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美容師のライフステージに寄り添う多様な「働く」の形を提供
「雇用の創出」で地域社会へ貢献することを標榜しているラポールヘア・グループは、従業員の99%が女性という美容室グループ。美容師の人材不足と言われているなか、人材の安定的な確保・維持を続けている。同社の取り組みについて、取締役CIOの渡邉さやか氏にお話を伺った。
-御社では、働く人がさまざまな働き方を選べるそうですが、多様な働き方を提供することにはメリットがありますか?
今、日本中が深刻な人材不足になっていますが、当社では新規店舗のオープン時にまったく人が集まらないということはありません。また、オープン後の店舗でも離職率がとても低くなっています。入ってくる人はいても、辞めていく人がとても少ない状態です。
その大きな理由が、長く働けることだと思います。当社には、40代になって転職をしたくない、家の近くで働きたい、若い人が来るイメージのある美容室で働きにくいという方が多く転職してきます。当社は、70歳を超えても働いている方もいらっしゃいます。
-具体的には、どのような働き方を提供しているのでしょうか。
当社には業務委託A、業務委託B、業務委託C、パート、社員という5つの就業形態があります。業務委託Aは美容室のオープンからラストまでのシフトとなります。ほとんどの店舗が9時から18時、もしくは19時の勤務となります。業務委託Bは、Aと同じくオープン時間からですが、ラストより1時間ほど早く上がることができます。業務委託AとBは、土日出勤もあります。業務委託Cは土日出勤はなく、月の出勤日数が10日以下となっています。
業務委託AとBに関しては、基本的に土日を含む月23日以上の出勤としていますが、その代わり最低保障を設けています。ただし、23日未満の出勤または土日休暇を入れて最低保障なしという雇用形態を選ぶ方も多くいらっしゃいます。
業務委託Cは複業の方向けの雇用形態で、最低保障がありません。主に、メインの仕事があるけれど隙間時間で働きたいという方や、自分で美容室を経営しているけれどうちでも働きたいという方のための雇用形態です。
パートは9時から15時までのシフトとなります。パートの場合は、扶養範囲内で働きたいという方がほとんどです。
社員は、業務委託Aとほぼ同じような働き方となっています。残業はほとんどありません。当社で働いている方は99%が女性で勤務地の変更を希望しない人が多いため、本人の意思に反した転勤もありません。
-ここまで就業形態を細分化しているのは、どのような理由があるのでしょうか。
従業員のライフステージに合わせた働き方を提供したいという想いがあります。パートは、基本的にお子さんが小さい方向けの雇用形態です。15時以降は家にいたいという方、扶養範囲内で働きたいという方に適しています。
業務委託AとBで働いている方も、お子さんの年齢や家族構成によって働き方は異なります。お子さんが大学生などで手を離れているという方や、お孫さんがいるという方は業務委託A、お子さんが中高生くらいで夕飯の時間までには帰りたいという方は業務委託Bを選択している人が多いと思います。
そのため、年齢が高めの方が業務委託A、お子さんがちょっと大きくなってきたという方が業務委託B、お子さんが小さい方がパートという感じです。
-経営サイドとしては、多くの雇用形態があると管理は煩雑になると思いますが、なぜこのような仕組みにしているのでしょうか。
当社の経営者は、大手美容室グループの取締役でした。そのときに、リクルーティングがうまくいっていなかったようです。その理由として、夜遅くまで働かなければならない、土日に絶対出勤しなければならないという働き方が根本にあるという実感があり、このままではリクルーティングが難しいと感じていたのです。
そこで、どんな家族構成、ライフステージであっても、働きたい人が働ける環境を作ることで、美容師の雇用を増やそうと提案したそうですが、マネジメントの面や利益のことを考えると難しいということで実現しませんでした。
そこでラポールヘアを創業する際には、地域貢献をしつつ、誰もが働ける働き方を導入しました。
-さまざまな働き方の人がいると、体調不良や家庭の事情でのシフト変更なども頻繁に起こると思います。そのあたりは店長さんなどが管理されているのでしょうか。
