女性が仕事を通じて、強みと持ち場を見つける機会を作る――株式会社きらり.コーポレーション 塚本 薫氏

2024年10月04日

女性が自分のキャリアパスを描き、そのために仕事で一歩挑戦しようと思うためにはどのようなきっかけが必要なのだろうか、そのようなきっかけをどう増やしていくべきだろうか。女性の就労支援に取り組むNPOを経て、熊本県で「きらりと輝く人を育む」ことをミッションに掲げ、中小企業の経営支援や起業支援、女性就業支援、ITなどの職業訓練に取り組む株式会社きらり.コーポレーション代表取締役の塚本薫氏に話を聞いた。

塚本氏の写真
株式会社きらり.コーポレーション代表取締役 塚本薫氏

変わりつつある企業の意識。今、残される課題とは

――この10年を振り返って、地域で女性が働くことを巡ってどのような変化がありましたか。

大きく変わったのは企業の意識だと思います。熊本県は、企業のトップが社員の仕事と、結婚や子育て・介護などの生活が充実して両立できるよう応援することを宣言する「よかボス宣言」を推進しています。過去にはまず行政が働きかけて経営者の宣言を促すような流れもありましたが、今は自ら宣言する企業が増えており、県の「よかボス」認定を受ける企業は、今や約1000社以上に上ります。10年前にも人材不足はありましたが、そういいながら、本当に女性が活躍できる環境に向けて具体的なアクションを取れる企業は多くありませんでしたので、そこに大きな違いを感じます。

その一方で、女性が働くことに関わる問題が全て解決しているとはいえません。今、地方では夫だけの収入では生活が成り立たず、妻が働くことはごく当たり前になってきています。しかし、女性は子育てのために家計補助的な形で働くというのがまだ一般的で、女性が自分のキャリアパスを描いたり、本当にやりたい仕事を目指したり、というところにはなかなか至っていないと考えています。家計補助的に働くことが必ずしも悪いといいたいわけではありません。でも、本当は違う働き方をしてみたいのに、初めから無理だとあきらめている女性も多いのです。

――なぜそのような状況が生じているのでしょうか。

子育ての責任を必要以上に感じ、子どもに手をかけすぎている女性は多いと思います。その選択は否定しませんが、いったん、それが親としての安心感のためではないか、子どもが自立する機会を奪っていないかを振り返ってみることも大切だと思います。子どもに手をかけすぎれば、子どもが自立する機会を奪ってしまうことにもなりかねません。また子どもはいつか成長し離れていきます。いざ女性が働こうと思ったとき、働いていなかった期間の長さに苦しむケースもたくさん見てきました。だからこそ、女性が子ども以外のことにも目をむけて、自分のキャリアに向き合い、その姿を見て子どもたちもより自立していける、そんな循環を作りたいと思っています。社会のありようが大きく変わっていくこれからの時代は、女性が社会とつながり、その変化に適応していくことが、子どもたちが変化に適応する力を育むためにも大切なのではないでしょうか。

ここで付け加えたいのは、女性たちが育児などのために仕事の手を抜いているわけではない、ということです。育児のためにパートとして働きながら、許される時間で100%、120%の力を発揮しようとしている女性が多いのです。しかし、多くの会社はそれを正当に評価できておらず、女性自身も「働かせてもらっているだけでありがたい」と、自分の仕事の価値や会社への貢献を明確に認識できてないケースがたくさんあります。

仕事を通じて自分の確かな強みを見つけることが、女性の次の挑戦を支える

――何があれば、女性がこれからのキャリアを考え、一歩踏み出すことができるでしょうか。

仕事を通じて、働くことに関わる居場所を見つけることが大事です。具体的には、自分の確かな強みを見つけること、その発揮によって「ここで自分は必要とされている」と実感することが必要です。しかし多くの人は、単に「仕事をする」だけでは、なかなか自分の強みに気づけません。そこで当社では、仕事を通じて働く人の強みを見つけることに徹底的に向き合っています。10年前からOJTの場として、コールセンターやグラフィックデザイン、ウェブデザインなどの領域でビジネス・プロセス・アウトソーシング(BPO)を担う別会社を作り、そこでソフト面・ハード面での育成や実際の仕事の様子を見ながら個人の強みを見出すことを行っています。今年度、きらり.コーポレーションに吸収しました。

