アバターが顧客対応の一部を代替 生成AI活用で描く事業の「未来図」とは

アフラック生命保険株式会社 AI・データアナリティクス部 東原 直樹 氏

2025年02月10日

アフラック生命保険は、生成AIを使った業務支援システム「Aflac Assist」を自社開発して2023年12月に導入し、2024年9月から代理店向けシステムの運用も開始した。将来的にはお客様対応の一部を、人間的な応答が可能な「AIアバター」に代替させることも視野に入れているという。AI・データアナリティクス部の東原直樹氏に、生成AI活用の可能性について聞いた。

翻訳や提案資料の作成、問い合わせ対応 生成AI活用で開発コストも大幅ダウン

―「Aflac Assist」には、どんな機能があるのでしょうか。

Aflac Assistの目的は主に業務の効率化で、社員向けシステムには3つの機能があります。

1つ目は、全社員を対象とした、メール作成や翻訳、社内情報の検索など日常業務のサポートを行う機能です。特に検索に関しては、WEB情報と組み合わせて最新のデータを踏まえた回答を生成する機能が追加されたことで、一般的なWEB検索よりも的確な結果を得られるようになりました。また情報漏洩のリスクがあるため、社内文書をWEB翻訳サイトにかけることはできませんが、Aflac Assistを使うことで手軽に翻訳できるようになりました。

2つ目は、マーケティング営業部門の営業活動を支援する機能です。営業担当者が提案内容を考える際に行う「アイデアの壁打ち」から、社内情報を参考としたプレゼンテーション資料の作成までをサポートします。

3つ目は、代理店向けのコールセンターを対象とした、商品・事務手続きに関する問い合わせをサポートする機能です。商品や事務手続きの検索機能で、代理店向けのコールセンターに問い合わせがあったとき、オペレーターが相談内容を入力すると、社内情報を参照し、回答を提案してくれます。3つ目の機能は代理店向けのシステムにも搭載され、コールセンターに問い合わせる手間が、ある程度省けるようになりました。

生成AIがない時代に、Aflac Assistと同じ機能を持つシステムを内製化しようとしたら、膨大なコストがかかったでしょう。生成AIの登場でコストを大幅に抑えられるようになったからこそ、開発が可能になったと考えています。

―Aflac Assistの活用について、課題はありますか。

営業活動の支援機能とコールセンター向けの商品・事務手続きの検索機能については、まだあまり利用率が高くないのが現状です。前者については、既存の資料をマイナーチェンジしながら使うことが多く、一から資料を作る機会はあまりないのかもしれません。また、後者に関しては、現時点では顧客情報を検索できる仕様にはしておらず、回答が一般的な内容に限られるため用途が狭まってしまっているのでしょう。顧客と紐づいた検索をできるようにして、利便性を高めることが今後の課題です。

将来はコールセンターも不要に 「ぬくもり」感じさせる仕事は人が担う

―生成AIの活用について、組織としてどのような未来像を描いているのでしょうか。

生成AIとアバターを組み合わせたデジタルヒューマンがお客様の手続きをサポートしたり、ニーズに合った保険商品を提案したりと、人の仕事を一部代替するようになると考えています。また、たとえばデジタルヒューマンが代理店やお客様の問い合わせに対応できるようになれば、そうした業務に従事していた人に別の業務を任せることも可能になります。オペレーションを効率化し、適材適所に人財を配置することを目指しています。

一方、お客様にぬくもりを感じてもらえるような人間的な対応は、テクノロジーに置き換えられず、人の仕事として残るでしょう。たとえばアフラックでは昔からご本人ががんの告知を受けていない場合、ご家族とのやり取りに真っ白な封筒を使い、差出人も担当者の個人名にするといった配慮を行ってきました。こうした気遣いこそ、お客様から信頼を得るために不可欠でもあります。

また、生成AIを広く活用するためのハードルとして、学習データの不足などから事実と違うことを回答する「ハルシネーション」のリスクがあります。これについては先進的な技術を持つ企業と連携するなど、解決策を模索しています。

―業務の効率化が生成AI活用の入り口だとすれば、次のステップはどのような形での活用を考えていますか。

今は汎用的で幅広い使い方がメインですが、今後はコールセンターの商品・事務手続き検索機能のような、業務に特化した使い方をさらに増やしたいと考え、各部署と交渉しています。ただ前提として、各部署の業務手順などが文書化されていないと、Aflac Assistに読み込ませることができません。文書化されているものから読み込みを進めると同時に、言葉にできていない暗黙知の部分も、文書化する必要があります。

そのため、各部署の協力も不可欠です。商品・事務手続き検索機能の導入にあたっては、オペレーターからのヒアリングで困りごとを洗い出し、それを解決できる機能を盛り込みました。しかし最初はオペレーターの多くが、長くなじんだやり方を続けてAflac Assistを活用しようとしませんでした。このため各部署の管理職と協力して研修を実施したり、「使いましょう」と呼びかけてもらったりして、少しずつ職場に浸透させていきました。

