Works 183号 特集 Z世代 私たちのキャリア観 自分らしさと不安のはざまで

Z世代理解のキーワードは「不安」「耐え忍ぶ」
ミレニアル世代と明確な差/グローバル・世代比較調査

2024年04月26日

世界的なインフレや戦争など先行きが見えない一方で、テクノロジーは加速度的に進化している――今20代のZ世代が直面するのは、そんな世界だ。
世界情勢や技術の進歩はZ世代にどんな影響を及ぼしているのか。
デロイト トーマツ グループの世界と日本におけるZ世代とミレニアル世代の意識調査から、日本のZ世代の実像を探る。

図1 最大の関心毎

「世界のZ世代とミレニアル世代の特徴として象徴される言葉は『不安』です。インフレが進行するなか、両世代には金銭的な不安がベースにあり、キャリア形成についても不安がある。ただ、日本の状況をつぶさに見ていくと、世界と比べて興味深い差が表れてきます」

「デロイトZ・ミレニアル世代年次調査2023」を分析するデロイト トーマツ コンサルティングのパートナー、小野隆氏は、こう話す。

「生活費の高騰」が最大の関心事に
日本は「身の回りのこと」に関心集中

同調査は2022年11月から12月にかけて定量調査が実施され、日本やアメリカ、イギリスなど世界44カ国のZ世代・ミレニアル世代計2万2856人から、社会課題に対する意識、企業への期待や自身の就業観に加え、働き方の柔軟性を高める企業の施策に対する各世代の受け止め方などについて聞いた。日本の対象者は計801人だった。

まずは、関心事の結果から見ていこう(図1)。「個人の生活関連の関心事」では、「生活費の高騰」がグローバル、日本ともに最大の関心事となった。世界的インフレを背景に、日本のZ世代は36%、ミレニアル世代では43%がこの回答を選び、グローバルでも同様の傾向を示した。いずれの層でも、前回調査からこの数字が伸びている。

同様に、グローバル・日本の両世代で、今後12カ月の景気見通しについて聞いたところ、「悪化する」との回答は、「変わらない」「改善する」などよりも多く、特に日本のZ世代は「悪化する」が41%、ミレニアル世代は54%で、先行きへの不安が強いことも共通点として挙げられる。

一方で、関心事には差異もある。「マイノリティへの差別」を回答に選んだZ世代は、日本21%、グローバル16%で、それぞれのミレニアル世代よりも関心が高い。

また「社会・経済関連の関心事」では、「経済成長」と「所得と富の不平等」を選んだ日本のZ世代・ミレニアル世代が20%前後と、日本では経済関連の回答に注目が集まった。一方で「気候変動」「失業」を選んだ日本の両世代は6~17%だったが、グローバルではいずれも20%以上となっている。

調査担当者の渋谷拓磨氏は、「日本のZ世代は、他国と比べると環境問題やテロリズム、移民問題などについての関心がやや低い一方で、経済成長や所得と富の不平等などへの関心が高いという傾向が見てとれます。日本は他国と比較して治安がよく気候も苛烈ではないため、『このままで将来は大丈夫か』とぼんやりした不安はあっても、現時点では、より『身の回りのこと』に関心が集まっているのではないかと考えています」と分析する。

図2 ストレスの要因

身近なことに関心が行きがちな日本のZ世代は、何にストレスを感じるのだろうか。ストレスの原因を聞くと、日本のZ世代で最も割合が高かったのは「メンタルヘルス」で35%。グローバルの42%とも近い数字だ。2番目に多い回答は「長期の家計」28%で、次いで「人間関係」27%だった(図2)。

現在の勤務先を選んだ理由に着目すると、グローバルのZ世代では「成長・昇進機会」、日本のZ世代では「働き甲斐」の回答率がそれぞれ相対的に高かったという。「日本のZ世代は、グローバルと比べると、金銭的な報酬というより、職場の居心地のよさや自身が楽しく働くことを重視している傾向がある、といえます」(渋谷氏)

