Works 185号 特集 ニッポンの“課長”の処方箋

[匿名座談会]苦労は? 部下を叱れる? 現役管理職、本音を語る

2024年09月11日

管理職になりたくないと答える人が7割を超えるなど、日本の管理職は、長時間労働や人手不足で苦労しているが報われない……とのイメージがつきまとっている。管理職の罰ゲーム化は本当に起きているのか。30~40代の現役管理職5人が、実態を語り合った。


どこまでするべき?

―― 管理職としての苦労はどんなところにありますか。

Aさん:組織において十分な権限を委譲されていないところですね。たとえばDXにしても、若手はもっとスピーディーに変えるべきだと求めてきますが、上からは「そんなに急には変えられない」と言われ、クッション役です。私の上司は「任せる」と言うものの、最終的には中間管理職の自分には決められない。そのあたりの調整には苦労しています。

歴史の長い会社なので、過去の成功モデルが根強いのかもしれない。

Aさん:「任せる」と言われても十分な権限が与えられていない

Dさん:やっぱり一番は、部下の転職ですね。地方メディアの20代は、自分の20代の頃と違って、東京のメディアなどに転職するケースが本当に多いのです。彼らのキャリアを考えたら反対もできず……。

管理職としていちばん大切にしているのは、組織の成果の最大化です。そこで退職者がポンポン出ると、業績もなかなか達成できませんし、計画も崩れます。小さな会社なので、補充もなかなかうまくいきません。

Cさん:コロナ明けから部署の人員は3分の1くらいになりましたが、業務量は変わらないので人手が本当に足りないです。しかも若手から抜けてしまったので、今部下はほぼ全員年上です。

IT機器の商品開発をしていますが、フルリモートなのでメンバーの体調とメンタルを穏やかに保つように日々努めています。オンラインだと、声の調子などで不調を察知するしかないのですが、その兆候を察知する能力は、管理職になったこの3年でとてもアップしました。

やはりメンタル不調による休業者は周期的に出るので、めちゃくちゃ気を使います。

自分の仕事は到底、定時では終わらず、夕方に一度抜けて、子どもの食事の用意をして、午後9時か10時くらいに仕事に戻って深夜12時くらいまで働いています。

Cさん:部下のメンタル不調に気づくスキルは上がった

Bさん:若手のリーダー育成制度で管理職になったのですが、想像といちばん違ったところは、「こんなにメンバーの人間関係にまで関わらなければいけないのか」ということですね。

チーム内のいざこざで「心理的安全性を作るのがあなたの役割です」と、メンバーから言われてしまって。実際人間関係の問題で、適応障害のメンバーが出たこともあります。どこまでやればいいのか、自分が寄り添いすぎていないかは、よく悩みます。

Bさん:メンバーの人間関係などどこまでやればいいか悩む

Dさん:自分たち氷河期世代って、良くも悪くも上司が怖いからやるところもあったと思います。今は厳しくすると、適応障害の診断書を持ってこられることはありますね。それでも必要なときは厳しく言いますが、自分たちが若いときとはもう厳しさのレベルはまったく違います。

上の世代のやり方が100%いいとは昔から思っていなかったので、ハードさと寄り添いとのバランスのいいところを模索しています。

Eさん:全部自分でしすぎる管理職が多いなと思います。自分も悩んだ末に、ある境界でやらないことを決めました。「そこは僕がやることじゃないよ」と部下にも伝えています。良かれと思ったことが逆効果になることもあり、自分が頑張りすぎると、息苦しくなる人もいるので。

困ったときに相談する相手は

―― 悩みを相談する相手はいますか。

Bさん:会社の制度を使ってコーチングを受けつつ、自分でも勉強しているのですが、そこで知り合った勉強仲間には相談します。あとは社内の女性管理職の同僚です。内部事情も知っているので。

同年代(30代前半)の男性社員に管理職の悩みを話そうとすると、自慢話と取られたり、神経を逆なでしたりするのではと心配してしまって話しづらいので、仕事の話はぼかしています。

Cさん:私は夫も同業なので、具体的に相談します。あとは約10年前に、女性の社員を集めた研修があって、そのときの仲間がだいたい今、幹部職社員になっているんです。当時はなぜ女性だけ集めるんだろうと思っていましたが、今となっては全然業種は違っても相談できる仲間ですね。

Aさん:妻は異業種で、正直、自分よりハードワークなので、家庭に愚痴は持って帰れないですね。直属の上司のさらに上の人に相談しています。

部下を叱れない?

