徹底したKPIマネジメントで既存事業の成長を担保、同時にアイデア創出の仕掛けも作る――レバレジーズ

2024年10月31日

IT・医療・介護関連を中心とした人材関連事業などを展開するレバレジーズ(東京)は、創業から18年で売上高1000億円超の規模へと急成長した。業績拡大の原動力は、既存事業での収益確保と新規事業創出を両立させてきたことにあるという。執行役員で人事戦略部長の森口敬氏に、これらの両立を可能にするマネジメントの在り方を聞いた。

まず目の前の仕事をやり切る できた「余白」で新規事業に挑戦

―年間10以上の新規事業を生み出し、業績を急成長させることがなぜ可能だったのでしょうか。

当社はベンチャー企業であり、新しい事業を生み出すことで成長してきましたが、同時に既存事業の規模を拡大し業界ナンバーワンに育てるためのマネジメントも重視してきました。当社には新しいことに挑戦したいという若手が集まりますが、たとえ彼ら・彼女らが新規事業を提案しても、リーダーはすぐにはゴーサインを出しません。今の仕事をやり切っているかどうかなどを確認し「気持ちはわかるけれど、まずは今の仕事に集中しよう」と「待った」を掛けることもあります。

一方、新規事業にふさわしい人材だと判断すれば、年次や年齢にとらわれずたとえ新人でも仕事にアサインします。

今のリーダーたちも、先輩たちから同じように育てられてきました。明確な仕組みではありませんが、こうした積み重ねが「メンバー一人ひとりの力を見極める」という組織の土台となり、その結果として今のマネジメントの在り方が機能しているのだと思います。

―既存事業にコミットさせるマネジメントとは、具体的にどのようなことでしょうか。

最も生産性が高くなるKPIを日ごと、月ごとなど期間別に明確にした上で、それを達成することを徹底しています。

例えば私が以前担当していたメディカル事業では、成長が停滞した時期にKPIマネジメントを徹底しオペレーショナル・エクセレンスの実現を目指したところ、収益が急激に伸びました。やるべきことをやり切り、業界ナンバーワンもうかがえる位置につけたことで、新しいことに挑戦できる「余白」も生まれました。

ただKPIマネジメントの際、管理職は最適解を追求するあまり、全ての指標をゼロから作ろうとしてしまいがちです。指標の作成と集計が目的化すると、数値から示唆を得て成長に必要な施策を打つという本来の業務に手が回らなくなってしまいます。これでは本末転倒なので、既存の指標で使えるものは援用することも大事です。

―KPIマネジメントを徹底すると、毎日結果をモニタリングするなどメンバーの負荷も高まります。職場の反発はありませんか。

私や事業部長が施策の重要性を職場に伝えてはいましたが、それでもハレーションは起きました。実力のあるマネジャーが「うちのグループは成果が出ているのに、負担を増やしてまでやり方を変えるのは納得がいかない」と反論してきたこともあります。

しかし当時は会社全体としても、年間30~40人だった新卒採用数が数百人単位に急増し、マネジャーの育成が追いつかなくなっていました。属人的なマネジメントに任せていたら組織全体の状況を把握できなくなり、何か問題が起きたとき、深刻化しかねないフェーズに差し掛かってもいたのです。彼にはこうした全体状況も説明し、納得してもらいました。

他のメンバーからも意見を吸い上げ、変えるべき部分は日々ブラッシュアップしていきました。その結果、3カ月ほどで成果が出て、重要性が認識され始めました。ただ200人超の組織全体に本当の意味で浸透するには、2年弱かかったと思います。

トップメッセージやイベントで、アイデアにふたをしない仕掛けを作る

―新規事業の創出と既存事業の成長を両立させるため、心がけていることはありますか。

既存事業の生産性を高めることが最優先ではありますが、それだけでは仕事を面白く感じられなくなってしまう面もあります。このため役員や事業部長クラスの人間がさまざまな場で「成果を出すのと同じぐらい、考えて提案することも大事だ」と発信し続けています。トップ層が日々の数値達成だけを強調していると、マネジャーの中にはメンバーから提案があったときに「まずは数字を達成しなさい」と、意欲にふたをしてしまいがちな人もいます。このためチャレンジも肯定し、バランスを取るよう促しています。