図3 ハラスメント被害 図4 日本のZ世代のハラスメント被害の内容

また、日本のZ世代は、「ハラスメントに敏感な世代」ともいえる。直近12カ月で経験したハラスメント被害について聞くと、「被害あり」と回答したZ世代は、日本・グローバルともにミレニアル世代よりも高かった(図3)。ハラスメント被害を受けた際に職場に通報した日本のZ世代の割合も、グローバルのZ世代・ミレニアル世代の回答と近い数値の78%で、日本のZ世代には、ハラスメント被害を受けたら黙ってはおらず、企業に申告しようとする姿勢が明確に見られる。

具体的なハラスメントの内容については、「攻撃的なメール」に次いで、性別やジェンダーに関するハラスメント被害を訴えるZ世代が多かった(図4)。

ミレニアル世代に目立つ悲観的な回答
Z世代の今後は、企業の環境整備次第

図5 ワークライフバランス向上のために期待される施策

日本のZ世代の未来を考えるうえで、見逃せないのが日本のミレニアル世代の姿だ。調査から、日本のミレニアル世代が「耐え忍んでいる」様子が明らかになった。まず、ハラスメントに対する職場への通報率は40%台と、Z世代の半分程度だ。また、従業員のワークライフバランス向上のために、企業がどんな施策をとるべきかを聞いたところ、「業務が硬直的なので施策は不可能」との回答が46%と最多となる一方で、「週休3日制」(20%)、「労働時間の短縮」(17%)、「パートタイマーのキャリア機会の整備」(15%)など、業務改善についての回答は相対的に低く、悲観的な回答が優勢になった(図5)。

ところが、このような状況にもかかわらず、日本のミレニアル世代で早期の離職意向を示したのは13%にすぎず、グローバルのZ世代(45%)とミレニアル世代(27%)、日本のZ世代(40%)と比べると、消極的な姿勢が際立つ。つまり、日本のミレニアル世代だけが異質であり、日本のZ世代はグローバルの両世代と近い傾向を持つのだ。

デロイト トーマツ コンサルティング パートナー、古澤哲也氏は「日本の社会、企業でキャリアを重ねるプロセスで現実と直面し、『きれいごとは言っていられない』と我慢するうちに不満があっても言わなくなる。意に染まないことがあっても転職という選択を採らず、社内で“不活性化”している、という現実があるのではないでしょうか」と推察する。「日本のミレニアル世代は、少し上の世代が経験した経済成長期と、その後の停滞期の狭間にいて、上の世代を通じて日本がまだ強かった時期の雰囲気を少しは感じている。こうした背景があって、会社に対して積極的にもの申すことに慣れていないのかもしれません」

現在、2023年の名目GDPの速報値がドイツを下回って世界4位に転落するなど、日本の先行きは明るいとは言いがたい。このような状況下で、日本のZ世代も年齢を重ねるとともに、ミレニアル世代と同様、「不活性化」することはありうるのだろうか。

古澤氏は「残念ながら、Z世代が不活性化する可能性は高いと思います。会社で生き延びるには、既存のシステムのなかに入っていかなければなりませんが、問題は、そのシステムがZ世代のやる気を失わせるようなものに留まっていることです。戦って既存の仕組みを変えられるパワーがある人は海外に流出していまい、変えられるパワーはない人のみが国内に残り、今のミレニアル世代と同じ道をたどることを危惧しています」と分析する。

その一方で、小野氏は、「私は期待を込めて、Z世代には不活性化してほしくない、上の世代に巻き込まれてほしくない、と思っています。Z世代が、今のミレニアル世代の年齢になる前には、企業のリスキリングやジョブ型雇用、人材流動化などが進み、世の中の仕組みが変わっていく可能性がありますし、変わっていってほしいと願っています」と言い、両氏の見解は分かれる。

この先、優秀で活発なZ世代が離職せずに活躍できるかどうかを巡っては、Z世代が働き続けたいと思うような環境を企業側が整備できるかどうかが、大きな鍵を握りそうだ。

Text=川口敦子

古澤哲也氏

デロイト トーマツ コンサルティング パートナー

Photo=デロイト トーマツ グループ提供

小野 隆氏

デロイト トーマツ コンサルティング パートナー

Photo=デロイト トーマツ グループ提供

渋谷拓磨氏

デロイト トーマツ グループ シニアアソシエイ

Photo=デロイト トーマツ グループ提供

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