当社は店長制を設けていません。会社組織としては、社長と取締役である私がいて、あとは店舗という形でフラットな状態となっています。そのほか、業務推進本部という事務を担当する部署を2人のパートスタッフにお任せしています。
シフトに関しては、基本的には各店舗で調整したものが上がってきます。調整しきれない場合は、業務推進本部のパートスタッフが入ったり、私や社長が入って調整することもありますが、ほとんど上がってきたシフトで問題ありません。
シフト調整にはルールを設けています。シフトの希望を出す順番を、社員、業務委託A、業務委託B、パート、業務委託Cという形にし、それぞれ絶対に休みたい日をシフト表に記入していきます。業務委託Aが一番長い時間働いているので、優先順位が高いということはマニュアルで決めています。それを全員が理解した上で、現場で調整していきます。
また、従業員の99%が女性ということもあり、子育て経験がある人も多いので、「この日運動会じゃない?」というような感じで、人間関係ベースでそれぞれ調整しています。
経営サイドとしては、美容室のセット面(鏡とイスのセット)の数だけスタッフがいることが理想ですが、毎日の最低スタッフ人数はセット面マイナス2にならなければいいという形でシフト調整をお願いしています。オープンしたばかりの店舗では経営層がヘルプで調整に入ったりするときもありますが、基本的にはマニュアルを理解したり、人間関係が構築されていくと、店舗側のシフトで問題はないため、それほどたいへんではありません。
また、当社では基本的に予約を受け付けていません。美容師に急に休まなければいけない事情が生じたとき、予約を受け付けていればお客様にも迷惑をかけますし、働く方も無理をせざるをえません。多様な人材が働き続ける仕組みとして、予約を受け付けないという選択をしているのです。
-ライフステージが変われば、必要な働き方も変わります。勤務形態の変更は可能ですか?
基本的にはOKにしています。最低期間に関しても特に決めていません。業務委託契約に関しても、1カ月で変更することも可能です。
ただし、業務委託からパートに変更する人はほとんどいません。シフトの優先順位は業務委託A、業務委託Bが高いので、業務委託のスタッフを優先した結果、パートスタッフは希望日数入れない月もあります。すると業務委託に変更しようという人はいます。こちらとしては業務委託になっていただき、より長い時間働けるようになってもらう方がありがたいので、そうした希望を歓迎しますし、現場もうまく回っています。
-幅広い年齢層の方が働いていらっしゃいますが、そのメリットを感じることはありますか?
土日のシフトなどは、幅広い年齢層だからカバーできているという面はあります。地方に行くほど、土日は子供の習い事や部活などがあり、働けないという方も多くなります。しかし、土日どちらかなら家族に頼めるというように、それぞれがカバーしあっていると思います。
また、当社の美容室はキッズルームがあるので、お客様のお子さんは基本的には未就学児のお子さんをお預かりの対象としていますが、従業員に関しては小中学生のお子さんを連れてきてキッズルームを使用することも認めています。
-女性を取り巻く社会的・文化的な課題のなかで、今一番解決したいと思われていることは何でしょうか?
取締役会で議論になることは、「いかにみんなが稼ぎたいと思ってくれるか」ということです。これは自分たちの会社の利益を増やしたいというわけではありません。
日本の地方の女性にありがちなことかもしれませんが、自分は稼ぎたいと思っていても家族の都合でパートや業務委託Bで働いているという方も多いですし、業務委託Aでも手取りで40万円、50万円を目指すという人はあまりいません。働く時間を抑えるだけでなく配偶者の転勤もあるし、子供が小さなうちは保育園や小学校から子供が帰宅するときは家にいるべきという意識もあります。さらに地方だと、土日は習い事と部活に車で送迎しなければいけないことも多く、土日は働けないので最低保証のない働き方を選択するケースも結構あります。おそらく潜在的に、女性が育児をほぼすべて担わなければいけないという意識があるのだと思います。
そこが少しでも変わってくると、あるいはパートナーといいコミュニケーションが取れていると、今よりもフレキシブルに好きな仕事ができるのではないかと思います。美容師は資格が必要な仕事ということもあり、この仕事が好きという人が多い職業です。なので、自分の好きな仕事で、家族とも自分とも調整しながら、キャリアを築いてもらえたらいいなというのは強く思います。