ITスキルを活用し、業務改善を提案 企業の「本質的なニーズ」をくみ取る――NPO法人ウィズワーク・ラボ 角香里氏

2024年10月24日

徳島市のNPO法人「ウィズワーク・ラボ」は、子育て期の女性たちが孤立せずに自分らしく働けるよう支援してきた。子育てしながら働く女性が、希望に合ったキャリアに踏み出すには何が必要だろうか。また企業はこうした女性たちに、どのような役割を求めているのだろうか。角香里理事長に話を聞いた。

角香里氏の写真特定非営利活動法人ウィズワーク・ラボ 理事長 角 香里氏

ICTスキルとワークシェアで、母親の在宅勤務を可能に

――ウィズワーク・ラボのこれまでの歩みを教えてください。

2014年、母親や子育て支援に取り組む人たちがNPO法人「チルドリン徳島」を立ち上げ、「子育て期も楽しみたい・安心したい」「働くことを通じてやりがいを感じたい」という母親のニーズに応えるために「ICTママ」という仕組みを作りました。在宅ワークに必要なICTの知識やデジタルスキルの講座を行い、例えば、自治体や企業に依頼されたウェブサイトの移行などの仕事をママたちがチームで実施します。ワークシェアすることで、母親たちが助け合って仕事を完成させ、子どもの病気などの際も協力し合うことで納期や品質を担保できるようにしたのです。

その後は県や市のテレワーク事業を受託したことをきっかけに、企業に対する柔軟な働き方の推進に力を入れてきました。また、講座の受講希望者も母親だけでなく、シニア層や第2新卒くらいの若年層まで多様化しました。このため2024年4月、組織名をウィズワーク・ラボへ変更し、支援の幅を広げました。働き手の呼び方も「ICTママ」から「ワーカー」に変えています。

――どのような事業を展開していますか。

県から受託しているキャリア支援の講座では、在宅勤務を始めたい人向けにテレワークの基礎や契約のルール、確定申告の方法といった講座を提供しています。さらにステップアップしたい人には、生成AIやノーコードアプリの作り方などのITスキル、就職活動で効果的に自分を売り込むプレゼン方法の講座なども展開しています。企業などから仕事の発注を受けた際は、必要なスキルを備えたワーカーに情報を提供して手挙げしてもらうこともありますし、仕事内容に合うスキルを持った人がいない場合、新たに研修することもあります。

知恵と経験生かし業務遂行 先回りして顧客ニーズに応える

――女性たちに求められるスキルは、時代とともに変化していますか。

私がICTママ1期生として学んだ頃は、自治体のホームページ制作を20人ぐらいでシェアするといった労働集約的な仕事や、製品モニターとして企業へ意見を出すといった「主婦感覚」を期待される仕事がメインでした。しかし今は仕事が多様化し、秘書業務といったバックオフィス的な業務も増えています。ワーカーも、社長のスケジュールを把握し先回りして予定を調整したり、「出張なら航空券を手配しましょうか」と逆提案したりする力を求められるようになりました。

また地方の中小企業は人件費が限られるため、経理をしながら取材や写真撮影、SNSでの情報発信といった広報的な仕事もこなせるなど、広く浅くいろんな役割を果たせる人も重宝されます。

――こうした変化を踏まえて、女性たちは、どのような力を身につける必要があるのでしょうか。

女性人材、とりわけ一度離職した女性が再び仕事に就くには、ITスキルを突き詰めるより、知恵と経験を生かして最短距離で仕事を成し遂げる力や業務改善策を提案する力、さらにマルチタスクで様々な仕事をこなせる力が必要になっています。

例えばパワーポイントで営業ツールを作る際も、プレゼンテーションする相手を想像してワーカー側から見せ方などのアイディアを出せたり、スプレッドシートで管理表を作るなら、機能を使って効率化を提案できたりすることが、顧客の本質的なニーズに応えることになります。

母親たちは、日々の育児・家事を通じてこうした力の「ベース」を既に備えています。洗濯、料理、子どもの身支度などを同時進行するには、最も効率的な仕事の進め方を考え、優先順位をつけて仕事をこなすことが不可欠ですから。