―― 部下に対して厳しく叱れないという悩みが先ほど出ましたが、工夫されていることはありますか。

Dさん:みんなの前で叱るというのはまずしません。厳しく指摘するときには別の部屋に入って個別に話すように徹底しています。はじめにしっかりできている部分を褒めてから、その次に指導することも心がけています。あと、昔話はしないようにすごく気をつけています。やっぱり昔と今は違いますので。

Eさん:自分が若いときは、上司から「公開処刑」みたいなことをされたこともありました。今、絶対にしないです。気をつけているのは、まずゆっくり話すこと。感情的に見えないようにする。そして伝えるべきことを伝え終わったら、違う話に切り替えます。

Dさん:注意や指導をした後は、個別に飯(めし)に誘ったりはしています。金銭的にはちょっと大変ですね(笑)。

Bさん:問題を指摘するときは、やはり理由を説明します。なぜ私がこのことを指摘しているのか。過去にダメだったことを言うのではなくて、目的を伝え、「だからこうしてくれたら私は嬉しい」という、未来に向けた話し方をするように工夫していますね。

会社から欲しい支援は

―― 会社からこんな支援があったらいいと感じることはありますか。

Aさん:評価の公平性は課題としてすごく大きいです。個人的には360度評価は入れたほうがいいと考えています。評価って上司から一方的に言われても、納得できないことは起こるので。

Eさん:ITコンサル時代にアメリカ駐在をしたのですが、コロナ下だったので、リモートでのマネジメントを支援するツールを会社がいろいろ導入していました。遠隔地の人同士の相互理解を促したり、価値観の合う人をチームにマッチングしたり。何もかもマネジャーが解決するのは無理という前提でそうしたツールに投資されていたので、非常に便利でした。

Cさん:マネジメントツールはけっこう、うちの会社は入っています。社員のエンゲージメント調査みたいなものも、とてもわかりやすいです。たとえばほかの部署にすごい部長がいると、それがデータでも見られてそのすごさがわかるんです。

ただ、どうやってその成果が出ているのかがわからなくて。そこについては定量的な分析はなくて、各自で考えるようになっています。

そこをもう少し会社が客観的に分析したら、ほかの管理職もまねができて再現性が出るのではないかと思います。

Bさん:部下に憧れられるような、これからのマネジメントはどんな姿なのかを、会社には一緒に考えてほしいです。

社内の調査で、長時間労働の常態化リスクを、管理職はより強く感じていることが明らかになっています。これを見たあるメンバーが、「長時間労働を勝ち抜いた人しか管理職になれないんですね」と言ったのですが、誰も反論できなかったのです。メンバーには管理職に憧れを持ってほしいと思うのですが、実態をそのまま伝えづらいのが正直なところです。

Eさん:会社のなかでどんなキャリアパスがあって、どんなチャレンジができるのかというのがブラックボックス化している会社がまだ多いと思います。中期的なキャリアパスを部下に見せるための武器が欲しいです。やはり今の若手は、先が見えないと不安を感じることも多いですから。

Dさん:会社の上層部には、会社の状況をオープンにして、ブラックボックス化しないということを強く求めたいです。今でもうちの経営層には、「会社の実情をあまり言わない」という体質が残っています。

今の若い世代って、本当にしっかり考えていて、頼りになると思っています。だからこそ経営情報も含めて、オープンにしたほうが、みんな不安なく、むしろ前向きに働けると思うんです。

Dさん:経営者は会社の実績をもっとオープンに

管理職になってよかったこと

―― 最後に、管理職になってよかったことはありますか。

Eさん:マネジメントは、実はめちゃくちゃ楽しいと思っています。僕も苦労した時期があったので、苦労している人がブレークスルーしたところを見るのが、生きがいだと思います。

Eさん:マネジメントは実はめちゃくちゃ楽しいもの

Dさん:全員に一律「これをやれ」と言う時代もありましたが、一人ひとり「この人にはこれが合っている」というものを見極めたほうが、成果は上がるなと強く実感しています。

僕も相手を信じて待って、本当に伸びていくときに、ものすごく喜びを感じます。

組織は高い目標を持ったほうが、やっぱり成果は上がると思います。甘やかすのではなく。そのほうがみんなそこに向けてグイグイいくんですよね。

Cさん:よかったことは……ちょっとまだないです。もちろん、一担当のときよりも、自分で決めてできるところは、やりがいを持ってはいます。でもそれ以上に、負荷のほうが大きいと感じます。

本当は若い人を育ててみたいですね。これまでチームに若手もいたのですが、すぐにみんな異動を希望するなどして飛び立ってしまいました。人を育てるというのが管理職だと思うのですが、今は上の年代の人たちの退職を見送るケースがどうしても多いです。

Bさん:本質的ではないかもしれませんが、やっぱり話を聞いてもらえるようになったことです。ポジションパワーってあまり信じていなかったのですが、私に対して「若い女性が出てきた」という反応がなくなって。

ちゃんと真正面から話を聞いてもらえるようになったと感じます。だからこそ責任は伴うのですが。

Aさん:管理職としての過去の経験や後悔も含めて、私は部下に、ありのままを伝えているんですよ。以前、勤めていた企業が大規模なリストラをしたことがあるのですが、当時の部下を守れなかった苦い経験があります。そのとき、会社のことを本当の意味で見ていなかった、目の前のKPIだけではなく「中長期で本当に会社のためなのか?」との視点を持って日々の仕事をやらなくてはと、痛感しました。

自分の弱みを見せて、ちょっと頼りないところもある上司だからこそ、むしろ自分が動こうという意識を持ってくれたら、嬉しいですね。

Text=滝川麻衣子