Works 188号 特集 インドの人材力

インド人材が活躍する日立製作所。発揮している特質とは

2025年03月07日

国内外で多数のインド人材が活躍する日立製作所。多様な人材を包括する組織への変革を牽引しているのは、グローバル人事施策や組織変革を担当する、インド出身のイムティアズ・シャイク氏だ。その変革の道のりは。そこで発揮したインド人の特質とは──。


日立製作所は約90年前からインドで社会インフラの整備事業を展開し、今では日立グループで約4万人のインド人従業員を雇用しています。当社におけるインド人材の活躍の場はインド国内にとどまらず、世界に広がっています。18年以上日立で働き、現在アメリカで日立グループのグローバル人事施策や組織変革を推進している私自身もインド出身です。

優秀な人材はインドに限らず世界中にいますが、彼らが企業を選ぶ際に重視する点は主に3つあると思います。

第1はブランドと組織文化です。日立の場合、製品や技術、サービスだけでなく、社会への貢献という点で高い評価を得ています。特にインドの若い人材は社会貢献への思いが強く、自分はこれから誰のために、何のために働くのかということに強い関心があります。ですから我々の採用面談では、個々のジョブの話から入るのではなく、まずは日立のパーパス、社会における存在意義とは何かを語り、「だからこそ、あなたにはこの仕事でこんな役割を果たしてほしい」という話し方をしています。

組織文化も重要です。日立の場合、常に地に足がついた事業を行い安定性・一貫性があること、社内における判断基準の透明性が高いこと、さらに、日本全体がそうであるように、お互いをリスペクトする文化があることが選ばれる理由になっています。その好例が、最近私のチームに加わった女性メンバーです。彼女はビッグテック出身で、生成AIで世界から注目される企業からも採用オファーをもらっていたのですが、最終的に日立を選びました。なぜでしょうか。それは、彼女にとって日立が自分の“home”であると感じられたからだといいます。当社には派手さはありませんが、働く人は安心して自分を表現できます。一言で言えば、人間味のある職場なのです。

優秀な人材が重視する第2の要素は、成長の機会です。特に人口の多いインドでは、人々は幼い頃から厳しい競争にさらされているため、非常に野心的です。会社を選ぶ際も、ここで自分がスキルを伸ばし、成長できるのかを重視します。

特にZ世代は、早く学んで早く成長したいという欲求が強く、また社会課題に対しても非常に意識が高いです。人口急増に見合った雇用機会がないインドでは、優秀な人材でも国内でよい仕事を見つけるのは難しく、彼らの目は海外に向いています。特に人気があるのは世界中に拠点を持つ企業です。早く成長し成果を出せば、自分が行きたい国や地域に移って働ける可能性があるからです。Z世代はソーシャルメディアを通じて、世界中の情報に触れていますから、彼らの野心に国境はありません。

レモンをもらったらレモネードを作れ 創造的であれという教え


イムティアズ・シャイク氏の写真
日立製作所 Deputy CHRO
イムティアズ・シャイク氏

第3の要素は創造的な職場環境です。私は2007年にシスコシステムズから日立データシステムズ(現日立ヴァンタラ)に転職したのですが、実は転職当初、非常に後悔しました。通勤の際には、シスコの近くを通らないようにしていたほどです。理由は、当時の日立ではITの導入が進んでおらず、仕事のスピードがあまりに遅かったからです。情報がどこにあり、誰が何をしているのかさっぱりわからず、困り果てていました。

でもそのとき、上司が私にこう言いました。「レモンをもらったら、レモンについて文句を言うのではなく、レモネードを作れ」と。つまり、創造的になれという意味です。インド人は何をするにもリソースが足りない環境で育っているので、創意工夫が得意です。私も幼い頃、毎日数時間停電するとか、2日に1度しか水が出ないなんてしょっちゅうでした。ですから、ヒンディー語でいう「ジュガール」、すなわち可能性に懸けてみようというマインドセットが備わっています。

私もそういうインド人の特質を発揮し、これまで誰も手をつけていなかったITを活用したHR業務の自動化に取り組みました。そのとき、日立は私に自由に挑戦させてくれました。やがて私は日立のなかに相互に助け合うネットワークがあることに気づきました。シスコにはデジタルネットワークがありましたが、日立にはヒューマンネットワークがあったのです。そこからは新しい環境に馴染み、うまく仕事を進められるようになりました。

これはほんの一例ですが、日立は変化をいとわず、従業員の挑戦を奨励することで驚くべき進化を遂げました。もちろん完璧だというつもりはありませんが、少なくとも今ではビッグテックやAI関連のトップ企業からオファーが来る優秀な人材にも選ばれるようになったのです。

では、インドをはじめ海外の優秀な人材を活用したいと考えている日本企業が、取り組むべき課題は何でしょうか。

期待のレベルを上げ、探求を奨励し 失敗を許容するマネジメントを

まず働く環境について、日本の組織の多くは縦割りでコミュニケーションが不足していると感じます。日本人は個人の仕事に集中しすぎではないでしょうか。インド人は大抵おしゃべりで、職場でもいろんなイベントをします。そして、それがチームビルディングにも役立っています。日本企業ももう少し外国人材を含めた交流の場を増やすべきだと思います。

マネジメントスタイルの変革も必須です。優れた人材に創造性を発揮してもらうためには、期待のレベルを上げ、探求することを奨励し、失敗を許容するマネジメントが求められます。

最後は言うまでもなく、言語のバリアをなくすことです。日本人はチームのなかに日本人がいると自然と日本語で話すことが多いですが、それでは非日本語話者と効果的に意思疎通することは難しくなります。ビジネス言語が英語になれば、日本企業はもっとグローバルに人材を集め、競争力を高めることができるでしょう。やるべきことは山積みですが、まずはトップそしてマネジャーが、マインドセットを変えていくことが必要だと思います。

Text=石臥薫子 Photo=今村拓馬

イムティアズ・シャイク氏

日立製作所
Deputy CHRO

2007年、日立データシステムズ(現日立ヴァンタラ)に入社。2022年よりDeputy CHROとしてグローバル人事施策、カルチャー・人材・組織の変革を推進。数学の理学士号、経営情報システムの経営修士号(MBA)を持つ。