DXを効果的に組み合わせ、人と予算の最適化を図る――草加市役所・道路整備課/維持補修課

2024年12月20日

全国の地方自治体では、特に技術職員の不足が課題になっている。だからこそDXによる業務の効率化は欠かせないが、DXが全ての問題を解決してくれるわけではない。全庁的に各部署が可能な範囲でDXの導入を進めている埼玉県草加市役所では、道路行政にもDXを活用している。市内道路の修繕計画を策定する道路整備課と、住民要望に対応する維持補修課にその取り組みを聞き、効果的なDXの活用を考える。

道路DXのイメージ図草加市役所
道路整備課/山下智美氏・齋田颯真氏
維持補修課/井原圭祐氏・萩原昌宏氏

草加市が活用する2つのDXシステム

私たちの生活に欠かせない道路や橋、トンネルは、長年の使用と風雨にさらされて老朽化するので、メンテナンスが欠かせない。例えば、国土交通省によれば全国には橋梁が約73万橋あり、その9割以上を地方自治体が管理しているという。さらに、建設後50年を経過した橋梁の割合は2022年度時点で約34%であり、10年後の2032年度には約59%に急増することが指摘されている(注)。2013年の道路法改正により、道路の老朽化や大規模災害の発生の可能性等を踏まえた道路の適正な管理を図るための点検が法定された。これに伴い、国土交通省は2014年に定期点検要領を策定して、全国の自治体に通知している。草加市もこの通知をきっかけに「草加市舗装長寿命化修繕計画」の策定に取り組んで道路の適切な管理に努めている。

草加市では道路DXとして、2つのシステムを活用している。一つは路面の劣化状況を確認する車載システム。市販のサービスを活用し、道路パトロール専用車両のスマートフォンに搭載されたGPSと加速度センサーを用いて道路の凹凸を振動で検知し、測定・記録する仕組みである。現在、草加市が管轄する道路は、幹線道路と生活道路を合わせて全長約600キロもあり、東京駅から直線距離で広島県福山市まで到達する距離である。このシステムを導入して予め定めたエリアを順次巡回することで、簡易的ではあるものの、市内全域の路面状態をPC上で把握することが可能になっている。

もう一つは、住民が道路の異常を発見した際に通報する申請システム。市では道路そのものだけではなく、橋梁や横断歩道橋およびカルバートも管理している。これらの故障や破損にも対応しなければならない。そこで草加市は、埼玉県が運用する電子申請・届け出サービスに「道路の補修依頼」という申請項目を独自に設けた。既存の電子申請システムを活用することで、導入コストを抑えた運用ができている。また、電子申請のためスマートフォン等から24時間いつでも通報できるため、異常箇所の早期発見、早期対応につながることが期待されている。

車載システムは省力化に寄与。ただしDXの恩恵はまだ限定的

長寿命化修繕計画を策定し、円滑に進めるためには、市が管轄している全ての道路の劣化状況を把握して修繕が必要な箇所を判断する材料を集める必要がある。しかも、市の管理する道路は開発事業や私道の寄附が増加するなどして延長傾向にある。「これまでのように職員が巡回して、気になる箇所を目視で確認し、補修の優先順位を決めていては到底手が回りません」と道路整備課の山下氏は語る。

現行の車載システムは道路の凸凹振動で検知するシステムだが、「振動で変状を検知できるという点では、修繕箇所の候補を抽出できるため、省力化につながっています」と山下氏。また定期巡回により同一箇所がその都度計測できるため、劣化の進行度が把握できる利点もある。昨年度、このシステムによって検知された対応が必要な道路はおよそ12キロに及ぶ。

しかし、振動の検知は道路の状況を判断する一つの材料に過ぎない。「検知箇所については、職員が改めて確認を行ったり、別途業務委託を発注し、ひび割れやたわみといった詳細を確認・計測する必要があります。仮に搭載車両が増えて検知量が上がったとしても、修繕の必要性を判断するには振動以外の劣化状況を詳細に把握するために他の調査を組み合わせなければならず、最後は目視による確認も欠かせないので、作業の効率化には限界があります」と山下氏は指摘する。

