Works 188号 特集 インドの人材力

インドの強さはジュガール精神 厳しい環境から生まれた「ありもの」でなんとかする力

2025年02月27日

ウィズグループのCEO、奥田浩美氏はムンバイ大学大学院を修了し、日本で起業家支援などに取り組む傍らインドでも証券会社などへ投資している。30年以上に及ぶ関わりのなかから見えてきた、インド人材の実像とは。


インドでは、パートナーと共同で証券会社やアプリ開発会社へ投資し、得た利益を現地に作ったNPOに寄付して、女子の教育支援と給食支援をしています。インドでビジネスを始めたのは、成長し続ける巨大市場を見過ごしてはいけない、少しでも「勝ち筋」を学び、日本の産業に役立てたいと考えたからです。インド人を単なる「ITのプロ」と見なす時代ではもはやなく、マネジメントなども含めて日本経済の発展のために力を貸してもらうステージに来ていると感じます。

インドのビジネス精神を表す言葉として「ジュガール」という考え方があります。完璧な準備や条件がなくとも、ありあわせのリソースで何とかやってみよう、といった意味です。インドでは1日に何度も停電したり道路が壊れて不通になったりと、アクシデントが頻繁に起こります。そのたびにビジネスを止めていては物事が進まないので、顧客にはまず「できます」と答えて、できる部分を1ミリでも進めようとするのです。欧米企業で実践されている「アジャイル」が、インドでは昔からの文化として浸透していると感じますし、私自身もジュガールの精神を根底に置きながら、事業に挑戦してきました。ただ昨今、ブームのようにジュガールという言葉が聞かれるようになったのは、海外の人が考えるインド人のイメージとして、逆輸入された感が強いです。

そしてインド人には「意見を声高に主張する」というイメージもあるようですが、私の周りのインド人はシャイで自分から意見を言わない人も多い。「インド人」と一括りにできないことも、この国の人材の奥深さです。

優秀な子が一族を豊かに「ドリーム」が生きる社会

インドの強みは何といっても、14億人超という人口から輩出される人材の裾野が広いことです。約50もの言語があるといわれ、宗教や民族も非常に多彩で、異なるバックグラウンドの人が混在してもいます。シリコンバレーのIT企業トップにはインド人が多いですが、一定の学歴と英語という共通言語を持つIT企業は、多様なインド社会よりも、はるかにたやすくマネージできるのではないか、と思わされます。

インドでは、優秀な子どもが海外の企業で高収入を得て、家族や親族を豊かにするという「ドリーム」が今も生きています。このためIIT(インド工科大学)など難関校への進学者が出たら一族を挙げて応援し、留学や就職で海外へ送り出します。本人も、家族を背負って働く覚悟とガッツがあり、修士課程、博士課程に進んでハイキャリアを目指します。起業家の卵が集まるインキュベーションオフィスなども「何かやるぞ」という活気がみなぎっていて、日本のそれとは空気が違います。

インド人の多くは、日本の自動車や家電製品などを通じて日本によい印象を抱いており、ビジネスマナーや製品の完成度を高める力など、日本企業から学ぶ面も多いと考えています。日本企業への就職を希望する人は、今後も一定数は出てくると思います。ただ彼らの多くは転職を繰り返すことでキャリアアップしようとしているので、採用側もそこを踏まえて人材を迎え入れる必要があるでしょう。

Text=有馬知子 Photo=奥田氏提供

奥田浩美氏

ウィズグループCEO

ムンバイ大学大学院社会福祉課程修了。1991年、IT企業に特化したカンファレンス事業を立ち上げ、2001年にウィズグループを設立。2013年にはITの領域から地域課題にアプローチすることを目指した「株式会社たからのやま」も創業した。著書に『ワクワクすることだけ、やればいい!』(PHP研究所)など。