またマネジャーにも数字のミッションに加えて何か一つ、挑戦すべき企画を持ってもらいます。企画の内容は職場のナレッジをまとめてメンバーが共有できるようにする、30代のメンバーがキャリアを考える会を開くなどさまざまですが、これらを通じてマネジャー自身の挑戦への意欲にも、ふたをしないようにしています。

―新規事業創出のための具体的な「仕掛け」はありますか。

事業部によって違いますが、例えば私がメディカル事業部のトップだったときには、業績が急成長したタイミングで「メディカルサミット」というイベントを行い、メンバーに業務改善案や新規事業を自由に提案してもらいました。提案者はアイデアを考えることを通じて、日々の仕事を離れて自分のスキルセットやマインドセットを改めて見直すことができますし、イベントを運営するメンバーにとっても成長の機会になります。

こうした事業部ごとの取り組みに加え、組織全体にも「LEGO」という、経営陣と部門長がドラフト会議のようなものを開いてメンバーを集め、4~5人1チームで新規事業を提案する仕組みがあります。

当社は真面目な人が多く、目の前の仕事に注力するあまり、アイデアを考える「余白」を作れなかったり、提案を表に出すのをためらったりする人もいます。提案の機会を増やすことで、ある意味で無理にでも「余白」を作り考えてもらおうとしています。

―ボトムアップの提案から、成長事業へと育つケースは多いのでしょうか。

現場の改善に関しては、大半がボトムアップの提案に基づいていますが、事業化に至るアイデアの7~8割は経営陣から出されているのが実情です。役員クラスになると、事業を俯瞰する広い視野や多様な経験がありますし、新しい事業を作るのは自分たちの役割だという責任感も強いからでしょう。

ただ当社は10年以内の目標として「売上高1兆円」を掲げており、実現するには売上の半分近くを新規事業から得る必要があります。このためアイデアを発案できる人を採用・育成し、できれば今後5年くらいで、ボトムアップで作られる新規事業の割合を5割まで引き上げることを目指しています。

プロセス図解

「唯一の正解」の実践から、解を探求し続ける組織へ

―組織開発の上で、今後の課題はありますか。

当社は褒める文化はあるのですが、ネガティブなフィードバックが弱いと感じます。トップ層は、メンバーからのネガティブなフィードバックがなければ裸の王様になってしまいますし、フィードバックがあってもそれを受け入れる「コーチャビリティー」がなければ「役員に言っても組織は変わらない」とメンバーに失望されてしまいます。良いフィードバッカーであると同時にコーチャビリティーの高い人が評価される組織を作ることが、今後の課題です。

―過去、現在、未来と、マネジメントの在り方はどのように変化してきましたか。

当社はかつてトップが下ろす唯一の正解を、メンバーが徹底的に実行する組織でした。ベンチャーとして事業を早期に収益化していかなければならない時期には、こうしたトップダウン型のマネジメントが正しい面もありました。

しかし組織が成長し時代の変化も加速すると、その時々の組織のステージや部署、メンバーの顔触れなどによって、異なる「正解」が存在するようになりました。例えばメディカル事業部では成功したメディカルサミットも、事業フェーズや構成されるメンバーが異なる他の事業部で、うまくいくとは限りません。未来のマネジメントの姿は、状況に応じて何が最適解かを探索し続けることなのだと考えています。


聞き手:筒井健太郎辰巳哲子
執筆:青木典子

お話をお聞きした人

森口敬氏

レバレジーズ株式会社 執行役員

働くことを「面白い」と思える世の中を作ることが、個人的なミッションです。働くことを楽しめる人は、より大きな価値も発揮しやすくなると思うので、「レバレジーズってすごく成長しているけど、社員が生き生きして楽しそう」ということで知られる組織を作りたい。当社がロールモデルとして「面白い」働き方を伝播させることができれば、個人として目指す社会にも一歩近づけると考えています。