滋賀銀行／中期経営計画と連動した人事戦略をもとに 17項目の重要指標を設定しPDCAを回す

滋賀銀行の2024年度版統合報告書の人的資本開示項目は、ユニークなものが並ぶ。2023年度版からは項目もその数も大きく変化。背景には、経営戦略としっかり連動させるという人事の意思がある。

滋賀銀行が2024年度版統合報告書「SHIGABANK REPORT 2024」で「人事戦略における重要指標」として掲げた項目は、39ページの表の通りだ。「外部企業への出向人数」「管理職候補者の本部と営業店を両方経験した割合」「人材公募制度の活用人数」「自律的にキャリアに挑戦した人数」など、独自性の高い項目が多く並ぶ。「これらはすべて我々が経営戦略を実現するために達成すべきものとして、目標を掲げたものです」と、人事部長の山本茂喜氏は話す。

2023年度版の開示項目は、「一人あたり研修投資時間」「中途採用者の管理職数」「障がい者雇用率」など7項目のみ。大きな進化だ。「2024年度は第8次中期経営計画（以下、中計）の初年度となります。2023年度から人的資本経営の議論は始めていましたが、7次中計の最終年度であったため、人事戦略の重要指標は次年度から始まる8次中計の経営戦略を反映してしっかり検討すべきと考えました。2024年度版で開示項目が大きく変わったのは、そうした背景があります」

人的資本の最大化を目指し 個の能力向上と組織活性化に注力

8次中計では、2023年に代表取締役頭取に就任した久保田真也氏が「変わる」ことを強く打ち出し、「『三方よし』で地域を幸せにする」というパーパスを制定した。このパーパスを土台に、「地域を幸せにする」ための好循環を作り出す価値創造ストーリーを、若手行員を含め1年以上かけて議論したという。「お客さまに資する投資をしっかり行い、経済を拡大しビジネスを活性化させ、地域の稼ぐ力を最大化してさらに投資につなげる。これを実現するための経営戦略の優先事項が『ヒューマンファースト』、人的資本の最大化なのです」（山本氏）

具体的には、個人の能力の向上と組織の活性化に取り組む。個人の能力向上のために注力することの1つが、地域や顧客の価値創造をデザインし、課題解決につなげる能力・スキルを持つ「Design人材」の育成だという。「従来の銀行業務に必要な能力だけでなく論理的思考やマーケティングの知識など、行内外で通用する能力開発の機会、他企業の文化や経営に触れる機会が必要でした。重要指標として、外部企業への出向人数を掲げているのはそのためです」（山本氏）

組織の活性化のためには、多様な人材が活躍できる仕組みづくり・場の醸成を目指している。銀行の業務は、支店は支店、本部は本部というように「サイロ化」しがちだ。「自分で自分がやりたい仕事を選び挑戦する機会を提供することで、個人の志向や適性に合わせたそれぞれのキャリアを作ってほしい。人材公募制度の活用人数、管理職候補者の本部と営業店を両方経験した割合という指標は、自身のキャリアを見極めていくための経験をたくさん積んでほしいという願いの表れでもあるのです」（山本氏）

指標を作るだけでなく、実際に後押しもする。人事部人事戦略グループの松井勇志氏によれば、「やりたい仕事を発見し、成長の可能性を実感してもらうために、人材公募制度をもっと活用してほしい」という狙いから、行内のさまざまな部署を見学できる「ノゾキミ！」という仕組みを導入した。2024年度の参加者は約110名と、社員の意識の変化を徐々に感じるという。

評価指標を銀行業務での成果から マネジメントスキルへ

出所：「SHIGA BANK REPORT 2024」より抜粋
＊上記指標以外に「働きがいと働きやすさ『環境』」がある

人の能力向上や組織の活性化にはマネジャーが変わることも欠かせないと考える。銀行業務で成果を上げてきた人を評価し、昇進させるのが慣例だったため、マネジメントスキルを育む機会の創出や仕組みがあまりできておらず、本人の資質や経験によりカバーしてきた。しかし、多様な人材の成長支援のためにはそれでは限界があることに気づいた。ビジネススクールなど外部研修への派遣数も重要指標として掲げ、真のマネジメント人材の育成に取り組んでいる。「外部研修に手を挙げる人も増えた。ビジネスの環境変化、目の前にいる部下の意識の変化に直面し、強い危機感を持っているのでしょう」（山本氏）

2024年度の統合報告書における人事戦略の執筆者は、松井氏だ。松井氏は2023年まで総合企画部で経営戦略の立案に携わってきた。人事部への異動は、経営と人事の融合を図るという命を受けてのことだ。「経営戦略の実現を見据えたとき、人と組織の課題も明らかになりました。それを乗り越えるためのPDCAを示すのが、統合報告書としてのあるべき姿だと考えます。これを基盤に、丁寧に実行していきたいと思います」（松井氏）

Text = 入倉由理子　Photo=浜田敬子