Works 185号 特集 ニッポンの“課長”の処方箋

フィードバックし合う文化が「働きがいのある会社」を作る

2024年09月25日

出張・経理管理クラウドシステムを手がけるコンカー(東京)は、社員全員がフィードバックし合う文化を重視し、そのための研修なども取り入れている。評価時などのフィードバックが管理職にとって大きな負担と指摘されるなか、同社の文化は、管理職にどのような影響を与えているのだろうか。


同社はアメリカに本社を置く外資系企業だが、フィードバックの文化は前社長の三村真宗氏が日本法人で独自に取り組み、根付かせた。2011年に社長に就任した三村氏が即戦力となる人材を集めた結果、社員同士が陰で批判し合う空気が蔓延し、業務にも悪影響が出たという。そこでカルチャーへの共感を重視する採用への転換と同時に風土改革に着手し、今ではGPTW主催の「働きがいのある会社」ランキング、中規模部門で7年連続1位に認定されるまでになった。

CCOとして文化の醸成を担当する田中由香氏は、「働きがいのある組織を持続させるには、社員が高め合う文化が必要。そのための具体的な手法の1つとしてフィードバックがあります」と話す。

三村氏は、専門家の知見に自らの経験や気づきも加えて「フィードバック研修」を作った。全社員が入社時に受講するほか、現在は社外でも受講ニーズが高まり、他社での研修や一般公開のセミナーなども展開する。
「当社は数字だけを追いかけて組織が混乱した過去の経験から、社員の成長をサポートすることに注力するようになりました。その結果、社員の働きがいが高まると、業績にもポジティブな影響が表れることがわかったのです」(田中氏)

伝え方の「スキル」を伝授
人格攻撃にも注意

フィードバックは職位や年齢、部署に関係なくあらゆる人同士で交わされる。良かった点を挙げる「ポジティブフィードバック」だけでなく、課題を指摘する「ギャップフィードバック」も重視しており、年2回、部下や同僚や上司に有意義なフィードバックをしている管理職と社員を1人ずつ社員の他薦で選出し、Most ValuableFeedbacker(以下、MVF)として表彰している。「研修ではポジティブが8~9割、ギャップが1~2割くらいのバランスが理想と伝えています。フィードバックを上手に使えることは、昇進や評価にもプラスに働きます」(田中氏)

研修では、伝え方の難しいギャップフィードバックについて、追い詰めるような言葉を使わず、「こうするといいのでは」と提案型で話す、最初に良い点を挙げて相手の心をほぐすといったスキルも紹介している。人格攻撃やハラスメントにならないよう、「人」と「課題」をきちんと切り分けるといった注意点も盛り込まれているという。

同時に、フィードバックを受け取る力(コーチャビリティ)を高めるための内容もある。
「指摘する側は、相手に受け取ってもらえなかったらどうしようという不安を乗り越え、空中ブランコを飛ぶように思い切ってフィードバックをしています。だからこそ、その気持ちをきちんと受け止めましょう、と話しています」(田中氏)

一方で、「会食はお酒を飲んで盛り上げなきゃ」といった、個人の主観に基づき受け手の信義にも反するようなアドバイスは「受け取る必要はない」ことも明言している。

半年に1度、フィードバックがどの程度実践されているかを調査し、課題があれば対策も講じている。調査では、社員がフィードバックを行った回数、受けた回数のほか「最も有益な指摘をした人」なども聞いているという。

フィードバックの受け手力マップ同社ではフィードバックの「受け手力」も重視し、自身のスキルの現在地と目指すところを把握するためのスキルマップを公開している。
出所:三村真宗『みんなのフィードバック大全』(光文社)

部下を萎縮させない管理職の心得とは

全員でフィードバックし合う文化がある職場では、管理職の役割や負荷はどう変わるのだろうか。営業部長でMVF受賞経験のある中川智海氏は、部下にフィードバックを伝える際、「本人を萎縮させないこと」を心がけているという。「部下が萎縮すると報連相が滞り、管理職も正しい判断ができず業務にも影響が出かねません。悲観的な人に課題を指摘するときは、柔らかい言葉を使うなど話し方を工夫しています」

好感を持ってもらおうと、思ってもいないほめ言葉を無理に並べても「相手に見抜かれ信頼を失うだけです」(中川氏)。ギャップフィードバックの際は「あなたに成長してほしいから、話をしている」ことや、なぜ伝えなければいけないかという理由を伝え、納得感を高めようとしている。

このように上司が部下へ日常的にフィードバックを行っていると、評価の内容についても「いつも言われていることと同じだ」と、理解してもらいやすい。評価の時間的・精神的負担が軽減するのは間違いない。

また、中川氏は「管理職のポジティブフィードバックが有効に機能すると、部下の忠誠心が高まります」とも話す。「仕事の成果は出るまで時間がかかりますが、そこに至るプロセスで良い点を見つけて言葉にすることが、『上司は自分を見てくれている』という信頼につながるのです」

中川氏は社内でも「ほめ上手」として有名で、社員に求められて「ほめ方」の勉強会を開いたこともある。これも社員同士がノウハウを教え合い、成長をサポートし合う文化の表れといえそうだ。

部下が管理職へ課題を指摘
カギは上司の受け取る力

管理職から部下だけでなく、部下から管理職へのギャップフィードバックも盛んだ。前社長の三村氏も、癖で顧客にペン先を向け、見ていた部下に注意されたことがあった。三村氏は在任中、こうした部下の指摘がいかにありがたいかを繰り返し語ったという。

「職位が上がるほど課題を指摘される機会が減り、成長速度が鈍ってしまいます。ギャップフィードバックをもらうことで、新たな成長の余地が生まれるのです」と、中川氏は強調する。自身も部下から「説明のとき、たとえ話を使うとわかりやすくなるのでは」と言われ、話し方を修正した経験がある。

「僕自身はわかりやすく伝えていたつもりでも、部下には十分理解されていませんでした。フィードバックによって、伝え方のレベルが上がったと思います」(中川氏)

こうした場合に大事なのは、上司が部下の指摘を素直に受け入れるコーチャビリティだ。半年ごとの調査では、各マネジャーが発したフィードバックの回数と同時に、受け取った回数も調べている。「フィードバックを受け取る回数が多いのは、耳に痛い指摘をしても聞いてもらえる人だ、と部下に思われていることの表れといえます。フィードバックする力とコーチャビリティ、両方を兼ね備えたマネジャーが理想的です」と、CCOの田中氏は話した。

Text=有馬知子 Photo=今村拓馬

中川智海氏

コンカー
ゼネラルビジネス第1 営業部
部長

田中由香氏

コンカー
チーフカルチャーオフィサー(CCO)