ITは怖くない。アレルギーや不安を払拭

――子育てなどのために仕事を離れていた女性が労働市場に戻るには、障壁もあると思います。障壁を乗り越えるために、どのような支援をしていますか。

離職期間の長い人は、今の職場は自分が勤めていた頃よりも複雑で、業務も難しくなっているのではという不安を抱きがちです。このためクラウドサービスなど、今職場で使われているツールの使い方を伝え、認識をアップデートしてもらいます。技術の進化でむしろ業務は楽になったのだと分かれば不安も解消されますし、テレワークで仕事をしてみようか、という一歩を踏み出しやすくなります。

またITスキルは「高度な専門技術」だというイメージから、アレルギーを持つ人もいます。こうした場合、パワーポイントやスプレッドシートの使い方を教える前に、そのツールはどんな場面で使えて、それによって具体的にどんないいことが起きるのかを伝え「よく分からないから怖い」というイメージを解きほぐすことも大事です。

――テレワークに必要なスキルを身につけることで、女性たちはどのように変化しますか。

女性に限らずシニアも含め、働き方と仕事の中身、両方の選択肢が広がると感じます。ICTの習得によって、それまで思いもしなかったような職種への道が開けることもあります。

離職していた人がテレワークを始めて報酬を得られるようになれば、誰かの役に立っている、という実感も得られます。既に働いている人は、学んだスキルを生かして今の職場に業務効率化を提案することもできますし、将来的に自分のやりたい仕事へ移れる余地も広がります。また目指すキャリアに向かうため、自分に何が足りないかなども考えるようになり、スキルアップへの意欲が高まることもあるでしょう。

今すぐには仕事に就かない人も、日常生活やPTAのような社会とのつながりのなかに、学んだスキルを生かせる機会が十分ありますし、それによって自信を得られると思います。

外部人材の提案が、企業をより良く変える

――企業側の在宅ワークに対する認識は、どのように変化してきたでしょうか。

コロナ禍をきっかけに、社内でのテレワーク活用に関してはかなり理解が進みました。人手不足が加速するなか、介護や育児中の働き手の「在宅勤務をしたい」というニーズに応えなければ、オペレーションが回らなくなるという事情も、テレワーク普及の追い風になっていると思います。

一方、テレワークを通じた外部人材への業務のアウトソースに関しては、メリットは薄々感じていながら踏み切れない企業もたくさんあります。どの仕事を切りだせるか分からないし考える時間もない、DXまわりの技術に明るい人材もいないといった事情が、ハードルになっているようです。

当団体が育成しているテレワークコーディネーターは、経験を通じて培った発想力で「この業務ならデジタルに移行できますよ」といった提案ができるスキルを持っています。中小企業も困りごとを抱え込まず、私たちのような外部の力を活用して業務改善やDXを進めてほしい。私たちも地元企業の働き方をより良い形に変え、地域に貢献したいと考えています。

――徳島という地域特有の課題はありますか。

高齢化が進んだ地域なので、企業はシニアの雇用を守ろうとするあまり、大きな改革やチャレンジに二の足を踏みがちです。リスキリングなどを通じて、今の組織でなくても3年後、5年後により充実したセカンドキャリアを築けるとシニア人材に理解してもらうことで、人材の循環を起こすのも有効だと思います。私たちもシニア支援を通じて、当事者の新たな場所での挑戦をサポートできればと考えています。

行政は、女性の就労支援でもシングルマザーとそれ以外など、事業を主管する部署や財源がバラバラな縦割り組織になっているために、様々な無駄や限界が生じています。本来、母親の働き方には労働環境や雇用する企業、子どもの未来など幅広い領域が関わります。行政組織内の連携がうまくいかず、問題がたらい回しにされるようなことがあれば、人手不足は進み新しい産業も生まれず、若者が流出して自治体が沈没しかねません。私たちも事業を通じて、行政組織の連携の形を提案していければと思っています。


聞き手:大嶋寧子
執筆:有馬知子

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