単純作業担う人材は「貴重な戦力」 働きやすさを軸に業務と職場を変えた――愛宕倉庫株式会社

2024年12月24日

顧客の製品を自社倉庫で保管したうえで検品や仕分け、配送まで一貫して担う愛宕倉庫は、現場作業員の働きやすさを起点に、業務の進め方や職場環境を変えることで、採用難を克服しようとしている。事業開発推進チームリーダーの江原潤氏に、具体的な取り組みや業界全体の課題を聞いた。

愛宕倉庫江原潤氏の写真
愛宕倉庫株式会社 江原潤氏

作業を切り分け「1人1工程」に絞る 効率が15%向上

 
同社は社員数204名で、神奈川県川崎市や埼玉県深谷市などに物流拠点を構える。主力拠点である川崎事業所では、常勤社員14人と「スポット」と呼ばれる非常勤の働き手が作業を担い、繁忙期には30~40人の「スポット」が入ることもある。ただ、特に年末と繁忙期に人を集めづらいことが悩みだという。

倉庫業には倉庫を貸し出すモデルと、同社のように自前で製品の保管から出荷までを請け負うモデルがある。後者の場合、製品の量は変動しても一定数の労働者は常に確保する必要があるが、業界として必要な人手を確保するのが難しくなっていると、江原氏は指摘する。

「倉庫作業につきまとう『きつい仕事』のイメージに加え、賃金水準も最低賃金を少し上回る程度にせざるを得ない。倉庫がアクセスしづらい臨海地域に集中しているという立地のハンディもあります」

川崎事業所も最寄り駅からはバスを使うことになり、通勤時間帯は渋滞も発生するという。こうしたなかで募集のターゲットとなるのが、残業なしでシフトの時間だけ働きたいという人たちだ。荷物量の変動に対応しやすいよう、アプリを通じた「スキマバイト(スポットワーク)」の人材も活用している。

「集まる人の多くは未経験者なので、彼ら彼女らが現場に入ったとき、すぐにできる作業を前もって切り出しておいて渡すことが重要です」

顧客から預かった製品を配送するまでには、箱や製品に傷がないかどうかを検品し、日本語のラベルを貼って梱包するなど3~5の工程がある。1人の働き手が全ての工程をカバーすると、未経験者にとっては覚えることが多過ぎてストレスになり、次に募集を掛けるときの「リピーター」になってもらえなくなる。また作業スピードにもばらつきが生じる。

このためまず業務を一度分解し、無駄な作業を洗い出して整理した。そのうえで、残った作業を難易度に応じてレベル1~3に分類した。さらに未経験者は担当範囲を1人1工程に絞り、熟練者に検品など難度の高い作業を、未経験者にラベル貼りなど単純な作業を振り分けた。すると未経験者のストレスが軽減し、作業効率も10~15%上昇した。

「当社の扱う製品は少量多品種のうえ、箱を丁寧に開けて製品をチェックし再び箱に収めるといった繊細さが求められるため、機械化も難しい。大手と違って自動化技術への投資力も十分ではない以上、今後しばらくは工夫しながら人の力を活用することになるでしょう」

ただ業務改善は簡単ではなく、数年かけて試行錯誤を重ね失敗も繰り返すなかで、ようやく2024年、本格的な導入にこぎつけた。また仕組みとして業務の効率化を進めても、従業員に「早くして」と要求することはしないという。品質重視で丁寧に仕事に取り組んでもらい、いずれ仕事に慣れれば作業スピードは自ずとアップする、という考え方からだ。

愛宕倉庫の写真
 倉庫の目の前は海が広がり、アクセスしづらい臨海地域にある立地のハンディもある。 

目に見える数字を示し従業員を説得 快適な作業環境の確保も重要

 
業務分解に加え、倉庫内のレイアウトの見直しにも取り組んだ。例えば、作業員が倉庫内を移動して必要な製品を集める「ピッキング」は、移動距離が長いほど作業時間も延びる。このため「いかに人を動かさず作業できるようにするか」が工夫のしどころだった。

製品番号のアルファベット順に置く倉庫も多いというが、同社は製品ごとに出荷頻度を分析し、頻度別に商品を配置することで、移動距離を短縮した。

江原氏は同業他社の依頼を受けて、自社の経験を横展開しようとしている。しかし、レイアウト変更一つとっても「たとえ明らかに危険性が高く、人手もかかる方法であっても『これまでのレイアウトの方がいい』という従業員は必ず出てきます」。

