Works 183号 特集 Z世代 私たちのキャリア観 自分らしさと不安のはざまで

人材会社はZ世代をこう見る

2024年04月26日

キャリア観が多様化する時代に、若手とどう向き合うかについて悩む上司世代は少なくない。
多くの20代と対話を重ねてきた、人材サービス業界の最前線の3人に、本誌編集長、浜田敬子が聞いた。

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「選べない」への抵抗感

浜田敬子(以下、浜田):Z世代は新卒で就職した直後から転職を考え始めるという話を聞きます。この転職意欲をどう見ますか。

岩崎由夏氏(以下、岩崎):社会人1年目で「よい案件があれば話を聞きたい」という人は多いですね。就活時期から、副業ができる会社かどうかもチェックしています。今の時代、ホワイトな企業も多くて、定時に終わるし、コロナが収束してもあまり飲みにも行かないので、皆さん余裕があるんですね。

寺口浩大氏(以下、寺口):僕は20代の皆さんと友人として話すことが多いんですが、「大企業ベーシックインカム作戦」(大企業の給料やワークライフバランスをベースに得ながら副業する)という話を聞きます。楽したいわけではなく、人生トータルで見て、使えるものは使っておく、という感覚です。

岩崎:副業を希望する背景は金銭的目的もありますが、それよりも危機感です。職場がぬるいから、このままじゃダメなんじゃないかという焦り。じゃあ今すぐ転職するかというと、それはそれでハードルがあるので。

浜田:上の世代を見て焦るという話は聞きます。

寺口:20代と話して見えてくる不安は「選べなくなること」。選ぶことが当たり前の世代で、視聴するものは国内外のサブスク含めて無限のチャンネルがあるし、学校で友達ができなかったらオンラインゲーム上で作ればいい。だから、会社の配属や上司の「選べなさ」への抵抗感が強いですね。
新卒でコンサルの人気が高いのは、将来のオプションを手っ取り早く手に入れられるから。コンサル出身の人が、いろんな事業会社に転職する事例をネットでも目にするから、「コンサルに行ったら分岐が増えるんだ」と見える。

二極化はなぜ?

金井芽衣氏(以下、金井):ひと口にZ世代といっても二極化している気がします。副業マッチングサービスに登録してちゃんとオファーが来る優秀な人がいる一方で、そもそも副業するためのベースの能力やスキルが獲得できていない、自信がないという人もやっぱり多いなと思います。

浜田:その差は何から?

金井:自分で考えて意思決定をした経験があるかどうかだと思います。親から勉強しろ、とにかくいい学校いい会社に行ってと言われ続けて、その通りにして親が敷いたレールだけ走ってきた人も一定数はいます。部活の経験の有無も大きい気がします。上下関係から生じる理不尽なしごきなどは論外ですが、一度自分の思い通りにならないことを経験しているかどうか。

寺口:たしかに最近人事の方と話しても、「やはり体育会系出身者がいい」という声はありますね。部活動や体育会は、シビアにレギュラーを外されるとか、選べないことを経験する稀有なコミュニティです。そういうレジリエンスは企業で求められているのかも。

岩崎:「ひりついた経験」を求める人は、そういう環境に自分から行く。そもそも何をしたいかわからない人たちは、セーフティネット的に選択肢が多そうなところに行く気がします。

怒れないミレニアル世代

浜田:皆さんはZ世代より少し上の世代ですが、違いを感じますか?

金井:私たちは耐える世代ですね。20代の頃は朝7時に会社に行って、夜遅い時間まで働いていました。理不尽なことがあっても、受け流したりかわしたりしながら、いかにいい情報を得られるかと考えていました。

岩崎:自分たちは理不尽にも耐えたけれど、下の世代には怒れないとよく聞きますね。

浜田:ミレニアルはどうして厳しく接することができないのですか?

岩崎:「ハラスメントのリスクがある」というのが建前なんですけれど、やっぱり「嫌われたくない」があるのではと。

寺口:同世代の30代で大企業にいる友人たちのなかには管理職になることに、「今はマジで何のメリットもない」と言っている人もいます。叱られたりハードに働いたりすることは自分たちの糧になっていることもある。でも同じことを部下にやるのは「時代がそれを許さない」。あえてハードなコミュニケーションをするメリットが1つもない。だったらもう「いいんだよ、いいんだよ」と偽りの優しさを提供するしかないと。

岩崎:うちの会社は「平成のマネジメントをする」と宣言しています。必要ならばしっかり叱ります。ただ、そのほうが職場への定着率はいいんです。かつては私も「いいね、えらいね。よく頑張ったね」と褒めてばかりの時期がありました。ただそれが常態化すると、たまに本気で叱ると「もうこんなところでやっていられません!」となる。最初から厳しく接してきた人たちは、叱っても食らいついてくるし成長意欲もあり、その後も継続して成果を出す確率が高い。

