Works 183号 特集 Z世代 私たちのキャリア観 自分らしさと不安のはざまで
意味を考え、納得感を大切にするZ世代
採用プロセスのストーリーに合理性を
経団連の「採用選考に関する指針」が出されたのは2016年。
その後、コロナ禍が襲う。さまざまな変化は、Z世代の学生たちの就活やキャリア感にどのような影響を与えたのか。神戸大学大学院教授・服部泰宏氏に聞く。
2016年、経団連の「採用選考に関する指針」により採用活動開始が遅くなり、企業は短期間で求める人材を採用すべく、採用の入口や手法の多様化を進めました。なかでも学生生活に大きな影響を与えたのが、事実上の採用活動としてのインターンシップが一般化したことです。
1990年代半ば以降、エントリーシートの登場とエントリーのWeb化により、現在でいう「ガクチカ(学生時代に力を入れたこと)」を問う動きが生まれ、学生は就活前に「語れること」を作ろうとするようになりました。2016年以降は大学3年生の初めからインターンの募集が始まるために、学生は「ガクチカ」づくりにもっと前から取り組まざるを得ず、学業に集中するよりもさまざまな学外活動で経験を積もうとしました。
もう1つZ世代の就活に大きな影響を与えたのは、コロナでしょう。コロナ禍に多くの企業の説明会や面接がオンライン化され、対面前提のスタンダードが覆され、企業による違いが生じました。それによって学生たちは、「大学の授業も就活もオンライン化が進んでいるのに、なぜこの会社は対面を求めるのか」「なぜ面接回数は企業によって違うのか」と立ち止まって考え始めました。
現代の若者がオンラインを好むという単純な話ではありません。私のゼミ生はあるメガベンチャーの東京本社で開催される会社説明会に疑問を感じながら参加したところ、オフィスの様子や先輩社員の話にリアリティを感じ、とても満足できたと話してくれました。意味を理解すれば納得するのです。「Z世代」も多様であることは前提ですが、学生時代のさまざまな経験やコロナ禍を経て、個人差を超えて「意味を考え、納得感を大切にすること」は共通しています。大事なことは、採用手法一つひとつを意味付けし、その会社が必要な人材を求める「ストーリー」に合理性を持たせることです。
キャリア観の変化も感じます。私が初めてゼミを持った2009年ごろと比較すると、現在のゼミ生たちは数年後の自らのキャリアの解像度を上げたいと考える傾向が強い。企業選びのポイントは、どんな経験をしてどんなスキルが身につくのか。離職率と退職した人のその後を問う質問が象徴的です。「仕事がきつくて人が多く辞めるかどうか」を聞きたいのではなく、その会社に入った人が社内外でどう活躍しているのかを知りたいのです。多くの会社はそれを隠したがるのですが、学生はその企業で活躍している人、転職した人、起業した人などのリアルな実像に、自らの未来像を重ね合わせようとしています。
ただし、俯瞰的、客観的な「大人」に見えても、現場での仕事経験がないだけに、学生たちは経験や未来像をしっかり言語化できているわけではありません。一方、企業側では採用手法やターゲットの多様化が進んでも、採用基準には相変わらず「主体性」「コミュ力」といった言葉が並びます。まずは企業から求める人材や入社後に獲得できる経験やスキルを言語化し、マッチングの精度を上げていくことが求められるでしょう。
Text=入倉由理子
服部泰宏氏
神戸大学大学院 経営学研究科 教授
横浜国立大学大学院准教授、神戸大学大学院准教授などを経て、2023年4月より現職。『採用学』(新潮選書)を著すなど、採用学のパイオニアとして知られる。
Photo=服部氏提供