Works 188号 特集 インドの人材力

IT高度人材を日本企業へ インド工科大学に特化した採用スタートアップ

2025年03月21日

日本企業とインドのITエンジニアの架け橋として設立されたTalendyを運営するTech Japan。代表取締役の西山直隆氏に、なぜインド人材を日本企業に送ろうとするのか、日本企業はインド人材とどう向き合うべきかを聞いた。


同社は日本企業を対象にインドのエンジニア人材の採用支援、インド工科大学(IIT)などトップ大学生のインターン支援、GCC(グローバル・ケイパビリティ・センター)の構築支援を行っている。2021年の創業以降、日本の顧客はベンチャーから大手まで150社以上、インド国内のトップエンジニアが1万人以上登録するまでに成長した。

西山氏とインドの関わりは、前職のデロイトトーマツに始まる。アジア統括としてのシンガポール駐在時代、仕事で何度もインドに通った。2015年頃にはインドのAIやIoTなどのスタートアップを日本に呼び、日本企業との事業提携を支援していた。「日本側は大手製造業が中心で、インド市場への進出と人材獲得が目的でしたが、数が少なかった。既にインドの時代が到来して他国の企業はインドとの関わりを深めており、焦りを感じていました」と、西山氏は振り返る。

まずはデロイトの自身のチームに、米経営大学院卒の20代の女性をインターンで採用した。「彼女は何事にも積極的に取り組み、その視点も多様でスピード感がありました」

当初、インド人のインターンに対して懐疑的だった周囲の人々も、1カ月も経つと「ぜひ彼女に入社してもらいたい」と言うようになった。

インド人の強みについて、限られたリソースのなかでできる方法を発見していく「ジュガール」というインドが持つ哲学に加え、西山氏は「“アジャイル”を常に実践している」と表現する。「たとえばシステムにバグが出たとき、日本では問題を検討して上司に伝え承認されて初めて修正に入ります。インド人は関係者の空いている時間に15分程度の会議をすぐに入れて、その場で問題を特定し、修正する。こんな場面は日常です」

他社の話を聞くと、エンジニア不足が課題だった。「優秀なインド人とのマッチングに価値があると考えたことが、起業のきっかけでした」

2019年に日本で、その後コロナ禍中にインド法人を立ち上げた。

会いたい人に会えない ミスマッチという日本企業の課題

優秀なインド人、特にエンジニアを採用したくても、インドで知名度の低い日本企業にとっては不利な状況だ。
IITの場合、採用活動は4年生の12月にスタートする。Day1から、大学が差配して学生と企業の面談がセットされるが、1時間程度の面談で企業は採否を決めなければならない。学生側は内定を受諾した後に他社は受けられないルールだ。
GoogleやMicrosoftなどビッグテックと呼ばれる企業ほど早い日程から面談がセットされ、日本企業はどうしても後半になってしまう。当然、学生と早く面談ができる企業のほうが有利だ。ある日本のベンチャー企業がDay6で面談を行うと、リストに挙げていた学生はすべて内定済みだったという。
企業側は面談前に履歴書を見て、必要であれば試験を行い、会いたい学生を絞り込むが、この事前スクリーニングも日本企業のハードルの1つだ。IITは23校あり、学生のレジュメのフォーマットもバラバラ。学部とレベルを絞るだけで精一杯だ。
「会いたい人に会えていない。また、1時間の面接で採否を決めなければならないので、ミスマッチが起こりがちです。そのため採用しても1年程度で辞めてしまい、IITの学生はすぐに辞めるという噂が立つ。こうした悪循環を断ち切るためにもっと戦略的に人材を採用できる仕組みが必要で、ワンストップのプラットフォームがあったらいい、と考えました」

インターンシップで先手を打つ 職場の魅力も伝える相互理解の場

西山氏が考案したのは、キャンパスリクルーティングよりも早い時期にインターンシップで日本に学生を送り込むことだ。

エンジニアとしてのレベルがわかるプラットフォームTalendyを活用すると、企業は事前に会いたい人を選択できる。5~7月は学生にとっては夏休みで、学生がフルタイムで仕事に取り組み、自社に適した人材であれば内々定を出す。その人材はそこでブロックされる。

「日本企業はインドでまだまだ知られておらず、どんな技術を持ち、どんな社会課題を解決しようとしているのか、入社後どんなキャリア、成長可能性があるかを伝える必要があります。インターンシップは重要な相互理解の場ともなります。そして実際来日して働くと、日本を好きになってくれる学生も多いのです」

GAFAなどビッグテックに就職したいという学生は多い。しかし、新規就労ビザが大卒では取れなくなってきたのに加え、トランプ政権になるとさらにビザの取得が不透明になる。名門大学院に進学するか、GAFAのインドオフィスで働くなどして米本社で働く機会を得るしか道がなくなった。レイオフが多いことも広く知られ、「もっと安心して働きたいという人も多く、日本企業のチャンスも増えていると思います」。

そのためにも日本企業は職場環境などの魅力をもっと伝える必要があるという。たとえば報酬。「シリコンバレーで1000万円もらうのと、日本で500万円もらうのとでは可処分所得は同じ、という話をします。家賃や食費の安さ、食事のベジタリアン対応などもあまり知られていません」

変えるべきこともある。代表的なのは仕事の任せ方だ。「年功的に長期間で育成する企業と、ジョブ型の企業や戦略的にどんどん仕事を与える企業とでは、後者のほうが結果的にうまくいきます」

昇給も課題だ。IIT卒業生のインドでの初任給は平均250万円程度だが、若手人材の昇給率は高く、毎年15~20%程度。5年程度で日本企業に追いつくという。

西山氏も社長として努力している。同社の正社員は20人、業務委託も合わせて40人程度。社員を採用するときには、インド全土に散らばる実家まで出向き親に会社のビジョンや仕事内容、本人のキャリアパスや成長の可能性などを説明している。そのために今、西山氏はヒンドゥー語も勉強中だという。「幼い頃の写真を見たり、家や育った部屋を見て、家族に会うことで、真剣に活躍させないといけないという気持ちになってきます。家族を非常に大事にするインドの人々の信頼を獲得するためにも大切なことだと思っています」

Talendyのダッシュボード

自己紹介動画、履歴書、スキル可視化の画面イメージ全大学の応募者を一元管理、統一フォーマットによる比較、インターン情報の全大学へのPRなど、選考プロセスをデジタル化。独自のマッチングアルゴリズムで最適人材を選択できる。
出所:Tech Japan

Text=入倉由理子 Photo=Tech Japan提供

西山直隆氏

Tech Japan
代表取締役