不足する自動車整備士、業務切り出しと生産性の可視化で働き方を効率化――ネクステージ

2024年11月07日

自動車業界では整備士不足が課題となっていることに加え、一部企業で保険金の不正請求が発覚し業界のイメージダウンも招いた。こうしたなか、中古車販売のネクステージは2023年、現場改革による生産性向上を通じた企業成長へと舵を切った。執行役員整備本部長の長谷川泰司氏と、店舗で整備部門 工場長を務める平間翔氏に、経営側と現場、それぞれの取り組みを聞いた。

「整備士の生産性」を数値化し改善に取り組む 執行役員整備本部長・長谷川泰司氏

長谷川氏写真
――現場改革の背景には、どのような現状があったのでしょうか。

最大の課題は採用難です。私が4年前に今のポストに来たときには既に、思うように整備士を採用できず、車検などの注文を引き受けられないという機会損失が生じていました。同時に整備士1人あたりの労働時間が延び、長時間労働も問題となっていました。

採用に必要な年収基準が上がったため、求人の報酬を引き上げると同時に、管理職の給与も引き上げて入社する人との「逆転」を防ぐ必要もありました。それでも完全な売り手市場のため、定着率は以前とあまり変わりません。こうしたなかで、整備士の生産性を高めることで人手不足に対抗する必要があったのです。

――具体的にはどのようなことに取り組んだのでしょうか。

まずは、前提となる「整備士の生産性とは何か」を定義しました。例えば残業時間が同じでも、取り扱い台数が多い店舗と少ない店舗では効率に差があるはずですし、整備士1人あたりの販売実績には、部品販売など整備以外の要素も含まれるので、生産性が見えにくい。そこで「稼働率」という指標を設けました。

稼働率は労働時間を分母に、どれだけの作業をしたかという整備工数を分子に置いて算出します。工数は、短時間ですむ負担の軽い作業については低く、時間のかかる負担の大きな作業は高く設定されており、例えばオイル交換なら1件につき0.1、法定12カ月点検とオイル交換の同時作業の場合は1件につき1となります。1日10時間勤務して12カ月点検を5件こなした場合、分母が10、分子が5で、稼働率は50%となります。あくまでたとえですが、50%の稼働率をオイル交換だけで達成しようとしたら、50件こなす必要があるわけです。

20時完全退社 長時間労働抑制しつつ稼働率を高める組織に

――稼働率を設定したことで、現場にはどのような変化が起こりましたか。

導入にあたっては、現場から強い抵抗がありましたし、正直に言えば今も不満を持つ人はいると思います。ただ当社は2023年、全社的にインセンティブを廃止して、正しい考えのもと正しい活動ができているかというプロセスを重視した評価制度に変わりました。こうしたなかで整備士にも、稼働率で生産性を可視化し、改善するというマインドが浸透しつつあると思います。導入当初、全社平均の稼働率は40%ほどでしたが、ピーク時には約70%まで上昇しました。

ただ数字を良く見せようとするあまり、実働より労働時間を短く申告する人も出てきました。サービス残業が横行しては本末転倒なので、20時完全退社のルールを設け、残業を抑制しながら稼働率を高めるよう促しました。ルールが完全に守られているとは言えませんが、店舗によっては19時退社の人が増えるなど、残業削減の効果も出ています。

――整備士不足の解消に向け、生産性を高めること以外に組織として取り組んでいることはありますか。

整備士の業務を分解し、整備士の専門性を必要としない仕事は他のスタッフに切り出そうとしています。例えば、当社では以前から障がい者雇用を推進しており、2024年9月時点で約200カウント分の雇用を実現し、雇用率にとして2.8%の実績になります。そこで、一部店舗では障がい者の人たちに、それぞれの特性に合わせて洗車や工場の清掃をお願いしていますし、洗車機の導入も進めています。

以前は主に整備士が担っていた来店客の受付業務も、6年前から「カーライフプランナー(CLP)」に任せています。近々アルバイト雇用も始め、車の移動やタイヤ交換などの作業を担ってもらう予定です。ただ今は、どの仕事を切り出すかは概ね現場の判断に委ねており、これから、組織として基準を設ける必要があります。

このほか長期的には、整備士学校と業務提携して次世代育成にも取り組んでいます。整備士のなり手を増やすことは、当社だけでなく業界全体にとってプラスになると考えています。

