ソースコン・デジタル参加報告(後編)
希少な人材を惹きつけるソーサーの数々のテクニック。社員も広告塔になる。
ソーサーは、インターネットを使って人材を探すことが一般的である。特に、LinkedInからソーシングをすることが多い。欧米ではLinkedIn利用者が多く(※1)、プロフィールに職務経歴を詳細に記述するため、ソーサーにとって求人要件を満たす人材か否かを確認しやすい。ソフトウエアエンジニアのように引く手あまたの職種は、ソーサーからのアプローチが非常に多く、LinkedInに届くメッセージを確認しない傾向にある。一方、小売りなどの販売や製造業の労働者など、LinkedInアカウントの保有が低い職種もある。したがって、ソーサーにはテクノロジーツールを使いこなすスキルの他に、職種別や採用目的に合った人材を確保する方法を考える創造性も求められる。
後編では、ソーサーの創意工夫を図ったセッションとともに、ダイバーシティ&インクルージョンのための工夫が逆効果になってしまう恐れを指摘したセッションを紹介する。
Microsoftのソーサーが実践する、隠れている候補者の見つけ方
Kara Baskett氏(Microsoft、Senior Talent Acquisition Consultant)は元リカバリー・スペシャリストで、公共料金を滞納し行方不明となった人を探していた。現在はその経歴を活かし、既成概念にとらわれない、地道なアナログ手法も組み合わせた人材発掘を行っている。同氏は「隠れている候補者の見つけ方」と題し、これまで自身が使ったソーシングのテクニックを採用課題別に共有した。
絶対数が少ない職種のソーシング――音響エンジニア
音響エンジニアは世界的に見ても人数が非常に少ない。短期間で数多くの音響エンジニアを採用するために、以下の方法を行った。
・ 全米の大学・大学院における音響工学のトッププログラムを洗い出し、教授、同窓会、キャリアセンターに求人広告の共有を依頼した。
・ 採用マネジャーや音響エンジニアチームのメンバーに、各人の母校の恩師、指導教官にリファラルを依頼した。
・ reddit(テーマ別に分かれているオンラインコミュニティ)の音響エンジニアコミュニティに求人広告を掲載した。
・ 広報部やマーケティング部と協力し、音響エンジニアチームの1人を「エキスパート」および新製品プロジェクトの「顔」に仕立てた。
・ 関連する業界団体に所属する人のパーソナルデータをウェブスクレイピングで抽出した。
上記の中で最も効果が表れたのは、音響エンジニアチームのメンバーの1人がエキスパートとして採用マーケティング活動を行う方法であった。そのメンバーは、ブログの執筆や講演など、活発な啓蒙活動を行った。「彼と一緒に働きたい」という理由で、多くの有能なエンジニアから応募があったという。
人手不足の職種――製造業の労働者
製造業の労働者の大半はLinkedInを利用せず、Facebookも頻繁に確認しないため、オンラインで人材を発掘するのは困難であるという。そこでBaskett氏は次の手法を試みた。
・ 採用企業の近くにあるスポーツジムへ工場の就業時間後に訪問し、ジムの会員やトレーナー、スタッフとネットワーキングを行った。
・ 地域の住民がリラックスする場所や訪れる店を探して訪問し、採用活動を行った。
・ 採用企業の従業員からリファラルを受けるためにインセンティブ・プログラムを実行した。紹介報酬として、賞金やギフト券を支給した。予算がないときは、有給休暇1日分などを提案した。
・ ミレニアル世代の人材は、勤め先の社会貢献活動を重視する。彼らの意識に働きかけるため、ボランティア活動に参加してネットワーキングを行った。
最も重要なことは、候補者が働きたいと思う会社をうまく売り込み、自分に惹きつけることであるとして、同氏はオンラインソーシングのみではなく、現地を訪問して人脈を構築するソーシング活動も積極的に行っていた。
需要の高い職種――ソフトウエア開発者
IT領域は全般的に人材不足であるため、多数のソーサーから連絡やオファーがくる。求人の多くは自身の経歴やスキルと関連性がないことにIT人材はうんざりしており、ソーサーが通常検索するウェブサイトやSNSの利用を避けている。そこで、Baskett氏は下記の方法でソフトウエア開発者を探した。
