ほかの職種と比べて、管理職の死亡率や精神障害の労災決定件率が高いことも、見過ごせない事実です。

「こうあるべき」に縛られ 助けを求めにくい

ケア論においては、そもそも自分を大切にできなければ他者を大切にするのも難しいとされています。その意味でも、マネジャーにこそケアが必要です。

ところが、企業ではマネジャーがケアされる対象であるという意識が決定的に抜け落ちています。マネジャーがストレスを抱えていても、気づかれないことが多いのです。たとえば「ストレスチェックやエンゲージメントサーベイの結果を見ると、当社の管理職のスコアは高いから大丈夫だ」という人事は多くいます。しかし、マネジャーになると「管理職たるものこうあるべし」という社会的望ましさのバイアスが働き、スコアが上振れする傾向にあることを見逃しています。管理職における男性比率が高いことから男性性の問題とも重なり、マネジャー自ら声を上げて助けを求めることもなかなかできないのです。

では、人事はどのような支援ができるのか。まずは、マネジャーが安心して悩みを相談できる場を作ることです。キャリアカウンセラーやコーチなど、利害関係のないプロの相談サービスを活用したり、同じ立場のマネジャー同士でフラットに語り合える研修を企画したりするのもよいでしょう。

また、ケアの役割を担うには、自分を大切にしながら部下を支援できる新しい要件が求められます。業績の追求、部下の育成に加えて個別のケアはそれぞれ異なるスキルを必要とする異なる役割です。すべてを1人のマネジャーに負わせることなく、適正な役割分担を考えていくべきです。

Text = 瀬戸友子 Photo=リクルートワークス研究所提供

筒井 健太郎

2009年早稲田大学法学部卒業後、東京海上日動火災保険株式会社入社。商品企画・開発、法人営業に従事。その後、三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社、そして、株式会社セルムにて組織人事コンサルタントを務めた後、2022年4月より現職。
2019年8月名古屋商科大学大学院マネジメント研究科修了。修士(経営学)。現在、立教大学大学院経営学研究科博士後期課程在籍。
Executive MBA、中小企業診断士、1級キャリアコンサルティング技能士、PCC(Professional Certified Coach)