――中途採用などで異業種から入ってきた人材の目線は、業務改善に役立ちますか。

私自身、営業担当として入社しており整備士の資格はなく、いわば専門外の人間です。実は約10年前にも整備部門に配属になったのですが、そのときから「生産性」を判断する基準が不明確なことに、違和感を抱いていました。4年前に再び整備部門に来て、改めてそれを認識し、稼働率の設定に踏み切ったのです。このように、外から来た人間だからこそ見えてきた課題はあったと思います。

ただ、そうは言っても現場のマジョリティは整備士です。整備士出身の部門長だからこそ、現場を深く理解し部下の信頼を得られる面もあるでしょう。ですから私のように整備士でない人間が旗を振った後は、現場たたき上げの整備士がトップに立つなど、新陳代謝によって組織を活性化していくべきだと思います。

接客と整備の担当者を分け、稼働率を改善 岐阜21号バイパス店 整備部門 工場長 平間翔氏

平間氏写真

――整備の現場に初めて立ったとき、どのような印象を持ちましたか。

僕が中途で当社に入社した2021年頃、整備部門は担当者制で、1台の車の受付から接客、整備、納品までを1人のスタッフが担っていました。担当者が情報を抱え込むため連絡漏れも多く、管理職は連絡漏れがないかを確認するのも大変でした。整備士なのに接客が多いことにも違和感を抱きました。

また当社では、整備工場内の人員数と技術力から判断し、エンジンの載せ替えのような当社では負担の大きな重作業、作業時間がかかり過ぎる業務などを切り出して近隣の工場に依頼しています。最近の車は電気系統などディーラーでなければ扱えない部分もあり、ディーラーに託すこともあります。自動車修理に関わる地域の工場が連携して、それぞれできることを担っているイメージです。ただ、こうした外注の手配も整備士が仕事の合間に行っていたため、業務時間内では終わらず残業になることもしばしばでした。

――どのように職場を変えていったのでしょうか。

1人の整備士が一気通貫で1台を担当するのではなく、業務ごとに担当を分けました。僕と次席が外注に関わる業務を担当し、工場の選定やスケジュール調整、顧客への連絡などを行っています。さらに2人の「コントローラー」を置き、来店客の誘導や接客、部品発注、作業の進捗管理、さらに整備ミスがないかのダブルチェックを担当しています。コントローラーは、車検のために訪れた来店客に「この部品が摩耗しているので、交換してはどうでしょう」といった提案も行います。

残業削減、19時退店も可能に 製造業で培った視点も役立つ

 平間氏とスタッフの写真
整備工場での平間氏と日本人整備士、外国人整備士との打ち合わせの様子。


――役割を分担することで、職場の生産性は改善しましたか。

整備スタッフが整備に集中できるようになり、稼働率が大幅に改善しました。当店には6人の外国人整備士がいますが、彼らも日本語での接客時間が以前より少なくなり、負荷が軽くなりましたし、定着にも繋がるのではないかと期待しています。

1人あたりの残業時間も平均月10時間ほどに減り、20時退店はもちろん19時に全員一緒に上がれる日もあります。

来店客のいない閉店後に工数を稼いで稼働率を上げる、という考え方もありますが、それは正しい姿とは言えません。残業しなければ稼働率が上がらないなら、それは管理者の業務コントロールに問題があるからで、僕自身に改めるべき点があると考えています。

また僕は前任地で工場長をやっていたとき、稼働率を95%まで伸ばせたのですが、それは僕自身が現場に出張って工数を稼いでいたからでした。長谷川に「仕組みとしては正しくない」と諭され、誰が管理職になっても変わらない仕組みをつくるべきだと学びました。

――平間さんご自身が中途入社ですが、社外でこれまで培った視点や考え方で、今の仕事の改善に役立った点はありますか。

僕はタイヤメーカーや不動産業などを経て当社に入社し、整備士資格は持っていません。当初はオイル交換のような簡単な作業を、一から教わるところからのスタートでした。当店の整備部門のスタッフは現在14人で、僕と次席者は整備士資格がありませんが、現場で整備作業に従事するスタッフは全員が有資格者です。そのため僕は現場を管理・コントロールすることに専念し、稼働率を向上させることに注力しています。

そして、稼働率の向上に役立っているのが新卒で入社したタイヤメーカーの経験です。その会社では、作業効率を最優先し、いかに無駄を省くかという製造業の考え方を叩き込まれました。この視点は今、現場に効率的な仕組みを取り入れ稼働率を高めることに役立っていると思います。

――誰もが課題を把握できるよう「稼働率」という数字で可視化を進めることで、課題解決の進捗を確認できる取り組み、そしてそれを「チームワーク」で改善できる体制の構築が進んでいるのですね。ありがとうございました。


聞き手:岩出朋子
執筆:有馬知子

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