Works 188号 特集 インドの人材力
インド人リーダーは「スタイルのなさ」が強み 状況に応じ変化・適応する力が育まれる
消費財メーカーや小売り業で経営リーダーとして活躍してきたニヌ・カナ氏。インド経営大学院(IIM)の修了生でもあり、間近で多くの経営者を見てもきた。インド人になぜ経営リーダーが多いのかを聞く。
状況を正しく捉え 必要なことを学んでいく
かつてカリスマ的なリーダーシップがもてはやされたアメリカでも、変化が激しく人々の多様性を重視する現在では、シチュエーショナル・リーダーシップが主流となっています。インド人は昔から多様性が高い不安定な社会環境で育っており、状況に適応することに優れていたため、多くの企業の経営リーダーにインド人が多いのではないかと私は見ています。
たとえばインド人がアメリカで働く場合、インドで成功した戦略は使いません。そのときのアメリカに合った戦略に適応する必要があるからです。「グローバル」という一律の戦略があると思うこと自体が誤りです。
同様に生まれながらのリーダーシップなど存在せず、その状況を正しく捉え、必要なことを学んでいく力こそが求められます。私のIIM時代の同級生、ペプシコ元CEOのインドラ・ヌーイはインドの非常に小さな街の出身で、当時は決して人々を率いるタイプではありませんでした。しかし、状況に応じて必要なことを学び、必要とされるリーダーシップを発揮して前進したことが、彼女のキャリア形成に貢献したのだと思います。
また、IIMのようなトップ・オブ・トップの人材が集まる環境で切磋琢磨しながら学んだ経験も、多様性の高い現代の組織を率いるには役立ちます。
IIMのような場では全員が優秀です。自分が最も優秀だと思っていても、翌日にはもっと優秀な誰かをクラスに発見します。次の日もまた別の優秀な誰かが現れます。このようななかでは決しておごることなく学び続けなければなりませんし、また、常に謙虚であるべきだと自分を戒めます。
そして、最高の結果を出すには、自分1人ではなく優秀な仲間と協力することが欠かせないということを学びます。これも現代のリーダーには欠かせない資質ではないでしょうか。
Text=入倉由理子 Photo=ミラインディア提供

ニヌ・カナ氏
ミラインディア シニアアドバイザー
P&Gやコルゲートなどの大手グローバル企業や財閥系を含む大手インド企業で経営メンバーとして事業を構築、運営、指揮。2006年、インド最大の小売りチェーンであるリライアンス・リテール社長に就任。2022年より日本企業のインド進出・展開支援をするミラインディアでシニアアドバイザーに就任。