変わる管理職の役割 部下に「自ら考える」ことを促す

―生成AIによって、組織や働き方が変わる可能性については、どう考えていますか。

現在の組織を前提に生成AIの活用を考えているので、組織自体が大きく変わることはないかもしれません。ただ管理職の役割は、変わる可能性が高いと思います。

例えば今、営業現場の支社長やその下にいる次長が担っている部下の「アイデアの壁打ち」の相手や、営業ノウハウに関するアドバイスなどの役割は、全支社の営業ノウハウを蓄積させた生成AIに置き換わっていくこともあり得ます。管理職が部下に伝えられる内容は、その人の知識や経験の範囲に限られますが、生成AIは、膨大な情報を踏まえた回答を示すこともできます。

これに伴い管理職の役割も、生成AIの回答を実践しやすい形にブラッシュアップして現場に落とし込む、といった形に変わるのではないでしょうか。生成AIの活用によって、管理職自身のセンスやアイデアを活かす余地が広がり、能力も高まると考えています。

―若手が生成AIの回答をそのまま上司に提示し、自分で考えなくなったという企業の声も聞かれます。管理職は部下をどのようにマネジメントすべきでしょうか。

今は忙しくて時間がないため、つい上司が部下に答えを教えてしまうこともあるでしょう。しかし生成AIが短時間で多くのアイデアを出して整理してくれるようになれば、部下には自ら考える時間的な余裕が生まれます。管理職に求められるのは、部下に「Aflac Assistに聞いてみた?」と問いかけ、提示された回答をベースに自分の力で解決策を考えるよう促すことです。

仮に部下が、生成AIの提案をそのまま自分の考えのように提示したとしても、上司が内容について質問すれば、理解度がわかります。質問に答えられなければ墓穴を掘ることになり、そのとき初めて提案の意味を考えて「こういうことだったのか」と気づくかもしれません。失敗も重ねつつ、生成AIとの正しい付き合い方を学んでいくと思います。

プレマネの「プレイヤー」業務を効率化 マネジャーのAflac Assist活用が課題

―生成AIが職場に浸透する中で、マネジャーの業務量や負担感はどのように変化すると考えられますか。

中間管理職はマネジメントと現場の両方をこなすプレイングマネジャーが多いですが、生成AIで効率化できる業務の多くは、プレイヤー部分ではないかと予想しています。部下が「アイデアの壁打ち」にAflac Assistを活用するようになれば、その分の負担も減るでしょう。ただ人財育成が不要になるわけではなく、やり方が変わるだけだと思います。たとえば従来、営業提案などの入り口となるリサーチは若手の仕事とされてきましたが、そこを生成AIに任せて、若手にはあえて少しレベルの高い仕事を割り振る。このように管理職は裁量を活かして部下にアサインする仕事を考え、成長機会を作る役割を担うのではないでしょうか。

そのためにはマネジャー自身がAflac Assistを使いこなし、部署や業務の特性に応じて機能を使い分ける力が必要です。

―組織へどのようにAflac Assistの利用を促していこうとしていますか。

事例の紹介やマニュアルの作成、研修などを通じて、利用のハードルを下げようとしています。オンラインで行っている「プロンプト実践研修」への参加者を募集すると、オンライン会議のキャパシティを超えるほど多くの応募があり、興味を持つ人は多いという手ごたえは感じています。研修も業務ですぐに使える実践的な内容にして、「Aflac Assistは使える」と実感してもらえるよう心掛けています。

私はもともとマーケティング営業部門出身ですが、データやAIに興味があったのでジョブポスティングを利用し、現在の部署に異動しました。私のような専門外の人間でも、生成AIを使うことはできるし、使えばその便利さは十分にわかります。「食わず嫌い」の人も、使ってみれば得られるものは多いはずなので、まずは一度Aflac Assistに触れ、それから使い続けるかどうかを判断してほしい、と思います。

Naoki Touhara東原 直樹  氏

アフラック生命保険株式会社

AI・データアナリティクス部

2006年にアフラックに新卒で入社。
保険契約のバックオフィス部門から代理店営業、商品開発部、アジャイル組織などを経て、2021年から現在のAI・データアナリティクス部に所属。
社内へのデータドリブンソリューションの提供や生成AI利活用の推進を図っている。

聞き手:武藤久美子
執筆:有馬知子

武藤 久美子

株式会社リクルートマネジメントソリューションズ エグゼクティブコンサルタント(現職)。2005年同社に入社し、組織・人事のコンサルタントとしてこれまで150社以上を担当。「個と組織を生かす」風土・しくみづくりを手掛ける。専門領域は、働き方改革、ダイバーシティ&インクルージョン、評価・報酬制度、組織開発、小売・サービス業の人材の活躍など。働き方改革やリモートワークなどのコンサルティングにおいて、クライアントの業界の先進事例をつくりだしている。2022年よりリクルートワークス研究所に参画。早稲田大学大学院修了(経営学)。社会保険労務士。

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