Works 183号 特集 Z世代 私たちのキャリア観 自分らしさと不安のはざまで

不透明・不安定がデフォルト
「不安」から常にプランB、プランCを用意

2024年04月26日

20年以上、若者世代の声を聞き、その特性を分析してきた牛窪恵氏は、Z世代が持つ特徴的な価値観をどう考えるのか。

世代論を否定する人は少なくありませんが、その人が生きた時代背景、特に脳科学では14〜16歳頃を過ごした環境がその後の価値観や行動に大きく影響を与えるといわれています。また時代を知るうえでは、Politics(政治)、Economy(経済)、Society(社会)、Technology(技術)の頭文字をとった「PEST」が手がかりとなります。

Z世代は大括りにいえば現在の20代。彼らの思春期は、政治は世界全体でナショナリズムが高まり、経済は常に不透明・不安定であり、社会は「#MeToo」運動などによるジェンダーへの強い意識、環境問題への配慮が求められた時代です。

SNSネイティブ、動画ネイティブともいわれ、デジタルネイティブと呼ばれたその上の世代よりも、世界中の情報を瞬時にフォローできるようになりました。マーケティングの権威、フィリップ・コトラーが『コトラーのマーケティング5.0』(朝日新聞出版)で指摘した通り、デジタルに何歳で初めて触れたかが世代の価値観形成に強く影響を与えるのも事実でしょう。先進国のZ世代に「SDGsへの意識が高く、社会貢献欲求が高い」傾向が共通するのも、世界の紛争や環境破壊、格差や差別の情報が、常にデジタルを通じて身近にあったからです。

また、将来の社会環境が予測しづらいことが前提である彼らは、「不安」を抱えやすいのも特徴です。ただ、ミレニアル世代で強かったリスク回避志向とは異なり、Z世代は失敗しても生きていけるようにプランB、プランCと選択肢をあらかじめ複数用意する傾向があります。「第一志望に内定した瞬間に転職サイトを閲覧する」人が一定数存在するのは、こうした価値観によるものでしょう。

これにはコロナの影響もあります。大学時代や就職間もない時期に誰にも会えない日々を過ごし、自分は果たしてどれだけ認められているのかに不安を覚えていました。すぐに転職しないにしても、次にこの業種に行くならばどんなスキルが必要か、今の仕事でうまくいかない場合にはどんな可能性があるのか、たとえ転んでも起き上がれる態勢を築こうとしているたくましい人も少なくありません。

上の世代との大きな差は、比較的長期的な視点で考えていること。ミレニアル世代は若い頃、現在価値における「節約」を考えましたが、Z世代は今だけでなく将来も値崩れしない、または先々に付加価値が望めるなど、中長期的な「コスパ」を意識します。失敗のリスクがある仕事を任せても、長期的に「今やればスキルが身につく」「今、失敗しておいたほうが傷が浅くいい経験ができる」と伝えることで、挑戦に踏み出す世代でもあるのです。

Text=入倉由理子 

牛窪 恵氏

世代・トレンド評論家

立教大学大学院(MBA)客員教授。経営管理学修士。大手出版社を経て、2001年マーケティング会社インフィニティを設立。著書を通じて広めた「おひとりさま」「草食系男子」などが流行語に。『若者たちのニューノーマル』(日経プレミアシリーズ)、『恋愛結婚の終焉』(光文社新書)など著書多数。

Photo=牛窪氏提供

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