・ ソフトウエア開発者の多くはスタートアップ企業で働いているが、その8割は事業が失敗している。次の仕事を探すときに自分を思い出してもらえるように、インキュベーター・ウィーク(※2)やスタートアップイベントに顔を出し、早期に関係構築をした。
・ IT業界関連のメディアのTechCrunch、WIRED、Crunchbase、AngelListなどで利用者の連絡先のウェブスクレイピングを行った。
・ 過去のインターン生や採用に至らなかった応募者は、現在は経験を積んで求人要件のスキルを身につけている可能性がある。ZapInfoのようなツールを利用して、過去の応募者のLinkedInやFacebookなどの連絡先を検索した。
Baskett氏は、募集職種がテクノロジー関連であっても、候補者となる人材がいる場所へ物理的に足を運ぶことを大事にしている。このセッションでは、ソーシングの基本はインターネット上での人材検索であるが、従業員の人脈の活用、従業員や会社のブランディング、オンラインおよびオフラインコミュニティへの参加など、直接的な検索活動に留まらない、長期的な視点も踏まえたソーシング活動の重要さを唱えていた。
ソースコン編集者が伝える、ダイバーシティ採用に取り組む際の留意点
2020年6月現在、米国では人種問題が再度表出しているが、ソーサーは、従業員が一定の人口動態(人種、性別、社会経済的地位など)に偏らないよう、多様性を重視したソーシングにも力を入れている。これまでのコンファレンスでも様々なテクニックが共有されてきた。ソースコン編集者のMark Tortorici氏は、それがかえって特定の人材を排除する差別になってしまう恐れもあると指摘した。
本来は候補者の中で最も優秀な人に採用オファーを出すべきだが、幅広い候補者を考慮しない限り、米国では白人男性 に採用オファーを出す確率が非常に高くなる。そこでソーサーは、白人男性以外の候補者も多く集めようと創意工夫を施す。例えば、通常米国の履歴書には顔写真を貼らないため、ソーサーはウェブで候補者を検索し、社内に少ない人種や性別、年齢の候補者を探せる。ところが、人間には無意識のバイアスがかかりがちで、普段見慣れていない人種、自分とは違う年齢層の候補者を意図せずに見送る可能性がある。他の工夫として、欧米系ではない民族、例えばインド系や韓国系の名前トップ100といったリストを利用しプロフィール検索をかける方法がある。しかし、ニックネームや英語名を使っているプロフィールは除外されてしまい、その中に優秀な人材が含まれているかもしれない。
先入観のないダイバーシティ採用を行う方法として、アルゴリズムを取り入れている製品を導入することが考えられる。採用支援プラットフォームのOleeoはその1つ。候補者の選考においてソーサーによるバイアスのかかった判断を検知し、機械学習によってその精度がより高まる。また、Oleeoは求人要件とマッチする候補者を、その人の属性を考慮せずに提案する。ただ、以前から一般的にアルゴリズムにも差別的な要素がある可能性は懸念されており、まだ利用者にとって見えないロジックを100%信頼することはできない。Tortorici氏は、どの手法であっても、体系的に除外される候補者グループがいることを常に念頭に置いてソーシングすべきとした。
ソースコン・デジタルでは、複数のセッションの同時開催はなく、セッション数が当初よりも大幅に削減された。次回2020年9月のコンファレンスもオンラインでの開催が決定している。新型コロナウイルスの感染拡大の影響で各地がロックダウンしていた中、ソーサーたちはどのような工夫を凝らし、どのテクノロジーツールを活用して採用につなげたのか、その取り組みや成果が共有されることだろう。引き続き、ソーシングテクノロジーとテクニックの発展を追っていく。
(※1)LinkedInの公表データによると、2020年2月現在の利用者数は米国が約1億6,900万人、欧州は約1億5,700万人、日本は約200万人。採用担当者の95%以上がLinkedInを日常的に利用するという。
(※2)起業家およびスタートアップとその成長を支援する投資家や企業が集まるイベント。
取材・翻訳=田村紀子、TEXT=石川ルチア