個人の能力と資質にフォーカスした組織拡大のための分散化――ゆめみ

2024年09月04日

2000年に創業し、企業のDX推進やシステム・アプリ開発、内製化支援、プロダクトデザイン支援などを手がけるゆめみ。「Developer eXperience AWARD 2024」4位入賞、「Findy Team+ Award 2023」では2年連続「生産性が高いエンジニア組織38社」選出などの受賞実績を持つエンジニア&デザイナー集団です。2018年に「アジャイル組織宣言」を発表し、ヒエラルキー型組織からティール組織へ転換。現在約400名規模と、国内最大級のティール組織へ成長した経緯・成果について、代表取締役の片岡俊行氏と取締役CHROの太田昂志氏に伺いました。

3人連続で「部長を降りたい」。全てを担うには無理があり過ぎた

―― 2000年の創業以来、2014年と2018年に大きな組織変革をされていますね。変革に至った背景や課題、経緯についてお聞かせください。

創業後しばらくは従来型の経営管理をしていました。しかし、2011年頃に起きたシステムの大障害を機に、マネジメントの役割を分散しなければ限界がくると感じたんです。

当時はマネジャー職に多くの役割が紐づいていました。難度が高いプロジェクトマネジメントを手がけながら、プロフィットマネジメント・プロセスマネジメント・ピープルマネジメントなどを幅広く担い、それぞれの役割がトレードオフの関係にありました。利益目標を達成するためには工数削減が必要だけど、顧客満足を維持するためにはメンバーに頑張ってもらわなければならない。でも、ハードワークはメンタル不調を生じさせる……といったようにです。

この状況のなかで、部長が3代続けて「部長を降りたい」と申し出てきて、「これはおかしいぞ」と。よくよく考えると、誰がやっても難しい無理ゲーに挑ませていたんですね。

そこで、2014年あたりから役割と権限を分散していきました。役職に対して役割を紐づけるのではなく、役割を明確に定義して、そこに人を紐づけるようにしました。当時、アメリカで「ホラクラシー組織」が生まれてきて、そのポイントは「役割分散型」にあったので、方向性は間違っていないと確信して自分なりのやり方で「マトリクス型組織」を目指しました。

当初は、特に大きな問題はなかったのですが、2018年に、当時の百数十名規模から1000名への組織拡大を目指すという目標を掲げました。実現しようとすると、より分業化を進め、専門に特化した組織を構築しなければならず、マトリクス型組織だけでは限界を感じました。未来を想像して逆算すると「このままではいけない」と。

組織の人数が増えていくと承認プロセスが形式化してしまい、機動力の低下につながるでしょう。また、各プロジェクトマネジャー(PM)が自由にやっていると必ずばらつきが出てくる。そこで、PMへの依存度が高い承認プロセスではなく、より自由度や機動力が高く、脆弱性が低い組織モデルを探しました。また、事業部門にとどまらず、管理部門を含めた組織全体の機動力を上げていく必要性も感じていました。

全社員に意思決定権を付与。「承認」ではなく「助言プロセス」で決定

―― 組織拡大への課題を踏まえ、どのような組織形態へ移行したのでしょうか。

新たな組織形態を模索するなかで出合ったのが「ティール組織」です。組織が拡大してもアジリティ(機敏さ)とクオリティ両方の維持を実現できている企業があると知り、「これだ」と。ティール組織のポイントは「助言プロセス」にあると捉えました。誰もがどのような意思決定でも行うことができるが、意思決定の前には「深く影響がある全ての関係者」「その分野の専門家」から助言を受けるというプロセスです。

そして、2018年10月、「アジャイル組織宣言」をしました。全社において、助言プロセスをベースとして組織の在り方を変えていくという意思表示です。

最初に形にした仕組みが「全員CEO制度」。全社員があらゆる意思決定を行える制度です。ただし、思いつくままに決められるわけでなく、関係者からの助言(批判・応援・質問など)を受けた上で、自ら意思決定します。一般的な「承認」の代わりに「助言プロセス」があるという仕組みです。

―― メンバーには混乱もあったと思いますが、どのような取り組みから始め、進めていったのでしょうか。

混乱が起きることは予想していたので、混乱も感じさせないくらい、ものすごい勢いで変えていきました。「痛みを味わわせないためには、一気にやった方がいい」と本で読んだので。皆、呆然としてよくわからないうちに変わっていったというのが実態ではないでしょうか。

「助言プロセスを導入したらどうなるか実験してみよう」という気持ちで、グランドデザインもないまま改革をスタートしました。取り組み始めると、メンバーからも助言をもらう必要があり、助言を求めると結構細かいところを突いてくる人が多く、助言を受けては考えることを高速で繰り返して、1カ月ほどで現在の8割程度の原型を作りました。

エンジニアやデザイナーで構成される業務遂行を担うチームに対して、全員がマネジメント機能を分担してチームを後方から支援するようにしました。マネジメント機能を「人材配置」「業務支援」「教育」「採用」などに細分化して、メンバーが参加したい機能を任意に選んで参加する手挙げ制の委員会が担います。このほかにも、マネジメントが担っていた業務の品質に関わる技術的な支援はテックリードチームが担い、カウンセリングやコーチングは社内外の専門家からサービスを提供します。これにより、PMはほぼプロジェクト管理に専念できるようになりました。

マネジメント機能分担のイメージ

―― マネジメント機能は、細分化して、得意なメンバーに任せているということでしょうか。

そうです。例えば、「育成」というテーマ一つとっても、「教えるのが好きな人」と「教材を作るのが得意な人」では全く違いますから。メンバーが個々の興味や能力を踏まえて、いずれかの委員会に入って活動しています。

