女性がこれからの社会と自分の価値を学ぶ機会が、地域の未来を拓く――株式会社C Landmark 藤田梢氏
女性の就業率はこの10年で急速に上昇してきた。では、女性が働くことについて、今、どのような課題が残されているのだろうか。徳島県で、子どもの学びの場の創造や子育て中の女性の就業支援、自治体と連携したキャリア教育や起業支援等を通じて地域活性化に取り組む株式会社C Landmark代表取締役の藤田梢氏に、地方で働く女性が、自分の強みを活かしたキャリアを形成するために何が必要かを聞きました。
株式会社C Landmark 代表取締役 藤田梢氏
女性の学ぶ場を創造することを通じて、地域の未来を作る
――現在の取り組みを始めたきっかけを教えてください。
結婚前、高知県で専門小売店でのバイヤーやフロアチーフ、商社での総務や経理のとりまとめ、社長秘書業務、新人教育などの責任ある仕事を経験した後、結婚を機に退職して徳島に移住しました。しかし再就職を希望しても「いつか子どもができるかもしれないから」などの理由で断られることもあり、悩みながら受講した女性起業塾で、手に職がなくても、あるいは特別得意なことがなくても、誰でも事業を起こせることに気付きました。自分のやるべきことに向き合うなかで見つけたのは、習い事の教室が近くになく、選択肢や競争も少ない地域で、子どもたちがこれからの社会の変化を見据えてさまざまな経験をし、自分で地域を変えていけると思えるような学びの機会を作ることでした。
しかしそうしたイベントに参加するのは、普段からアンテナを張っている一部の女性とその子どもたちが中心。より多くの子どもたちに新たな学びの機会をつくるためには、女性の目線が変わる必要があると思いました。そこで女性が学ぶ場を提供するために、自治体と連携した女性向けセミナーや起業支援、子ども向けのキャリア教育を行うほか、女性の働く選択肢を増やすために地域の特産物を活かした飲食店の経営などさまざまな取り組みを始めました。自立し生き生きと働く女性の姿を見れば、子どもたちも大人になることや働くことを楽しみにし、自分たちの力で地域を変えていけると思うでしょう。それが、最終的には地域の活性化につながると考えています。
女性が賃金上昇ややりがい向上を実現できる「選択肢」がない
――女性が働くことについて、今、地域にどのような課題があるとお考えですか。
子育てに関わる男性も増えてはきていますが、家庭の中ではまだまだ性別役割分業の意識や慣行が強く残っていると感じます。男女の賃金格差によって女性は金銭面での制約を抱えることが少なからずあり、時間面でも育児や家事以外のことをしようとすると「おまえは母親だぞ」という言葉を浴びせられます。地域でも職場でも、男性がリーダー的な役割を担うことが当たり前で、女性はさまざまな領域に残る男女差に対して違和感を持ちづらくなっています。女性自身も、知らないうちに身につけたアンコンシャスバイアスにより、自分にブレーキをかけていますし、周囲も女性に対し母親としての役割を最優先に求めてしまうのです。
このような状況で、地方で女性が賃金上昇や働きがいを実現できる仕事に就くことは簡単ではありません。そもそも女性が収入を上げられる仕事自体が地方に少ないですし、収入を上げるために必要なスキルは何かを知る機会や、それを学ぶ場もない。そのような状況では「選択する」という意識すら持ちづらく、決められた仕事を、育児や家事に無理のない範囲でやりたい、という希望を持つ女性も多いです。しかしそれでは女性の賃金は上がっていきません。
多くの女性が、挑戦する前から新しいことに踏み込むリスクを恐れているようにも見えます。小さな成功体験も、逆に失敗体験から学ぶような機会も少ないですし、仕事で挑戦して成功している女性を目にする機会も少ない。だから、小さな失敗の可能性を見て、立ち止まってしまいやすいのだと思います。
企業にも大きな課題があります。仕事中心の昭和の働き方から変われておらず、働き方改革にも手がつけられていない企業や、職場における男尊女卑の意識を抜けられない企業は未だに多く、どこから手をつけたらいいか悩むほどです。でも、ただ企業が変わってくれるのを待っているだけでは何も変わらない。私は女性が、「それはおかしい」と言えるようになることが大事だと思います。
女性が地域の未来と自分の価値を知り、自ら動くための機会を作る
――どのようなことを学べば、女性は変わることができるのでしょうか。
重要なのは、女性がアンコンシャスバイアスの存在や、地方の現状、日本の未来について知ることだと思います。例えば今、地域では、少子化により少年野球チームを組むことや一つの学校単位で部活動を行うことが難しくなっています。そのような変化が地域や自分の子どもの未来にどのような影響をもたらすのか。今起きている変化やその影響を考え、危機感を持つことが、女性が変わるために重要だと思っています。
もう一つ、女性が仕事を通じて自分の価値を知ることも欠かせません。これまで、女性向けにさまざまな研修を行ってきましたが、実践を伴わない学びには限界もあります。私の暮らす地方にはまだ「出る杭は打たれる」感覚が残っており、「変わりましょう」と伝えても、それだけでは動くのは難しい。自社の事業では、女性が仕事を通じてさまざまな気付きを得ることを大切にしています。自分で考えて自分で動けて自分の価値をこの場で見つけられる人材を増やしていく、その成功事例をたくさんつくることが今は大切だと感じているからです。
――地域における女性の活躍に向けて、次の課題は何でしょうか。
私の場合、父がライフワークとしてまちづくりに長年取り組んでおり、それを日々手伝っていたことが、今、地域のために動けている背景にあると思っています。たまたま私にはそのような機会がありましたが、たとえ同様の経験がなくても、「自分たちの手で地域を変えていける」「私にも何かできることがある」と思えさえすれば、変われる人はたくさんいると思います。もちろんそのためには女性だけでなく、男性、そして地域が学び、同時進行で変わっていくことが必要です。これからも女性、子ども、そして地域の未来のための機会をつくることにチャレンジし続けたいです。
聞き手・執筆:大嶋寧子
大嶋 寧子
東京大学大学院農学生命科学研究科修了後、民間シンクタンク(雇用政策・家族政策等の調査研究)、外務省経済局等(OECDに関わる成長調整等)を経て現職。専門は経営学(人的資源管理論、組織行動論)、関心領域は多様な制約のある人材のマネジメント、デジタル時代のスキル形成、働く人の創造性を引き出すリーダーシップ等。東京大学大学院経済学研究科博士後期課程在学中。