Works 183号 特集 Z世代 私たちのキャリア観 自分らしさと不安のはざまで

学業とスタートアップ両立。草ストローで環境問題に挑む──HAYAMI 大久保迅太、夏斗

2024年04月26日

大久保迅太さん、夏斗さんの兄弟が2020年に設立した「HAYAMI」は、植物由来の「草ストロー」を販売している。
弟は大学院を目指し、兄は米ベンチャーキャピタル(VC)と、それぞれ二足の草鞋を履きながら社会課題解決に挑む。

草ストローは、ベトナム産の「レピロニア」という茎が空洞になった植物を洗浄、殺菌して作られている。無農薬栽培で化学的な薬剤は一切使われておらず、使用後は完全に自然に還せる。

創業メンバーは兄弟と、ベトナム人のミン・ホアングさんの3人。中央大学の大学生だった兄の迅 太さんがバックパッカーとして世界を旅していたとき、飛行機でミンさんと隣り合わせ、意気投合したのが事業の発端になった。ミンさんから草ストローのことを聞いた迅太さんが、夏斗さんに伝えた。

夏斗さんは高校時代、プラスチックストローが刺さったウミガメの動画に衝撃を受け、海洋プラスチック問題に関心を持つようになった。兄の影響で海外を旅行するようになり、若者が社会活動や政治参加に取り組む様子も目にした。東京農業大学に進学したが、「サークルに入って楽しもうというより、社会や自身の成長のためにも何かを成し遂げたい気持ちがありました」と話す。

その後まもなくコロナ禍で大学の講義がオンラインに切り替わり、実家でステイホームするなかで兄弟の会話が増えた。起業のプランが持ち上がったのも、「コロナ禍で空き時間が増えたことが大きい」(夏斗さん)という。

既に約250店で導入されている。
Photo=今村拓馬

草ストローならプラスチックストローの廃棄を減らせて、ベトナムの有機農業を支援することにもつながる。ミンさんにサンプルを送ってもらって飲食店に配ると、反応も良かった。「とにかくやってみよう」(迅太さん)と、起業に踏み切った。

三者三様の得意分野を生かし事業を進めるプロセスを楽しむ

迅太さんも「環境問題には興味があったし、海外でSDGsや社会課題解決の活動の盛り上がりも 肌で感じていた」という。大学時代のインターン先で海外のスタートアップを調査し、20~30代の若者が次々に環境系ビジネスを立ち上げていることを知り、「日本も若い世代が、もっと環境問題に取り組むべきだ」という思いもあった。

「インターン先の先輩が起業する姿を見て、自分もいつかと思っていたし、若いほうがリスクも取れると考えました」

初期投資がさほど必要ないビジネスだったことも幸いした。会社設立に必要な費用は、迅太さんのわずかな貯金で賄えた。

「慎重だが仕事が丁寧」と迅太さんが評する夏斗さんがCEOとなり、試行錯誤しながら会社登記や通関手続きなどを一つひとつクリアしていった。一方、ネットワークづくりが得意な迅太さんは、業務執行社員として新規事業開拓などを担当し、事業を応援してくれる人が少しずつ増えていることにやりがいを感じているという。

2人とも「3人で新しいことに挑戦できるのが楽しい」と口をそろえた。「学生でありながら社会貢献もできるという充実感もありますが、3人で足りない部分を互いに補い合って事業を進めるという、プロセスそのものも楽しんでいます」(夏斗さん)

研究もVCでの仕事も継続 人生と事業の持続可能性を高める

草ストローの単価は6~7円と、紙ストローの2倍を超えるが、設立から3年ほどでオーガニックレストランや企業の社員食堂など、約250店が導入した。使用後のストローは回収し、動物園のペンギンの巣材やヤギのえさにするエコシステムも整いつつある。

夏斗さんは事業の傍ら、2023年には1年休学しメキシコへ留学もし、現地からオンラインで、HAYAMIの会議や取材、営業などをこなした。大学卒業後は就職せずに大学院に進む。研究テーマは、肥料の効果を持続させるために施すプラスチックコーティングを有機物に代替し、環境負荷を軽減すること。事業に結び付く可能性も秘めている。このため「人生にとっても事業にとっても、研究との両立を続けたほうが持続可能性は高まると考えました」

一方、迅太さんは卒業後、大手専門商社に入ったが1年で退職し、アメリカのVCに転じた。「商社では、やりたい仕事に就くまで年単位の時間がかかるうえ、社会課題を解決したいと考える社員もあまりいなかった。20代の大事な時期を何年も無駄にせず、リスクを取って社会貢献に取り組む人と働きたいと思いました」

今は京都でVCの仕事をしている。基本的にフルタイムで働く傍らで、残りの時間をHAYAMIに割いているという。

「VCの仕事を通じて商材などの知識や人脈も広がり、HAYAMIとのシナジー効果も出始めています」

研究や本業との両立にもかかわらず、働き方にはメリハリをつけることを意識している。2人の父親は朝早くから夜中まで働く企業人だった。不自由のない生活を送らせてくれたことに感謝しつつも、父とは違う働き方、人生を歩みたいと強く思っている。「働くために人生があるわけじゃないので、海外旅行などやりたいことにも時間を使っています。脳が緩んだオフの時間に、アイデアが生まれることも多いです」(迅太さん)

「睡眠と食事、運動の時間は確保するようにしています」(夏斗さん)

草ストローの事業については、2人とも「社会的なインパクトはあっても、何倍何十倍という成長はしづらい」と冷静にみている。

「草ストロー以外にも小さなソーシャルグッドを出し続け、そのなかから成長の種が見つかったときが、この会社にフルコミットする瞬間かもしれません」と、迅太さんは語った。

Text=有馬知子

大久保夏斗(なつと)さん

HAYAMI 代表CEO

2000年生まれ。東京農業大学在学中の20歳のとき、兄の迅太さんとHAYAMIを創業。大学時代にはフィリピンの国際ボランティア、メキシコ留学なども経験。現在は大学院入学に向けての準備と経営を両立している。

Photo=今村拓馬

大久保迅太(はやた)さん

HAYAMI 共同創業者 業務執行社員

1998年生まれ。中央大学法学部在学中からバックパックで世界を旅する。アメリカ留学も経験。卒業後に就職した専門商社を1年で退職し、外資系ベンチャーキャピタルに転職。
現在、HAYAMIと兼業している。

Photo=HAYAMI 提供

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