きらり.コーポレーション社員総会の写真
もちろん最初は、コールセンター業務を通じた電話でのコミュニケーション力や、テキストでのコミュニケーション力など基本的な力の育成から始めます。その後は様々な仕事に挑戦してもらいながら、アプリケーションを使った業務効率化に優れているのか、数字の分析が得意なのか、アイディアを生み出すことに長けているのかなどの観点から、一人ひとりの強みを見極め、個人別にその強みをプロットしていきます。

一人ひとりが強みを自覚するためには、それを伝えていくプロセスも欠かせません。そこで会社では、会議で一人ひとりの挑戦を発表する時間を設けており、そこで実際の仕事の成果に照らしながら、「やっぱりXXさんはこれが得意だよね」と、繰り返し伝えます。ジョハリの窓という心理学ツールがありますが、個人が自己実現をするためには、相手から見える自分と自分が認識する自己をできるだけ早く一致させていく必要があります。そうすることで、「そうか、自分はこれができるんだ」「自分はこんなふうに社会に貢献していける人間なのだ」という認知を高めていくことを目指しています。

自分の強みを本当に理解できると、人はその強みをどのように生かそうかと考えられるようになります。そのように考えられるようになった女性には、当社で「無茶ぶり」とも呼ばれる、より新たなチャレンジの機会を提供するようにしています。もちろん本当に無理な仕事を振るのではなく、その強みを生かすような新しい機会です。このような機会を経て、自分の強みを生かしていきたいという思いから、夫の扶養を超えて正社員になろうと決めた女性が、会議でその挑戦について発表してくれたこともありました。

一律の学びは非効率。それぞれの強みにあった学びの重要性

――ITなどの職業訓練を行っていますが、リスキリングは女性が自分の強みを生かして働く上でどのように役に立つのでしょうか。

多くの企業は高度なシステムを構築したいというより、いまだに紙が飛び交いヒューマンエラーの原因となる状況を克服したいと考えています。しかし借り物のツールを入れただけでは現場が使いこなせず、仕事の効率化も人材不足の解消もままならない。そのような企業でアプリケーションの知識を持つ女性が、業務フローのどこに問題があり、何と何をつなぐと業務効率を上げられるのかの仕様を検討し、業務フローの改善を担う可能性は大いにあると思っています。実際に、パートとして働きながらアプリケーションを使用した業務改善に取り組み、10人で行っていた仕事を1人でこなしている女性もいます。

もちろん、そのような役割を担うためにはアプリケーションの知識だけがあればいいというわけではありません。むしろ問題の構造を把握し、解決するためのアイディアを構造に沿って人に伝えるような力も重要です。物事を動かすためには自分と相手の間に共通の認識を作ることが必要で、それを作るためにもエビデンスは何か、なぜ必要なのかを自分で理解し伝える力も併せて身につける必要があると思います。

一方で、実際に何を新たに学ぶべきかは、その女性が何に強みを持つかによっても変わってきます。例えば、デジタルマーケティングはコミュニケーション力というより、数字のセンスや分析力に強みがある人が向いていますし、クリエイティブに強い人はデザイナーとして素材を作る方が向いている。だからこそ、あらかじめ学ぶべきものを決めるのではなく、女性自身が自分の強みを把握していること、それに合った学びを選べることがとても大事です。

女性が強みを生かせる就業機会の創出へ

――女性が自分の強みを生かせる就業機会はどうしたら増やせるでしょうか。

女性とその人の強みを生かして挑戦できる就業機会をつなぐため、職業紹介の免許も取得しました。2024年8月1日から紹介を開始し、伴走しながら定着支援を進めることにチャレンジしようとしています。既にいくつかの企業を回っていますが、定型的な仕事がAIに代替されていく時代を見据えて、新しい人材にぜひやってほしい仕事とは何かを企業に考えてもらっています。当初マニュアル通りに働く人を採用したいと考えていた企業に、紹介できる女性のスキルを伝えたり、同社にとって本当に必要な人材は何かをじっくり話したりするうちに、企業が求める人材像が大きく変わることも目にしてきました。企業と女性のミスマッチを防ぐために、単に接点を結ぶだけでなく、仕事の設計にまで入り込んで支援していきたいと考えています。


聞き手・執筆:大嶋寧子

大嶋 寧子

東京大学大学院農学生命科学研究科修了後、民間シンクタンク(雇用政策・家族政策等の調査研究)、外務省経済局等(OECDに関わる成長調整等)を経て現職。専門は経営学(人的資源管理論、組織行動論)、関心領域は多様な制約のある人材のマネジメント、デジタル時代のスキル形成、働く人の創造性を引き出すリーダーシップ等。東京大学大学院経済学研究科博士後期課程在学中。

関連する記事