対話の機会を作ることで、自律したメンバーを育成――カルビー

2024年10月16日

「ポテトチップス」「じゃがりこ」など数々のロングセラー商品を世に送り出し、国内のスナック菓子市場で首位を誇るカルビー。近年、「共感型マネジメントによる組織と人財の持続的な進化」を掲げ、全ての従業員が「全員活躍」で行動する組織づくりに取り組んでいます。

今回、お話を伺うのは、カルビーの営業部門において最も高いエンゲージメントスコアを有する九州支店支店長の興津智幸さんです。九州支店は九州・沖縄全域の営業、マーケティングを統括。支店長の下に5名の課長が置かれた、総勢60名規模の拠点です。組織マネジメント、人財育成に関する現場での取り組みを語っていただきました。

支店長と課長が、メンバー育成で協働する

―― 興津さんは1997年のご入社と伺っています。カルビーのマネジメントの変化を、どのように捉えていらっしゃいますか。

大きな変化は2009年。会長兼CEOに就任した松本晃氏と社長兼COOの伊藤秀二の二頭体制となり、ダイバーシティや女性活躍の推進がスタートしました。このときに初めて「本部長」「部長」「課長」という階層・役職が設けられ、管理職は年俸制になりました。それまで、「工場長」「支店長」という役職はありましたが、営業課長などは「マネジャー」と呼ばれ、職位と役職は分かれていました。役職に対して報酬が支払われる体系に変わると同時に、「分権化」も進められ、権限委譲を透明化。それ以降、現在に至るまでこの方針と体制は変わっていません。

―― 課長の役割は、それまでとは変わったのでしょうか。

以前は「管理」にとどまっていましたが、「ビジネスプラン達成」と「人財育成」が、同じくらいの割合で求められるようになりました。

人財育成のために重視している1つが上司と部下のコミュケーション。2019年から「1on1」を実施しています。従来型の面談と1on1の何が違うかというと、業務以外の話もするようになりました。プライベートの雑談もありますが、最も重要なのは「キャリア」の話。本人が今後どのようなキャリアを歩んでいきたいのか、そのためにどのような経験・スキルを身につけるべきなのかを話し合っています。

課長は本人の意向を踏まえて仕事を任せるなど、目指すキャリアプランに向けてサポートします。ただし人事権は持っていないので、場合によっては部長、本部長に働きかけることもあるでしょう。

―― メンバーが目指すキャリアの実現に向け、具体的な仕組みはありますか。

「キャリア探究ノート」といって、毎年、自身の志向やキャリアの変遷を振り返りながら、綴っていく仕組みがあります。これを活用して個々がキャリアを考え、全員に与えられた権利として、年1回、今後の希望を申請することができます。オンライン上に、近い将来のありたい姿を入力します。1on1で活用するほか、部長・本部長に声が届くこともあります。

異動などの希望については、目標に近づくための道筋を示します。例えば、海外営業を希望する場合には、「国内で○年間、営業の基礎を身につけ、○歳くらいまでに物流・財務も学んだ上でチャレンジしよう」といったようにですね。新卒のジョブローテーションに関しては、本来は本社の人事部が考えるものであり、課長クラスでははかりかねる部分もあるでしょうが、部長クラス以上であればある程度のアドバイスができる情報を持っていると思います。

支店長と課長の間でも1on1が行われていますが、その内容のほとんどがメンバー育成のことですね。半分くらいは直近の話ですが、半分くらいは中長期視点で話し合っています。支店長と課長の1on1でメンバー育成の話に集中できるのは、事業運営における権限委譲が進んだことによるものだと思います。私自身、課長を信頼して任せているので、月1回の経営会議で数字の確認はしますが、1on1ではほぼメンバーの話をしています。「あのメンバーに対してはこうしていくといいだろう」などのアドバイスをして、課長の人財育成を支援しています。

課長に対しては、部長よりもメンバーに寄り添ったコミュニケーションを求めます。悩みの解決、不安解消については、直属の上司である課長の役割です。

「お兄さん・お姉さん1on1」も活用し、多方面からメンバーのキャリアを支援

―― メンバーのキャリア支援のため、会社から提供しているものは他にもあるのでしょうか。

メンバー育成で重視しているのは、「自律性」「自主性」を引き出すことです。何でも一方的に教えるのではなく、自らモチベーションを高める支援がしたい。そのために学ぶ「場」を提供します。場の一つとして、「お兄さん・お姉さん1on1」を行っています。

これまでお話しした1on1は、上司とメンバーで行うものですが、こちらは利害関係がない先輩である「お兄さん・お姉さん」がメンターとなり、新入社員に限らず若手メンバーのメンティーと1on1を行います。メンター候補者を挙げ、メンティー自身に選んでもらいます。メンティーがメンター候補者の経歴を見て、「この人と話してみたい」「この人に相談したい」と思ったお兄さん・お姉さんを指名してもらいます。

