Works 184号 特集 多様な働き方時代の人権

あらゆる情報を可視化し、フリーランスとフェアな取引を実現するココナラ

2024年07月24日

知識・スキル・経験を売買できるスキルマーケットとして2012年に創業したココナラ。当初は個人間取引が中心だったが、労働力不足や働き方の多様化を背景に、法人向けも急拡大。
発注側と受注側がフェアに取引できる契約プラットフォームを常にアップデートしている。


「ココナラスキルマーケット」のフリーランス・副業を含む会員登録数は423万人(2023年8月時点)。2023年10月にはクリエイターと企業を仲介する「ココナラプロ」、ビジネス代行の月額制サービス「ココナラアシスト」、ITフリーランスと企業の業務委託案件をつなぐ「ココナラテック」、経営や専門スキルのコンサル業務を紹介する「ココナラコンサル」をローンチした。

ココナラスキルマーケットの発注画面を見ると、まずは発注側の入力項目の多さに圧倒される。たとえばパッケージデザイン業務であれば、予算や納期、納品ファイル形式はもちろん、商用利用の有無、著作権の取り扱い、ターゲット層の年代、イメージする色やトーンなどを入力する。

受注側として自身のスキルを出品する場合も同様で、サービス内容や価格に加え、ファイル形式、ラフ提案数や無料修正回数などを入力する。

契約時に提示した修正回数を超える場合には、有料オプションを追加購入してもらう。チャット上でオプションメニューを選択できるため、出品者にとっては交渉の心理的ハードルが下がり、稼働した分きちんと対価が支払われることになる。

サービスカテゴリは現在450を超えるが、カテゴリごとに入力項目を設定している。「見積もり・契約に必要となる情報、トラブルにつながりやすい要因は職種によって異なるためです。多岐にわたる項目すべてを入力することは発注側の負担も大きいのですが、役務内容や契約条件がすべて可視化されることで、双方にとって満足度の高い取引につながると考えています」と執行役員 VP ofProduct Managementの竹下加奈子氏は説明する。

ココナラ画面イメージ契約をあいまいにしないために、著作権の所在や無料の修正回数、納期までの日数などを明示できるフォーマットになっている。また、「見積もり相談」でも、単価やボリューム、予算や期限などをあらかじめ詳細に記入できる。

変わる業務内容やリスクを
ユーザーの声生かし反映

カテゴリごとの入力項目は常にアップデートし続けている。そのために不可欠なのはユーザーの声だ。

「ユーザーからの問い合わせ内容は、毎月プロダクト開発・運営関係者に共有されるほか、サイト内のご意見箱に入力された要望は社内Slackに即時転送され、経営者はじめ関係者が閲覧します。出品者を招き、座談会やインタビューを毎月実施し、今困っていることは何か、どんな機能があれば取引がよりスムーズになるか、業務内容のトレンドの変化や潜在リスクを洗い出しています」(竹下氏)

同社では、ユーザーヒアリングにあたって専任部署を設けていない。マーケティングやCSなど各部門がユーザーと随時接点を持ち、ヒアリングした内容をプロダクトやオペレーションの改善につなげている。

「450超のカテゴリがあるので、そもそもお客さまに聞かなければわからない。私たちが頭をひねるより、実際にお仕事されている方のお話を伺って、シームレスに社内共有し、改善につなげることだと思います」と、ココナラプロ責任者CEO室、国原啓司氏は話す。

その背景にあるのは、同社の企業理念だ。「一人ひとりが『自分のストーリー』を生きていく世の中をつくる」。そのためにはあらゆる場面でフェアでなければならないと考えている。

「創業時には、副業やフリーランスという働き方が現在ほど浸透していなかったので、受注側だけでなく発注側も手探りでした。双方の不安を解消し、トラブルを未然に防ぐために、情報の徹底的な可視化にこだわりました」(国原氏)

多様化し続ける仕事に適正な取引価格を

最近では、大企業がフリーランスに発注するケースが急増している。大企業の副業解禁を受けて、この傾向は加速しているが、その結果、興味深い現象が見られるという。

「これまで発注側と受注側は明確に分かれていましたが、この数年、発注者であると同時に受注者であるという方が増えています。私自身、ココナラで社員として働きながら、副業としてスキルを出品しています」(竹下氏)

今後、この流れはさらに加速すると竹下氏は予測する。

従来の商慣習では、フリーランスや受託者が不利になりやすかった。法改正が進む一方、取引先との力関係に疲弊する働き手も珍しくない。今後、双方の立場を多くの人が経験するようになれば、おのずとフラットな世界になり、お互いがフェアであることを誰もが実感するようになる。そんな世界を目指したいと考えている。

賃金の上昇圧力が高まるなか、適正な取引価格をどのように維持するのか。同社では現在、推奨する取引価格幅をカテゴリごとに設定している。難しいのは価格幅の設定で、高すぎても安すぎても双方の利益を損なう。

「取引価格のトレンドは常に定量・定性の両面からモニタリングしています。モニタリングする情報はカテゴリによって異なりますが、市場相場をチェックするだけでなく、ココナラで実際に取引されている価格分布をカテゴリ別にチェックしています」(竹下氏)

モニタリングを続けるうちに、同一カテゴリ内でトレンドが二極化するタイミングがあるという。そんなときはカテゴリを分割する。たとえばホームページを丸ごと作成するのと、部分的に修正を請け負うのとでは、同じWebサイト製作のカテゴリでも取引価格幅が異なる。その場合、ホームページ作成とWebサイト修正にカテゴリを分け、それぞれ推奨する取引価格の幅を設定する。

「サービスのカテゴリは年々増えていますが、『こういう仕事もあるのか』とびっくりすることもあります。従来の価格相場に引きずられることなく、あらゆる仕事で適正な価格で仕事をしていただけるよう、カテゴリの新設・統廃合を通じて、カテゴリごとの適正価格の維持を図っています」(竹下氏)

Text=渡辺裕子 Photo=ココナラ提供

竹下加奈子氏

ココナラ
執行役員 VP of Product Management

国原啓司氏

ココナラ
ココナラプロ責任者 CEO室