このため、レイアウトを変える理由を従業員に説明し、実際にストップウオッチで作業時間を測って「30秒かかった作業が15秒でできるようになった」など、結果を数字で見せた。すると次第に「現場の納得感も得られるようになりました」。

一度に全てのチームの業務を改善するのではなく、「スモールスタート」で一つのチームから始めることも重要だ。「取り組んだチームが目標を達成すると、他のチームも『自分たちにもできるかもしれない』と思うようになり、改善が進みやすくなります」

また江原氏は、生産性にあまりこだわらず、「重いものを持ち上げるのはつらい」「立ち仕事がきつい」といった、現場の意見を広く吸い上げることも大事だと考えている。

「最終的な目標は生産性向上でも、現場の意見を聞くときには幅広い困りごとに耳を傾けることで、どのテーマから着手すべきかといった優先順位も見えてきます」

作業台の高さを数センチ変えたり、コンクリートの床にマットを敷いたりするだけで、働き手の負担が軽くなることもある。川崎事業所では、午前中は立ち仕事なら午後は座り仕事と作業をローテーションし、肉体的な負担軽減にも取り組んでもいる。作業を変えることで労働者の目先が変わり集中力も維持できて、結果的に離職防止や作業効率の向上にもつながるのだという。

さらに同事業所では、真夏や冬も快適に作業できるよう冷暖房を完備し、各フロアに男女別のトイレも設置した。倉庫内に冷暖房やフロアごとのトイレを設ける職場は、まだ少数派だ。

さらに(また使用)就業時間は8時間で賃金も8時間分支給するが、実働は7時間半で午前と午後に15分ずつ、有給の休憩を付与している。

「多くの人が敬遠する単純作業を長時間、淡々と続けてくれる人材は、貴重な戦力でしかない。こうした人たちを尊重し、少しでも幸せに働けるような環境を整えたいと考えています」

「過剰なサービス」が人手不足に拍車を掛けた 今こそ見直しを

 
江原氏は物流業界、特に中小の物流業者の課題として、顧客に求められるままに事業を進めてきた結果、自分たちで考えて現場を改善する力が養われていないことを挙げる。

「顧客のニーズに応えるのは当然ですが、自分たちの業務も再設計しなければ人手不足に対応できない。業務改善の努力もしないまま『労務費が膨らんだぶん値上げをしたい』と顧客に要求しても説得力はなく、かえって顧客離れを招くという悪循環に陥りかねません」

顧客の要請に応えて、あれもこれもと作業を引き受けた結果、コストに合わない「過剰なサービス」がどんどん増えてしまうという傾向もある。これは倉庫作業だけでなく、運送の領域も同じだという。

「中小規模のプレーヤーが多い業界特性のなか、差異化が難しいことから『過剰なサービス競争』が生まれてしまった。人手のある時代はそれでもよかったのでしょうが、人口減少で荷物の総量が減ってもプレーヤーは減らず、人手不足にもかかわらずサービス競争が残って、現場を圧迫しています」

輸送の現場では「ラストワンマイル」と呼ばれるBtoCの配送も、過剰なサービスに陥り運転手不足を深刻化させている。日本は通販サイトで商品を発注すると、早ければ当日中、それも自宅ドアの前まで商品を届けてくれる。消費者にとっては便利な仕組みだが、この結果ラストワンマイルに大量の人が動員されることになった。

「例えばBtoBなら、運転手1人で10トントラック1台分の荷物を運べますが、ラストワンマイルは同じ10トンを数百人の運転手が運ぶという状況になります」

海外では、運送業者が地域のピックアップステーションのような場所に製品を届け、消費者がそこまで取りに行くといった事例も生まれている。日本でも、コンビニ受け取りなどの仕組みをさらに普及させることが、輸送面での人手不足解消につながると、江原氏は訴える。

日本ではドライバーも高齢化しており、30代以下の若手は全体の10%にとどまる。都市部では車を運転しない若者も増えており、将来さらなるドライバー不足に陥る恐れもある。こうした状況も踏まえて江原氏は「人手不足の今こそ、物流業界全体の業務の進め方やサービスのあり方を、改めて見直すタイミングだと思います」と語った。


聞き手:岩出朋子
執筆:有馬知子

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