リクルーティングにおけるDEI(多様性・公平性・包含性)の重要性を認知する企業が増加

2021年07月15日

ERE Mediaが主催する、ソーサー向けのコンファレンス「ソースコン」。2021年3月のソースコン・デジタルは、昨年9月と同様に、バーチャルのライブで進めていく形式で行われた。
2021年3月9日から11日にかけて行われた同コンファレンスは、参加者全員向けの基調講演と、複数のセッションが平行して行われる同時進行セッション、トピックごとの座談会、スポンサーのCM、ネットワーキング、そしてソースコン名物ハッカソンと、多彩なアジェンダだった。スポンサーは8社、セッション数25、参加者数は約600名。参加者のうち69%はソースコン初参加である。司会、進行は、初日から最ERE Mediaの編集者 Tangie Pettis氏が務めた。

前編では、2021ソースコン・デジタルのセッションで話題になったトレンドをいくつか紹介する。

2021年のキーワード

総合司会 Tangie Pettis氏総合司会 Tangie Pettis氏

今回のコンファレンスで頻繁に出てきたキーワードを紹介したい。1つ目は「オープンソース・インテリジェンス(open source intelligence、OSINTと略される)」である。オープンソース・インテリジェンスとは、公表されているソースから得る機密でない情報のことを意味する。もともとオープンソース・インテリジェンスに対する関心度は機密情報に比べるとそれほど高くなかったが、徐々にその利便性が注目されるようになった。同時進行セッション「探偵のようにリクルートする!」でスピーカーのJusten Baxter氏は、オープンソース・インテリジェンスが、タレント・アクイジションを実践的に助けることができると話す。その理由は、オープンソース・インテリジェンスを活用することで、ソーシャルメディアを活発に利用していない候補者を発見することができるからだという。したがって、ソーサーにはオープンソース・インテリジェンスを有効的に使うスキルが求められる。

次はオンライン上の脅威ともいえる、「マルバタイジング」と「フェイクニュース」である。マルバタイジングとは2010年以降に頻繁に使われるようになってきた、マルウェア(malware)とアドバタイジング(advertising)を組み合わせた造語で、悪意のあるコードをオンライン広告上に隠し、それをインターネット利用者がクリックすると、利用者のコンピューターにマルウェアが入り込み汚染するというオンライン攻撃のことである。四半世紀前には一般的に利用されることは少なかったインターネットが、テクノロジーに詳しくない人でも簡単に利用できるようになるにつれて、マルバタイジングの被害が拡大するようになった。マルバタイジング作成者を捕まえるのは非常に難しいため、利用者が対策を講じる必要があると、Baxter氏は警鐘を鳴らしている。

一方、フェイクニュースは、ソーシャルメディア上に溢れかえっているといわれている。最近のニュースであきらかになっているケースをいくつか紹介すると、Facebookはフェイクニュースに関連して、白人至上主義グループのアカウント200件を削除、LinkedInはユーザー登録時点で190万件以上がフェイクであることを見破り、それらのアカウント開設を阻止、Twitterは新型コロナウイルス関連のリンクとBlack Lives Matter関連のリンク17万件を削除、というようにどのソーシャルメディアも対策に苦慮している。各社ともAIを使ってフェイクニュースの阻止を試みているが、いたちごっこの状態である。ソーシャルメディアをスクレイピングに利用するソーサーは、フェイクニュースに惑わされないよう、クロスリファレンスをしたほうがよい、とBaxter氏はアドバイスする。

オムニチャネル・リクルーティング出所:Staffing Industry Analysts, Staffing Trends 2021.

もう1つのキーワードは、「オムニチャネル・リクルーティング」である。同時進行セッション「勧誘電話はなくなっていないが、生命維持装置を付けた状態にある」のスピーカー Stephanie Clay氏によると、オムニチャネル・リクルーティングとは、ブランドの知名度、信頼、忠誠を生むことを目標とする相関的かつ自律的な複数の要素を組み合わせた、包括的テクノロジーのことをいう。

30年前、派遣会社は3つのチャネルを使って営業していた。派遣スタッフの登録、面接、試験を行い、顧客と打ち合わせをする事務所、派遣スタッフや顧客との業務連絡などを行う電話、そして求人広告などを出す新聞をはじめとする印刷媒体、がその3つである(※)。事務所、電話、印刷媒体はどれもなくなったわけではないが、現在はこれらに加えて、オンライン求人広告、タレント・プラットフォーム、ソーシャルメディア、テキストメッセージ・Eメール、リクルートメント・マーケットプレース、MSP・VMSと、利用できるチャネルが格段に増えている。

オムニチャネル・リクルーティングが発達した背景には求職者のニーズがある、とClay氏は話す。求職者の家庭責任と仕事上の責任は増す一方であり、そのバランスを保つにはさまざまなチャネルがあるほうが便利である。電話に出られなくてもテキストメッセージを打つことができる、オフィスに行くことができなくてもオンライン面接はできるなど、テクノロジーを利用することで、フレキシブルな求職活動が可能になっている。オムニチャネル・リクルーティングは競争の激しいスタッフィング業界で、派遣会社が生き残るために不可欠な要素となりつつある。