草加市ではひび割れやたわみを計測する業務委託を別途発注しているが、「長距離を走るとそれだけ予算がかかるため、車載システムで振動が検知された部分を中心に効率的に使っています」と山下氏。予算との兼ね合いはどの自治体でも悩ましい問題であり、道路行政に充てられる予算も決して潤沢ではない。道路パトロールなどの車両に搭載できて職員による簡単な操作で修繕の判断に必要な情報を計測できるシステムがあれば、手間を減らすことも可能になる。その点では道路DXの技術もまだ発展途上にあると言える。

電子申請システムは周知徹底が課題。限られた予算と人員を最大限活用

住民が道路の異常を通報する電子申請システムは、まだ利用が限定的な状況にある。「市民の方の要望は年間でおよそ1,800件に上りますが、ほとんどが電話によるもので、電子申請はそのうちの100件にも届いていないのが現状です」と維持補修課の井原氏は語る。申請を受け付ける維持補修課の電話が鳴らない日は皆無で、日々、新規の要望に対応している。電話対応のために職員を待機させておくことは減らしていきたいため、現在はどのようにシステムを周知していくか模索している。

ただ、通報を受けた後の職員の業務はシステムでも電話でも変わらない。システムに通報があれば、職員が電話をかけて改めて状況を確認し、必要な資料をそろえて現場の地図を作成するなどして受付票を作成しなければならない。市民が通報するための手段は広がっているが、職員の業務量が減っているわけではない。

こうした背景もあり、維持補修課では受付票作成の定型業務を全て管理できるシステムへの移行を検討している。しかし、新たな予算計上が必要になるシステムの導入にはハードルもある。「現状でも行えている業務に対して新たに予算を付けようとするものなので、導入の必要性や妥当性を説明することが一番のハードルになります。さらに、ネットワーク環境を管理する部局などとの調整や、予算を確保し続けるための財政状況も踏まえなければならないので、慎重にならざるを得ないのが実状です」と萩原氏。受付処理は職員の基本的な仕事であり、市の予算がかかっているものではなく、市民が直接恩恵を受けるものでもない。このため、システム導入による費用対効果を示すことが難しい課題になっている。

さらに、最近では通報の対応に必要な1件あたりの時間が増えてきているという。「『この辺の道路を直してほしい』といった要望に対して、修繕が必要な箇所を特定して、住民にも安心・納得してもらえる説明をしなければなりません。現地で状況を詳細に確認して、地権者とも話し合い、工事の範囲、時期や方法を決めて、周辺住民にも声掛けをするとなると、それなりの時間がかかります。平均的な工事でも、通報を受けてから現地調査や調整を経て、工事業者と契約して実際に修繕するまで3~4か月を要することもあります」と井原氏。

DXの使いどころ

どの業種でも労働力不足を解消する一つの有効な手段がDXだが、DXが全ての問題を解決してくれるわけではない。さらに、自治体DXにおいては必然的に予算の問題がつきまとう。道路整備を担う道路行政でもそれは同じだ。「限られた予算、限られた職員でいかに効率的に、600キロに及ぶ道路全体を持続的に管理していくか。それが現在、私たちに課せられた命題と受けとめています」と山下氏。井原氏も「要望に適正に対応しつつ、地域住民との信頼関係を損なわないよう努めていきます」と語る。修繕計画の立案にしろ、要望対応における調整や工事の手配にしろ、専門技術を持ち、かつ行政を知る人材だからこそ、住民ニーズと技術と予算などのバランスのなかで知恵を絞って絶妙な解決策を導いている。限られた予算と人員で道路行政を維持していくためには、現地調査や住民とのやり取りが必要となる業務に時間を割くことができるように、定型的な事務はDXも含めて可能な限り効率化していく視点が必要である。

この点、本当に必要なところに行政のリソースを集中できるように、市民に協力できることもある。「例えば要望のなかには道路の異常に関するものだけではなく、『周辺の草が伸び過ぎているのでなんとかしてほしい』といったものもあります。一方で、自主的に住民の皆さんで草刈りを行う地域もあって、とても助かっています」と井原氏。何もかも行政に頼るのではなく、自分たちができることは自分たちの手で解決することもできる。官民で協働する、そうした意識の高まりが道路という生活インフラの安全安心につながっていく。

(注)国土交通省「老朽化対策の取組み」 https://www.mlit.go.jp/road/sisaku/yobohozen/torikumi.pdf

聞き手:橋本賢二
執筆:稲田真木子

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