大事にしたい5values

―― 「上司」との1on1とは別に、「お兄さん・お姉さん1on1」を始めた狙いをお聞かせください。

上司との1on1では一部業務の話もしますが、「キャリア」につながる話が中心です。ただ、上司には言いにくい・聞きにくいこともあると思うので、年齢が近くて自分より経験がある先輩に、どんなことでも気軽に話せるといいだろうと思ったんです。また、メンバーからも「同じ支店の仲間なのに話したことがない人がいる」「課をまたいで、いろんな先輩から学びと刺激がほしい」という声が挙がっていました。

そこで、ルールを決めずに始めました。メンター・メンティーを組ませて場を提供するところまでは会社がしますが、「あとは勝手にやりなさい」「飽きたらやめていいですよ」と言っています。相手を変えるのも自由です。「やりなさい」ではなく「やってみれば」という感じですね。

やり方は本人たちに任せています。原則月1回30分以上を目安にしていますが、実際はもっと話しているんじゃないでしょうか。話す内容も自由なので、仕事やキャリアの話のほか、プライベートの話や恋愛相談なんてこともあるかもしれませんね。

始めたきっかけとしては、コミュニケーション不足への懸念もありました。営業は原則、直行直帰です。自宅とお得意先の往復で、特に用事がなければ支店に来ないことも多い。横のつながりを持ちにくくなっていました。コロナ禍でさらにコミュニケーションが分断され、1人で悩んでメンタルに不調をきたすメンバーもいたんです。だから「1人で悩むくらいなら、マスクをして会社に来なさい」と言っていました。お兄さん・お姉さん1on1も、リモートでもできますが、リアルの方が聞きやすい・答えやすいこともあります。自然と人が会社に集まってきて、結果的に支店全体のコミュニケーションも高まっていく期待もありました。

―― 実際に表れた効果はありますか。

メンバーの将来ビジョンが明確になり、モチベーションが上がり、行動にまでつながる状態となっています。実際、各種プロジェクトや海外トレーニーに手を挙げるメンバーも出てきています。若手の成長が見えるので、お兄さん・お姉さん側のモチベーションも高まっていますね。
支店全体のコミュニケーションも活性化し、メンバーの不安や要望が幹部層にも届きやすくなっています。

こうした取り組みの効果もあったのか、全社で行っているメンバーシップサーベイ(会社・職場・仕事に対する従業員の意識調査)では、エンゲージメントスコアが高まりました。今、全国の営業部門で九州支店が最もエンゲージメントスコアが高いんです。

やはり、「自ら学べる環境」があることが大事だと思います。マネジメント層は、そのような機会を提供する役割があるのだと思いますね。

―― 他にも、メンバーが自ら学べる環境はあるのでしょうか。

お兄さん・お姉さん1on1には、「課をまたいで学べる」ようにする意図がありましたが、同様に勉強会も課をまたいで開催されています。一例を挙げると、「物流の基礎知識」「PL」「信用調査報告書」の読み方など。開始当初は、こうした勉強会のセッティングや教材は課長が準備していましたが、今では役職にかかわらず中堅メンバーが自主的に企画し、若手メンバーを集めて勉強会を開いています。「ひよこプラン」と呼んでいる、基礎的な営業を教える勉強会などがあります。

―― これまでのお話で、あらゆる階層の社員が自律的・自主的に行動しているとお見受けしました。こうした風土を支えている仕組みにはどのようなものがありますか?

1on1やキャリア探求ノートに加えて、「バリュー評価」というものがあります。業績や成果ではなく「行動」を評価するものです。これは、当社が大切にしたい価値観「挑戦・好奇心・自発・利他・対話」(編集部注:上記図中にある、大事にしたい5つのvalues)を、行動として体現できているかどうかを重視するものです。全社員を対象としており、職位によって「課全体(部全体)に対し」など、範囲を広げた評価となります。

期の中間地点で本人が自身の行動に点数をつけ、上司がつけた点数とのギャップをフィードバックし、課題と下半期の目標を共有します。1年を終えた最終評価では、課題がより明確になるので、それを意識することで行動変容を促しています。

自ら学べるさまざまな「場」を提供し、その場での行動を評価する。それにより、カルビーが目指す「全員活躍」が実現できると考えています。


聞き手:辰巳哲子
執筆:青木典子

お話をお聞きした人

興津智幸氏

カルビー株式会社
西日本事業本部 九州支店 支店長

いつも明るく元気に前向きに、メンバーが自律的に、イキイキ活躍できる組織を目指しています。
厳しくあたたかく。