ソースコン・デジタル 2.0 2020 参加報告(前編)
ERE Mediaが主催する、ソーサー向けのコンファレンス「ソースコン」。2020年3月の開催は、スピーカーが各自事前に講演を録画し、プログラムに沿って配信する形式であったが、同年9月のソースコン・デジタル2.0は、バーチャルのライブで進めていく形式で行われた。
2020年9月21日から23日にかけて行われたソースコンは、8つのカテゴリーで構成されていた。内容は、参加者全員向けの基調講演、ソーシング初心者向けのラーナー・トラック、ソーシング・スキル向上のためのスキルド・トラック、ソーシング上級者向けのエキスパート・トラック、採用マネジャー向けのリーダーシップ・トラック、トピックごとの座談会、スポンサーのCM、そして、ネットワーキングである。講演数は全部で20、スポンサーは6社、参加者数は約750名であった。スピーカーは米国をはじめ、欧州や南米からもバーチャルで登場し、国際色豊かでバラエティに富んでいた。録画ではなくライブでの配信だったため、時々テクノロジー上の問題が発生したが、主催者の素早い対応で、フラストレーションを感じることはなく充実した内容だった。
司会、進行は、初日から最終日まで、ERE Mediaのソースコン・コンテントクリエイターMark Tortorici氏が務め、各講演のスピーカーを順に紹介していった。
「ニューノーマル」時代のソーシング・トレンド
社会全体が新型コロナウイルス・パンデミック対策を強いられるなかで、ソーサーも感染を抑えるためのソーシャルディスタンシングやリモートワークの導入を余儀なくされた。このような「ニューノーマル」な世界において候補者を獲得するためには、ダイバーシティを重視し、レイオフリストを頻繁にチェックし、アウトリーチやエンゲージメントにおいてはパンデミックによって疲弊した候補者への共感力が求められる。多くのスピーカーが、2020年のソーシングでは、何よりも「気配り」と「優しさ」が重要になったと語っていた。それと同時にソーサー自身が十分なセルフケアをして、身体的、精神的健康を維持することも重要課題の1つである。
一方、産業・企業レベルでは、リモートワークの定着、キャリアフェアやインターンシップのデジタル化の普及が進んでいる。また、業績ダウンをカバーするためのコスト削減を講じる手段として、オートメーション化を進める企業が増えている。以下では、パンデミック禍におけるリクルーティング&ソーシングトレンドを紹介する。
高まるダイバーシティの認識と、そのための取組み
ダイバーシティ(多様性)の推進は、今や、米国企業の人事戦略において不可欠な要素となりつつある。特にソーシングの段階では、いかに偏見や先入観を取り払い、中立性を保って、候補者とかかわるかが重要である。Amazonのリード・リクルーター、Kevin Walters氏は、講演「本物のダイバーシティ・ソーシング同盟にするには」で、偏見には私たちが考えている以上にさまざまなものがあると語った。一般的に知られるジェンダー、人種、年齢以外にも、名前、適合性、好意、美、類似性など、普段私たちが偏見だと思っていないことが偏見であることもある。たとえば、名前についてみると、かつては男性にしか使われていなかった名前が女性に使われていた(あるいはその逆の場合があり)、名前で性別を判断することが難しくなっているようだ。
米国では、1964年公民権法第7編や1967年年齢差別禁止法をはじめとする数々の差別禁止法によって、雇用の場において、人種、肌の色、出身、性別、宗教、年齢(※1)をもとに、求職者や労働者を差別することが禁止されている。レジュメに写真を貼ることは、意図的でないにしろ、偏見や差別につながるおそれがあり、違法性が高いと考えられている。しかし、FacebookやLinkedInといったSNSの普及により、インターネットユーザーが、写真を含む特定人物の詳細なプロフィールを入手するのは比較的容易である。リクルーターやソーサーがインターネット上で入手した情報に、偏見や差別の元となり得るものが含まれている可能性は十分にある。
Walters氏は、そうした偏見や差別を避ける方法として、ブラインド・ハイアリングが有効だと勧める。ブラインド・ハイアリングとは、リクルーティングにおいて、氏名、住所、学校卒業年、大学名、趣味、ボランティアなどの情報を用いない手法のことで、リクルーティング・ソフトウェアの多くはダイバーシティを促進するために、ブラインド・ハイアリング・モードを搭載している。SeekOutもそのようなソフトウェアの1つで、独自のタレント・サーチ・エンジンを使い、候補者のプロフィールを収集するが、「ブラインド・ハイアリング・モード」をクリックすると、候補者の写真が猫の写真に変わり、写真から性別、年齢、人種などが推測できないようになる。