金井:本当に求めているのは、成長することなんですよね。そのためにしっかり叱ってもらいたい。重要なのはそこに愛があるか。「本気で思ってくれているんだ」とわかると、応えられる。感情的に怒ってはダメですね。

浜田:そこには敏感なんですね。

金井:「本気であなたのことを考えているよ」と管理職がしっかり伝えられていたら、辞めないです。ただ、組織の階層を増やすとそれが難しくなる傾向はあります。

岩崎:むしろZ世代というより、上の世代の課題なのだと思います。私はマネジャーたちに「きちんと叱ってくれ」と言っています。まともな叱り方を目にしたら、チャットツールなどでDMして褒めます。実は叱るほうも叱るほうでしんどいですし、一時的に若手のモチベーションも下げるなど短期の視点では合理的でないように見えるでしょう。しかし、ちゃんと人が育つ組織でなければ「偉大な会社」になれない。そこはトップが推進するしかありません。

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コロナはどう影響したか

浜田:Z世代のキャリア観に、コロナの影響は感じますか。

岩崎:人と関係を作れる人が減ったなという感覚があります。別の部署の人と飲みに行って仲良くなるような非公式のつながりが少ない。「友達の作り方がわからない」と言うんです。それも無理ないですよね。大学に入った途端にコロナ禍に見舞われ、授業はすべてリモート、サークルにも入れなくて。だから営業でも商品説明はできるんですが、お客さんと人として仲良くなることは苦手な人が多い印象ですね。

寺口:◯◯スキルという名前のついていないものを、やらなくていいと思ってしまう傾向がありますね。「会食で1つネタを準備する力」って、わざわざ名前つけるほどのものでもない。でも、それが実は仕事上で重要ということは、「試合」に出ないとわからない。

岩崎:名前のないスキルって、今まではある種、先輩たちとのやり取りで身につけたものですね。あえて名付けると、「人としての引力」だと思います。いざというときに助けてもらえる力みたいなもの。それが軽視されている。

寺口:身につける必要性にどこかで気づかなければいけないんですが、叱られない時代だと気づける瞬間がない。ただ、ちょっと変わってきていますけどね。

岩崎:コロナも明けて、危機感が表出してきていますね。転職候補者で最近多いのは「出社できる会社に転職したい」です。今はフルリモートだけど、チームで仕事をしたいとか、ちゃんと叱られたいからオフィスに行きたいという人が増えています。オンラインでモニターの向こう側にいる人が叱っても刺さらない。いい意味での感情の揺らぎや波がないと、普通に人生として面白くないんだと思うんです。
うちの会社ではマネジャークラスにコーポレートカードを渡して、1カ月分の予算を使い切るまで、部下と飲んだりご飯を食べたりしてとお願いしています。そうやって普段から人間関係を作っておくことも大事だと思っているので。

企業にできること

浜田:組織としてできることはなんでしょう。

寺口:たとえば、採用の時点で「カッコつけすぎない」こと。あるメガバンクと仕事をしたときに、離職者の声を採用の記事や動画で使っていたのには驚きました。たとえ志望者の母集団が減ったとしても、リアルな部分を見せずに、入社後の期待値調整に悩むよりずっといい。大企業が採用戦略として正直にデータを出し始めていると感じます。

金井:特性に合わない仕事に就いてうまくいかず、「自分なんて価値がない」と思い込んでメンタル不調に陥る人は結構います。採用する企業は適材適所をしっかり見たほうがいいですね。

岩崎:当社では面接のときに必ず、自身にとっては普通なのに他人にとっては違うエクストリームポイントを聞きます。黙々と作業するのが苦じゃないとか、お祭り好きだとかありますよね。それに合わせて配置を決めています。

浜田:せっかく採用の段階で学生時代に力を入れたことをアピールしても、それをまったく生かせない部署に配属される「ガチャ」も離職原因の1つになっていますよね。会社だけでなく、上司や先輩の役割って、この人は何をやらせたら最も成長ストレッチするか、見極めることなのかもしれませんね。コロナはどう影響したかYOUTRUST代表取締役CEO岩崎由夏氏2012年大阪大学卒業。ディー・エヌ・エー、子会社ペロリに経営企画としての出向を経て、2017年に創業し現職。企業にできること

Text=滝川麻衣子 Photo=今村拓馬

寺口浩大氏

ワンキャリア Evangelist

2010年京都大学卒業。三井住友銀行、デロイトを経て現職。「ONE CAREER PLUS」ではたらく人の「新しい地図」プロジェクト推進。

金井芽衣氏

ポジウィル 代表取締役CEO

2013年法政大学卒業。リクルートエージェントを経て創業し現職。キャリア特化のパーソナル・トレーニング「POSIWILL CAREER」運営。

岩崎由夏氏

YOUTRUST 代表取締役CEO

2012年大阪大学卒業。ディー・エヌ・エー、子会社ペロリに経営企画としての出向を経て、2017年に創業し現職。

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