Works 188号 特集 インドの人材力

インド老舗財閥系企業ゴドレジ・グループの人事変革を重ねる

2025年03月13日

ゴドレジ・グループは、創業1897年のインドの老舗財閥企業だ。鍵や石鹸の製造で成功を収め、現在では日用品や家電、工業製品、小売りや建設まで手掛ける。変化の激しい市場のなかで、人事制度はどのように進化してきたのか。


2000年代以降、IoT、インダストリー4.0、ロボティクスとオートメーション、AIなどの新しい技術が製造現場を大きく変えた。人事の視点から見れば、IT革命によってIT業界との人材獲得競争を余儀なくされた。この只中で、ゴドレジの人事制度や人事プロセスは「20年以上にわたって、変革の努力を重ねてきた」と、CHROのハルプリート・カウール氏は話す。
「VUCAという言葉が一般的になる以前から、私たちは不確実で変化の速い時代を予見していました。そうした時代に、我々の会社はどんなエンジニアやリーダーが必要か、どのように育成し活躍を支援していくのか、また先端テクノロジーを経営に生かせるリーダーをどう採用、育成するのかを検討し始めました。私たちはタレントに求められる要件を継続的に見直し、不十分な点を改めてきましたが、今も育成を強化し続けています」

新卒後1年のインターンを経て 要件を満たした人材を正規雇用に

変革を経て、採用や育成のプロセスの現在地はどのようになっているのか。

同社では新卒採用をメインとし、機械系・電気系・土木系・コンピュータサイエンス系に加え、関連する化学分野の学生を中心にキャンパスリクルーティングを行っている。選考は、技術分野の筆記試験、適性試験、英語試験と、人事部と機能・部門のエキスパートによる面接だ。「各分野への深い知識、それを応用する力、意欲や学習能力、リーダーシップ、組織文化への適合性などが評価基準です。合格した人は1年間のインターンとしての研修期間を経て、基準を満たした人が本採用となります」(カウール氏)

1年のインターンシッププログラムは、ゴドレジ全体の事業や技術を理解するための導入のワークショップから始まる。その後、安全・製造・設計・品質などの技術・機能の理解を深めるテクニカルファンクションプログラム、コミュニケーションスキル、チームビルディング、行動規範やビジネス倫理などを理解する行動プログラムが続く。「これらはゴドレジでの働き方を理解するための準備であり、オーナーシップ、責任感、誇りを持ってゴドレジを代表して働くという意識を醸成するものです」(カウール氏)

その後は機能・部門ごとにトレーニングを受ける。たとえば営業やサービス部門では交渉スキルや財務、顧客視点での税金の考え方、品質部門ではゴドレジの包括的な品質改善システムなど、機能や部門が持つ優先課題に貢献するための知識やスキルを獲得することを目指す。

研修の最後は、実際に機能や部門が作成したオリエンテーションプログラムをもとに職場で働く。最初は上司のもとで小さな仕事から始める。取引先や顧客が参加するミーティングに出席し、限定された範囲のタスクを任されるなど、まさにOJTの期間となる。ここで1年間のプログラムが終了する。

「終了時に、全体的なパフォーマンス、リーダーシップや行動を評価し、正規雇用への推薦に進みます」(カウール氏)

ゴドレジの看板
ビジョン、ミッション、価値観を追求していくために、現在、ゴドレジはリブランドに取り組んでいる。

優秀なエンジニアだけでは不十分 経営リーダー育成に力を注ぐ

時代の変化に合わせて、改善してきたことも多い。

若者の意識の変化は、インドでも顕著だ。「私たちの世代のように、1つの企業で長く働きたいという若手は減り、彼らは自分のやりたいことを希求し続けるため、やりたいと思ってもらえる仕事を提供し続けなければ去っていってしまいます」と、ストレージ・ソリューション事業部長のヴィカス・チョウダハ氏は話す。

彼らのニーズに応えるため、戦略的に重要な課題やプロジェクトに取り組む機会を早期に与え、責任を持たせている。また、1年に1度、手厚いパフォーマンス評価を実施する。「これはマネジャーとメンバーの対話の場を提供するもので、メンバーは自身のキャリア展望を話し、マネジャーはメンバーのスキルや能力を高め、パフォーマンスを強化するための能力開発についてフィードバックします。人事は研修プログラムやワークショップ、eラーニングのモジュールの提供を通じて、改善が必要な分野に取り組む支援をする役割を果たしています」(カウール氏)

テクノロジーの進化に向き合うための採用に力を入れる一方で、「ビジネスの複雑性の高まりとともに、合理的・論理的にテクノロジーを活用するだけでは事足りなくなっている」(チョウダハ氏)という。「IQに加えて高いEQを備えた真のリーダーシップへの移行が必要だと感じています」(チョウダハ氏)

リーダーシップ開発の施策の1つが、人材のパイプラインへの積極的な投資だ。技術やマネジメントに関するさらなる教育プログラムを自社で主催し、知識の習得とスキルの獲得ができるように促している。

「プログラムは1年から3年という長期に及ぶものもあります。また、大学院など外部のコースでフルタイムで学ぶことを希望する従業員が、そのために退職するのであれば、私たちはその人がコースを修了したのちに職場に復帰するように常に勧めています」(カウール氏)

高い成果を出せる人材を育むため、やりがいのある複雑なビジネスに触れて仕事の幅を広げる機会を提供している。それらを含め、より高い職責を担い、昇進していく計画的なキャリア開発に努める。このようにして組織のリーダーの人材パイプラインを作っていくことは、内部から組織力を高めることにつながっているのだ。

同時に、人材パイプラインの構築は、事業の生産性を向上させ、従業員のモチベーションや定着率を高めることにも寄与している。

「優秀なタレントは報酬の多寡だけで意思決定をするわけではありません。成長、特に階層的に上がっていくことによって強く駆動されます。私たちは成長のための機会を十分に与え、しっかりとした人事制度や人事プロセスのなかで優秀な人材が経営トップに就ける可能性を高めています。これは入社希望者や従業員にとって重要な魅力の1つだと考えています」(チョウダハ氏)

Text=入倉由理子 Photo=浜田敬子

ハルプリート・カウール氏

ゴドレジ・グループ
エグゼクティブ・バイス・プレジデント
兼 CHRO

ヴィカス・チョウダハ氏

ゴドレジ・グループ
エグゼクティブ・バイス・プレジデント
兼 ストレージ・ソリューション事業部長