SeekOutのブラインド・ハイアリング・モード
また、ここ数年の間に、SNS上のプロフィールにジェンダー代名詞を記載する人が増えてきている。自らを表すのに女性の代名詞を使ってほしい人は、she/her/hersと記し、男性の代名詞を使ってほしい人はhe/him/hisと記す。そして、男性や女性など特定の性別では括れないノンバイナリー・ジェンダーの人は they/them/theirsと記す(※2)。ダイバーシティ・ソーシングでは、候補者がどの代名詞を使っているかにも気を配る必要がある。
ソーサーのためのグロース・ハッキング(growth hacking)
グロース・ハッキングとは比較的新しい用語で、一般的には、製品やサービスに関するデータを分析、改善して、急成長につなげていくマーケティング手法のことを意味する。RabobankのMarcel van der Meer氏は、「ソーサーのためのグロース・ハッキング」と題された講演で、近年、グロース・ハッキングへの関心が高まりつつあると述べた。そして、グロース・ハッキングにおいては、GROWS―Gather ideas, Rank ideas, Outline experiments, Work work work, Study data―のプロセスを通して、できるだけ多くのアイデアを集め、実験を何度も繰り返すことが重要だという。アイデアの収集には、Facebookのグロース・ハッカー・グループへの加入がお勧めで、グロース・オートメーション・プラットフォームとしてはTexAu(https://texau.app/)が非常に便利だという。
グロース・ハッキングに対する関心の度合い
求職活動における #OPENTOWORK の広がり
今回のソースコン・デジタルでは、#OPENTOWORK について言及するスピーカーが何人かいた。米国で人気の高いSNS、LinkedInには、数年前から #OPENTOWORK や #READYTOWORKNOW をプロフィールに表示するユーザーがいる。
これは、積極的に仕事を探している求職者であることを意味するハッシュタグだが、リクルーターにはどちらかというと不評であった。米国では、熱心に求職活動をしている「積極的な候補者(active candidate)」よりも、現在、仕事をしていて求職活動をしているわけではない「消極的な候補者(passive candidate)」の方が好まれる傾向がある。というのは、「消極的な候補者」は、現在の仕事と待遇に満足していて、雇用主と良い関係を築いている、優秀な社員であるケースが多いからで、リクルーティング業界では、見つけるのが困難でも、消極的な候補者を探す方がより良い人材にめぐり合う可能性が高いと考えられている。そのため、求職者が #OPENTOWORK、#READYTOWORKNOW を表示すると「積極的な候補者」であるというラベルを貼ることになり、本人の期待に反して、リクルーターがそのような表示をしている人を避けるという現象が起きていた。
ところが、パンデミックによってこの状況は変わりつつある。米国の失業率は2020年4月に過去最悪の14.7%を記録し、失業者数は2,300万人を超えた。失業率、失業者数ともに、徐々に改善してきてはいるものの、2020年10月現在も1,100万人以上が失業に苦しんでいる状況である。#OPENTOWORK、#READYTOWORKNOW のハッシュタグをつけた求職者がネット上で散見されるようになり、LinkedInでも2020年6月にプロフィール写真上に#OPENTOWORKのバナーを貼って求職中であることをアピールできる機能を追加した。今回のソースコンの多くの講演から、パンデミックによって「積極的な候補者」にならざるを得なくなった人たちを助けようとする動きがリクルーティング業界で広がっていることが、伝わってきた。
LinkedInプロフィール写真に#OPENTOWORKを表示する機能
TEXT=Keiko Kayla Oka(客員研究員)
(※1)40歳以上の人を対象とする。
(※2)ノンバイナリー・ジェンダーの代名詞として、they/them/theirsのほかに、ze/zir/zirsなどが使われることもある。