拡大するギグワーカーの需要

2020年、パンデミックによって米国労働市場は大打撃を受けた。多くの労働者は職を失い、失業率は悪化した。求人がなかったわけではないが、多くの企業は先行き不透明ななかで、フルタイム労働者を採用するのをためらった。そこで、需要が高くなったのがギグワーカーである。同時進行セッション「もっとギグが必要だ!」のスピーカー Samantha Perera氏は、Wikipedia(英語版)を引用してギグワーカーを「個人事業主、オンラインプラットフォーム・ワーカー、契約社員ワーカー、オンコールワーカー、および、派遣労働者」を意味すると説明する。彼らの多くは、オンデマンド企業と正式な契約を結び、同企業の顧客にサービスを提供している。つまり、一昔前に「非典型労働者」「非正規労働者」「コンティンジェント労働者」などに分類されていたワーカーである。ギグワーカーの多くは、どの企業とも雇用契約を結ばずに、フリーランサーとして働いている。UpworkやFiverrといった大手のフリーランス・マーケットプレースの収益は、昨年、いずれも大幅にアップしている。企業は、雇用主としての責任を負わずに利用できるギグワーカーを効果的に使って、そしてギグワーカーもまた、さまざまな点で柔軟性の高いギグの仕事で非常事態をしのいで、パンデミックを乗り切った。

Perera氏によると、ギグワーカーの種類は、「ゴール・ギグワーカー」「ホビー・ギグワーカー」「ストップギャップ・ギグワーカー」「キャリア・ギグワーカー」「パートタイム・ギグワーカー」の5つに分類できる。2020年は「次のフルタイム正規雇用の仕事が見つかるまで、さまざまなギグの仕事をする」ストップギャップ・ギグワーカーが多かったという。

ギグワーカーの種類
ギグワーカーの種類出所:PYMNTS & Hyperwallet, Gig Economy Index, 2017.

ギグの一番の魅力はその働き方の柔軟性にあり、長期的にギグの仕事を続ける人も少なくない。したがって、パンデミック収束後も、ギグワーカーの需要は高止まりする可能性がある。

ダイバーシティ・ソーシング

2020年にミネソタ州で起きた警官によるGeorge Floyd氏殺害事件を契機に激化した「Black Lives Matter」の社会運動によって、企業のダイバーシティ促進は加速したようである。今回のコンファレンスでは複数のセッションがDEI(diversity―多様性、equity―公平性、inclusion―包含性)を取り上げており、リクルーティング業界のDEIへの関心の高さがはっきりとわかった。

同時進行セッション「グローバル・ダイバーシティ・ソーシングへの旅行案内」のスピーカーTeddy Dimitrova氏は、ダイバーシティの範囲が年齢、身体的能力、人種、民族、ジェンダー、性的指向だけでなく、学歴、語学(アクセント)、婚姻の有無、子の有無、軍隊経験、信仰、居住地などにも及び、非常に広くなっていることを注意喚起した。ダイバーシティ戦略に基づいたソーシングでは、5つのCが重要な意味をもつと話す。5つのCは下記のとおりである。

  1. Culture(文化)―自社チームに合う文化を知る
  2. Communities(コミュニティ)―Meetup.comなどのツールを利用してコミュニティのイベント情報を入手し、積極的に活動する
  3. Colleges(大学)―同窓会名簿をサーチに使う
  4. Companies(会社)―地元企業を知る
  5. Candidates(候補者)―候補者を深く知る

しかし、基調スピーチ「ダイバーシティ・ソーシングはワンパターンではうまくいかない」のスピーカーRocki Howard氏によると、DEIを謳う企業は増えているものの、実際にリクルーティングにおけるダイバーシティがうまく進んでいるとは言い難いという。Howard氏はPwCが会社役員を対象に行った調査結果を引用して、「リクルーティングにおけるダイバーシティが成功している」と回答したのはわずか16%だったと話す。多くの会社のCEOはDEIを公約に掲げているが、そのような公約は社会からのプレッシャーを受けて渋々発したものなのかもしれないとHoward氏はいう。そして、男性が採用されるケースは女性よりも2倍高く、黒人の候補者が応募した企業から返事をもらう確率は白人の候補者よりも50%低く、米国企業のCEOは圧倒的に男性であるという現実から、差別は依然としてあると指摘する。

Howard氏は、会社がDEIを成功させるためには、リクルーティングの最初のファネルで仕事をしているソーサーが重要な役割を担っていると強調する。だが、ソーサーがその役割を果たすためには、組織のサポート、公正な採用行動、そして、ソーシング戦略が不可欠である。いくらソーサーがダイバーシティ・ソーシングに力を注いでも、組織がダイバーシティ採用に関する具体的な目標を示し、継続的な研修を実施しなければ、平等の実現は難しい。さらに、スクリーニングや面接過程を含む、すべての採用ポイントを偏見のない状態にする必要がある。

1964年公民権法第7編によって雇用の場における差別が禁止されてから50年以上経つが、その実現にはまだほど遠い現状である。

 

※ Staffing Industry Analysts, Staffing Trends 2021.

TEXT=Keiko Kayla Oka (客員研究員)

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