Works 183号 特集 Z世代 私たちのキャリア観 自分らしさと不安のはざまで

リブランディングと両輪で組織改革を推進 若手が活躍できるオープンな風土に──オルビス

2024年04月26日

再生に向けてリブランディングを実現するには、組織を変えなくてはならない。
経営の強い意志から始まったオルビスの組織改革。採用・育成を根本から見直し、
挑戦意欲のある若手が活躍する風土へと大きく変化した。

2018年から大胆な組織改革を進めてきたオルビス。きっかけは、売上の伸び悩みが続いたことだった。創業以来、シンプルでナチュラルな商品が支持を集め、業界に先駆けて自社ECサイトによる通信販売を確立するなど、独自の地位を築いてきたが、なかなか新規顧客が獲得できなくなっていた。販売戦略もまとめ買いによる値引きなどのキャンペーンに偏るようになり、収益構造が悪化した。

再生に向けた一手が、リブランディングだ。ブランドとしての提供価値を、年齢に抗うのではなく、本来の美しさを引き出す「スマートエイジング」と再定義し、キャンペーン主体の販売戦略から、消費者目線での顧客価値最大化へとビジネスモデルの転換を目指した。HR統括部部長の岡田悠希氏は、「そのためには、組織のあり方を変えていく必要がありました」と振り返る。

岡田悠希氏HR 統括部 部長
岡田悠希氏

「通販時代の成功体験があったため、既存の勝ちパターンを高速で回していくうちに、自部署を優先するセクショナリズムや挑戦しないシニシズムが、いつの間にか組織全体に広がってしまった。これでは新しい価値を生み出すことはできません。リブランディングと組織改革を両輪で進めていくことは、経営陣の強い意志でもありました」(岡田氏)

セクショナリズムとシニシズムとは逆の「未来志向」で「オープンマインド」な風土を目指し、全社員に求める新たな行動指針『オルビスマネジャースタイル(OMS)』を策定。「ビジョン志向」「自律駆動」など7つの項目を掲げ、各項目につき「意識してほしい行動」と「意識してほしくない行動」も具体的に提示した。

管理職については、行動指針に沿った行動ができているか、3カ月に1度、メンバーからのサーベイを実施している。上司だけでなく、部下も定期的に行動指針を振り返ることになり、意識浸透を図る狙いもある。

採用を変え挑戦意欲のある人材を増やす

大きく変えたのは、採用だ。新たな行動指針にフィットする人材を採用して、組織のなかに増やしていった。

「ところが、35年以上続いている化粧品メーカーですから、志望者のなかにはこれまでの商品が好きで、変わることを望まないタイプの方も多かった。私たちが求める『未来志向』で『オープンマインド』な人材は、選択肢としてオルビスを見ていないので、こちらから積極的に動いて声をかけていきました」(岡田氏)

2021年に新卒入社した石田桜氏も、学生時代はITベンチャーや広告代理店を志望していた。学生側が企業に自分をアピールする求職型の就活イベントに参加したとき、オルビスの担当者から声がかかった。それまでは「社名を聞いたことがある程度」だったが、会社が生まれ変わるタイミングで、若手のうちから仕事を任せてもらえる環境だと知り、入社を決めた。

石田 桜氏新規戦略部 新規戦略グループ
石田 桜氏

新規顧客を獲得するチームに配属され、入社2、3カ月後には担当の代理店を任されました。本当に早くから任せてもらえるんだと驚きましたね。上司との関係も良好です。私が発注ミスをして在庫を抱えてしまったときも、叱ることなく冷静に、一緒になって対策を考えてくれました。私からも、役割分担を変えたほうがチームとして動きやすいなど、日頃から自分の意見を率直に言えます。上司もきちんと受け止めてくれ、意見が反映されることも少なくありません」(石田氏)

「若手の仕事」を見直しバイアスを排除

もちろん、改革を始めてすぐに今のような風土になったわけではない。

行動指針を示し、採用を変えると同時に、人事制度も変えた。一律の階層別研修をやめて自己研鑽のプログラムを導入し、主体的に学び合う社内アカデミー「ORBIS LAB」を立ち上げたほか、年功にかかわらず、成果が報酬に反映される評価制度に改定した。

職場に染み付いたバイアスも徹底的に排除している。スーツをやめてカジュアルな服装に変え、電話応対や契約書のデータ更新など、これまで無意識に「新人の役目」とされてきた業務の分担を見直した。

「主体性のある若手を採用しているので、昔のままではすぐに辞めてしまうとわかっていました。既存の社員も抵抗はあったと思いますが、そのなかでも活躍する若手が出てくると、なるほど、こういうことかと、それに続く人が次々に生まれてきた。2020年くらいから業績にも好転のきざしが見え始め、一気に変わってきた感があります」(岡田氏)

改革も一定の成果が出てきたことから、次のステージでは顧客価値創出を加速するため、2023年末に行動指針をアップデートした。「お客さまを主語にする」「学びに貪欲に」「ひとつやってみる」「相手をもっと知る」など、お客様視点、未来志向、オープンマインドをよりポジティブな言葉として言語化し、社員の意欲と挑戦を促していく。

特に若手は「早く成長したい」という気持ちが強いことから、最初からやりたいことができる環境を整えている。ポジション別採用で本人の希望に沿った配属をするほか、オンボーディングプログラムのなかで業務アサインの内容も丁寧にモニタリングしている。

「ただ、ここ数年でわかってきたのは、ファーストキャリアとして希望の仕事に就きたいという思いは強くても、必ずしもそこに固執しているわけでもないということ。実際に仕事を始めて、今後のキャリアを考えたとき、自分の成長につながるジョブローテーションであれば前向きに受け入れるケースも多いです。大切なのはコミュニケーションだと改めて痛感しています」(岡田氏)

Text=瀬戸友子 Photo=伊藤 圭

岡田悠希氏

HR 統括部 部長

石田 桜氏

新規戦略部 新規戦略グループ

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