マネジャーとしても、プロジェクト管理以外の業務を手放せるのはハッピーでしかありませんでした。特に「評価」を自己申告型にしたことは、皆、評価に苦労していたので、涙を流すほど喜んでいましたね。仕組み作りにしても、皆がやりたいわけではなく、やりたいのはせいぜい10~20人に1人。手挙げ式にしたことで、やりたい人が積極的に関わることができるようになりました。

―― 新たな概念・形態を、どのように組織に浸透させていったのでしょうか。

エンジニアが多いので、エンジニアが理解しやすいメタファーで浸透させるのがよいと考えました。例えば、助言プロセスは、独自に「プロリク(プロポーザルレビューリクエスト)」と命名しました。この名称は、エンジニアやデザイナーにとって当たり前のものとなっているリナックスのレビュープロセスである「プルリク」になぞらえたものです。「プロリクとは要するにプルリクと同じだよ」と伝えると、「そういうことね」と違和感なく受け入れられました。

また、ゆめみを一つのプロダクトとして見立て、「皆でウィキペディアのように編集していきましょう」と表現すれば、エンジニアの文化になじみやすくなります。ゆめみは以前から決定事項をドキュメントで記録することをやっていたので、文字に起こしてレビューして改善していく作業は、そこまで苦になりませんでした。「前からやってきたことだよね」と認知してもらうことで浸透しました。

先に食いついてくるエンジニアにやってもらい、その様子を観察したデザイナーが感触をつかんで乗っかるように広がり、全体の2%程度にとどまる管理部門は、「皆がやっているからやらないと」という感じで取り組むようになりました。エンジニアというマジョリティ     を動かして、いわば同調圧力で巻き込んでいくことも重要だと思います。

業務内容ごとに最適な意思決定モデルへの改革

―― 組織の移行に際し、阻害要因などはありましたか。

手続きとして、むしろ面倒になることも多かったですね。助言プロセスでは、根回しが必要となることもあり、二度手間になってしまう。「古い意思決定に戻っているのでは」と感じたこともありました。その一方で、関係者の意見がしっかり反映されて、関係者から助言を受けた方も納得感が高まったり、軽率な行動に対して必ず意見が組み込まれたりするので、やはりこれは正しいと実感しています。

―― 「自分で決めていく」わけですが、メンバーの皆さんはもともと自律的なマインドやスキルセットがあったのでしょうか。

自分たちで考えて意思決定して行動しなくてはならないという環境が、自律性を高めると考えています。例えば、皆で集まってバーベキューをやろうとかどこかへ遊びに行こうというのは、承認プロセスではないですよね。子どもの頃から大学時代まで承認プロセスにほとんどなじみがなく、社会人になっていきなり関わる。本来は助言プロセスが第一原理としてあり、重要な意思決定についての承認プロセスは二次的に生まれてきたのだと思います。ところが、社会人になると承認プロセスが第一原理のように思ってしまう。本来は助言プロセスと自律で考えていくことは、誰しもやっていることだと捉えています。

もともと自律性が高い人ではなくても、しっかりとドキュメントを提示してガイドラインを充実させれば、皆、考えることができるでしょう。

―― 「ガイドライン」とはどのようなものなのでしょうか

ガイドラインは助言プロセスを経て上書きできることが特徴で、固定化・形骸化しにくく、「そのとおりにしかやらない」ともなりにくいものです。ガイドラインを参考にしつつ、自分で考えるわけです。ただ、何もないと迷うけど、あったらあったで凝り固まることはあるので、そこを突き崩す模索の連続です。守らなければいけない「ルール」というものはかなり少ないですが、「ルールを決めるためのルール」は明確化しています。

―― 今後に向けての課題、新たな取り組みがあればお聞かせください。

PMのオーナーシップがやや失われて、物事を動かしにくくなっていることが、今、最も大きな課題となっています。仕事を細分化してみると、その内容によって、あるべき意思決定モデルが異なることが分かってきました。

手挙げ制の委員会は、全職種で流動的に行うことで業務に専念しやすいので、仕組み化が有効です。一方、特異な資質を持つ人の業務は仕組み化が難しい。その場合、その人にしかできない業務に専念できるように、その人に担わせない業務を仕組み化しています。

このような仕組み化がかなり進んでいるのが「採用業務」です。採用業務を20くらいの役割に分業して、「どうしても分業できない。資質を持つ人が必ずやらなければならない」と明確化した業務が、「リクルーター」です。私たちが観測したかぎりでは、数十人から50人に1人くらいしかいない特別な資質で、その人がリクルーター業務に専念できるようにするため、面接などの他の人にもできる業務は分業することで仕組み化しています。

この考え方を他の業務や組織に浸透させていくのは難しいのですが、徐々に共有できはじめていて、組織づくりや文化醸成を担う組織長たちには腹落ちしてきています。


聞き手:橋本賢二
執筆:青木典子

お話をお聞きした人

片岡俊行氏

ゆめみ
代表取締役

社会の実験室になるというパーパスに基づいて、軍隊のような規律性を持ちながら、小学校の委員会運営のような自律性を持つハイブリッドな組織運営にむけて大胆な実験を続けていきたいです。

太田昂志氏

ゆめみ
取締役CHRO

マネジメントのあり方を根本から問い直し、革新的な組織モデルを体現することで、社会に貢献したいと考えています。