Casefile.3 大阪府・私立四條畷学園高等学校

“とりあえず進学”という流れに一石を投じ、改めて高校卒就職という選択肢に光をあてる

2020年12月07日

私立ならではの個性豊かなカリキュラムを展開する同校。保育や進学に特化したコースをはじめ、吹奏楽クラス、情報クラスなど多彩なコース・クラス編成が特徴的だ。生徒の約9割が大学・短大・専門学校へ進学する中、いわゆる普通科に相当する総合キャリアコースでは専門学校や大学を招いて行うガイダンスや、保育コースでは保育学科のある同学園短大との連携授業を行うなど、各コースの進路に合わせたキャリアプログラムで一定の成果をあげてきた。しかし、「もっと多様な進路があってもよいのではないか」との思いから、2020年より、外部講師や外部機関と連携したキャリア教育・就職支援のトライアルを開始。改めて、高校卒就職という選択肢に光をあてた同校の取り組みを伺った。

(学校プロフィール)
大阪府・私立四條畷学園高等学校
創立:1948年
設置学科:普通科(総合キャリアコース、発展キャリアコース、特進文理コース、保育コース、6年一貫コース)
生徒数:1,143名(令和2年5月1日現在)
進路状況:進学371名、就職23名、進学準備・その他24名(2020年3月の卒業生)

就職指導の弱さが、進路を狭めていたという問題意識

進学をメインとした現在のキャリア教育プログラム導入から6年。見なおしのタイミングで進路指導部長を任されたのが持永大輔先生だ。「進学が主体ということもあって、就職支援には目が向けられていなかったことに改めて気づかされた」と言う。同じ疑問を感じていたのが、法人本部の薛翔文先生。「いい会社・いい就職の価値観が変わっている中で、高校はもっと多様な進路の提示をしていくべきではないのか。成績だけで輪切りされてしまうのではなく、それぞれがもっと活躍できる場があるはずでは」。二人が話し合いを重ねる中で、これまで、高校が十分な就職先情報やキャリアの選択肢を提示できなかったために、“なんとなく進学”させてしまっていた生徒もいたのではないか。高校卒業から就職してキャリアをスタートした方が良い場合もあるのではないかとの思いを抱いた。そこで、改めて高校卒就職という選択肢を広げようと、①外部講師による多様なキャリアモデルの提示、②外部機関と連携した高校卒就職のモデルケースづくりを開始した。

外部講師による、多様なキャリア授業へのトライアル

まず取り組んだのが、外部講師や外部機関との協働による「多様なキャリアに出会うイベント」の開催だ。これまで進学が中心とされていたことを考えると、そのインパクトがうかがえる。例えば、いわゆる普通科に相当する総合キャリアコースでは、1年次に各クラス6校の専門学校を招き「職業を知る」ことからスタート。その後、2年次に専門学校・大学の「授業体験」を行い、進路を考えつつ入試の準備や選抜のためのプレゼンテーション準備。3年次の進路決定につなげていくという流れ。保育コースでは、本学園の短大保育学科と連携し、1年次から短大の教員が授業に入って、将来、保育士・幼稚園教諭になるための保育基礎教育を行ってきたのが現状だ。
「保険会社を招いたライフプランニング研修なども開催しましたが、最も大規模だったのは、任意団体であるAnother Teacherと協働した、Another Teacher weekです」と薛先生。「もともとは、100人規模で社会人に来ていただくリアルのイベントを企画していたのですが、このコロナ禍でオンラインのイベントに切り替えました。それでも、5月には20名の社会人による17講座に、延べ500人の生徒が参加。生徒には最低2講座は聞こうねと言っていたのですが、1週間フルで参加した生徒もいましたね」。こうした講座が生徒のキャリア観にどれだけの影響を及ぼすのか、その成果は未知数。それでも生徒の好奇心をかきたてたことは間違いなさそうだ。

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旧来のやり方にしばられない、高卒就職モデルケースづくり

一方、具体的な就職支援として、高校卒就職を支援する企業、アッテミーとの協働でモデルケースづくりにも着手した。「支援企業の方と出会ってお話を聞く中で、大卒で就職が難しいような企業でも、高校卒で現場から基幹職にキャリアアップしていけるような求人があるのだと知りました。それなら、進学も就職も考えている生徒に、1つの選択肢として提案できると考えたのがきっかけです」と薛先生。一方、持永先生も「近年は就職希望者が20名程度と少ないこともあり、就職支援は限られた担当者しか携わっておらず、正直、担当以外はどのような指導をしたらよいかわからない状態になっていました。求人票もほぼ来たものだけを扱っている状況。生徒にとって魅力のある応募先の開拓も含めて、もっと手厚い支援をしていきたい」と話す。そこで、2020年度は、総合キャリアコースの生徒の中から4名の就職希望者を対象に、本人の希望をもとに就職支援企業が開拓した採用情報をマッチング、志望する企業に合わせた就職指導を支援企業のアドバイザー面談により行い、成功事例につなげる考えだ。「学校側のキーマンとしては、前進路指導部長の協力を得て窓口となってもらい、常に情報を共有してもらっています。この一期生をベストプラクティスとして、指導のノウハウを校内で蓄積していきたいですね」

進学も就職も、自分によりフィットした進路を選べる環境へ

「新しいプログラムは、昨年度新設の発展キャリアコースを主体にトライアルで実施している状況ですが、いずれ総合キャリアコースにも展開していきたいと考えています。現実は、指定校推薦で進学していった生徒の中にも早々に進路変更してしまうケースが起こっています。こうした進路のミスマッチをなくしていくためにも、キャリア教育の中でしっかり自分で考えて、選択させる、という流れをつくっていきたい。今まさに、全校でキャリア教育プログラム全体の再構を検討しているところです」と持永先生。その一方、「根本的に、生徒がどんな将来を描き目指していくのかというところは、担任がしっかりとコミュニケーションをとっていくことが重要。そこができれば、技術的なことは外部に頼ってもいい。でも最初の部分はやはり担任なんです」と強調する。また、「四條畷学園なら、より自分に合った進学先や就職先が選べる、そのための支援が受けられると、そういう体制をつくっていきたいですね」と薛先生。「今は学校の中枢に若い教員も多くいるので、新しい流れをつくっていけると思っています」。トライアルを経て、四條畷学園高校がどういったプログラムや支援体制をつくり上げていくのか、今後の動きに注目していきたい。

持永先生.jpg●四條畷学園高等学校 持永大輔先生が考える、学校と高校の先生だからできること
・普段のコミュニケーションを通じて、将来の目標を明らかにすること
・目標への向かい方を一緒に考えること
・多様な進路の選択肢を用意し、積極的な進路選択につなげること

取材協力/四條畷学園高等学校 薛翔文先生
執筆/鹿庭由紀子
※所属・肩書きは取材当時のものです。

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