ギグエコノミーで成功するにはAIスキルが不可欠

2024年01月04日

2023 Collaboration in the Gig Economy

ギグエコノミーの最新トレンドと今後の動向を紹介するCollaboration in the Gig Economy。2023年は9月20日、21日の2日間、テキサス州ダラスの会場で開催された。スタッフィング・インダストリー・アナリスト(Staffing Industry Analysts、以下、SIA) が主催する同コンファレンスのテーマは、「スタッフィングとギグエコノミーにおける次世代トレンドと機会」。

セッション数は23、スポンサー数は40社で、参加者数は740名だった。

コンファレンスは、SIA社長Barry Asin氏とリサーチディレクターBrian Wallins氏がギグエコノミーの最新トレンドを紹介するオープニングスピーチで始まり、生成AIシステムに精通するMITの客員教授であるTom Davenport氏の基調講演、「プラットフォーム&テックイノベーション」「AI&仕事の未来」「加速するテック駆動型世界をリードする」の3つをテーマにした同時進行セッション、業界のトップによるパネルディスカッション、テクノロジー・イノベーターによる恒例のコンペティション「ギグエコノミー・シャークタンク」といった、多彩なアジェンダに従って進められた。

初めから終わりまでAI色が非常に強かった本コンファレンスの内容をダイジェストで紹介する。

オープニングスピーチで講演するSIA社長の Asin氏(写真左)とリサーチディレクターのWallins氏

リモートワークからオフィス復帰へ

コンファレンス初日のオープニングスピーチでは、SIAのAsin氏とWallins氏がこの1年で何が変わったのか、などについて解説した。

変わったことは、予想以上に長期化しているロシアのウクライナ侵攻、世界的な異常気象、新型コロナウイルス感染症の沈静化、脱リモートワーク、記録的なインフレーション、労働市場の逼迫緩和などが挙げられる。

コロナ禍で導入が進んだリモートワークは、派遣会社にも拡大し、2020年の時点では派遣会社の社員の約3分の2がフルリモートで就労していたが、2022年には50%を切るまでに減り、オフィス勤務に戻る人が増えた。

また、コロナ禍で深刻化した人材不足は徐々に解消されつつある。SIAのセールスと採用の難易度を示す指標を見ると、2020年後半から一貫して採用の難易度がセールスの難易度を上回っていたが、2023年6月に逆転した。

図表 SIA セールスと採用の難易度(2013年12月~2023年6月)

SIA セールスと採用の難易度(2013年12月~2023年6月)出所:SIA “U.S. Staffing Pulse Survey Report: July 2023”

労働市場の逼迫が緩和したのは、米国内雇用の鈍化が1つの要因である。2023年後半になって米国の雇用情勢は軟化し、失業率も小幅に悪化している。Amazon、Meta、Microsoftといったビッグテックは人員整理を行い、ここ数年順調に伸びてきたスタッフィング市場も10%前後のダウンが予想され、景気後退が始まっているのではないかと懸念される。しかし、Asin社長は「失業率は3%台を維持しており、悪化とは言えないレベルだ。スタッフィング需要は高く、ギグエコノミーは今後も拡大する」と強気の姿勢を崩さなかった。

フリーランスとJust in time talent

コロナ禍でフリーランスの労働市場は大きく拡大した。社会は変わりつつあり、労働の世界では独立したタイプの契約が多くなっている。フリーランサーの考え方は何十年も同じ会社で仕事をするというものではなく、キャリアの選択肢を重要視する。ビジネス側もそれを受け入れ、Just in time talent”という考え方に転換していく必要がある。タレントプラットフォームはまさにそのためにあると言ってよいだろう。

初日のセッション「タレントプラットフォームの未来:フリーランス知識労働者をコネクトする」では、Upworkをはじめとする大手プラットフォームのトップたちがフリーランス市場の未来について議論を重ねた。

パネラーの年代が異なるせいか意見が食い違う場面が度々あった。やや年長のTorc社Morris氏が、「中小企業やスタートアップの多くが分割労働(※1)という方法を導入しているが、大企業はこの方法の導入に躊躇していて、非効率的になっている」と指摘したが、若手のWorkGenius Group社Rosenzweig氏が「それは徐々に変わってきている」と即座に反論し、「アメリカ西海岸では、そのようなやり方の無駄に気づいて、分割労働を導入し始めている」と続け、会場に若干緊張が走ったが、他のパネラーが中庸を得た意見で場を取りなした。

一方、フリーランス採用では学歴や職歴よりもスキルが重視されるという点、AIによってプラットフォームの効率化が進んだという点、テクノロジーは人間によい結果をもたらすという点で、パネラー全員の意見が一致した。

同時進行セッション「タレントプラットフォームの未来:フリーランス知識労働者をコネクトする」のパネル

生成AIは仕事を奪わないが、生成AIを使っている人が仕事を奪う

今回のコンファレンスではオープニングスピーチから、2日目最後の「ギグエコノミー・コラボレーション・ラブ」に至るまで、AIの話題が中心だった。

スタートアップ向けのコンペティション「ギグエコノミー・シャークタンク」のファイナリスト5社はすべてAIを利用したサービスを展開し、注目を集めている会社だった。その中で、2020年創業のWOLF, Inc.が、自社開発のマッチング、資格認証、アウトリーチ、採用、スクリーニング、スケジューリングなどをすべて行う派遣会社用AIプラットフォームをプレゼンテーションで紹介し、時間とコストの効率化を実現できるとジャッジから高い評価を受け、ギグエコノミー・シャークタンク賞と会場のお気に入り賞の両方を受賞した。

小見出しの内容はオープニングスピーチでAsin社長が述べたものだが、多くのセッションで繰り返し引用されていた。

ギグエコノミー・シャークタンクの模様

生成AIに詳しいMIT客員教授のDavenport氏は、基調スピーチ「AIのすべて:スタッフィングとギグワークの未来に関する示唆」で、「生成AIが雇用に関する悲観的予測を引き起こしているが、エビデンスはほとんどなく、逆に生成AIが雇用によい影響を与えるという調査報告もある」と述べ、実際にAIによってPrompt Engineerという新しい職種が生まれていると指摘した。ただし、AIがスタッフィングに影響を与えることは必至で、反復的な作業を繰り返す仕事はAIオートメーションによってある程度取って代わられ、新しいAIの能力を利用するためにスキルセットは変わり、新しい労働モデルによるスタッフィング需要が拡大し、派遣労働者と正規労働者の境界線があいまいになると予想する。

基調スピーチで生成AIについて解説するDavenport氏

スピーチの最後で同氏は、AIについてどのようにアプローチしていくべきかについて、AI が戦略、事業モデル、事業工程をどう変革するかを考え、野心的な目標を持たずに最初はパイロットプロジェクトから始めて徐々に拡大すること、そして同時に従業員や候補者に積極的なスキル訓練を提供し、職種の選択肢と変革のための時間を与えることが重要であると締めくくった。

 

(※1) 米国でFractional labor、Fractional work、Fractional employmentなどと言われる働き方あるいは採用方法で、ワーカーが複数の会社で複数の仕事を掛け持ちで行うことをいう。ワーカーはフリーランサーであることが多い。

TEXT=Keiko Kayla Oka(客員研究員)

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