Casefile.7 岐阜県立岐阜商業高等学校

株式会社運営の実学で、ビジネス人材を育成。長年の信頼関係を基盤にした堅実な就職支援

2021年01月22日

岐阜県内でも古い歴史を持ち、「県岐商」の名で親しまれている同校。卒業後の就職者の割合は約2割だが、岐阜・愛知といった中部圏の大手・有力企業からの指定校求人も多く、堅実な就職実績を積み重ねている。多くの部活動が全国大会に出場するなど、部活動も盛ん。そんな同校が取り組むのは、リアルな会社組織「株式会社GIFUSHO」の会社経営を通じて、商業の知識・技術を実践的・体験的に学ぶプログラムだ。「自分で考えて取り組むのが楽しいという生徒が年々増えてきた」と話してくれるのは、就職指導部長の石井義徳先生。同校のキャリア教育と就職指導の取り組みについて伺った。

(学校プロフィール)
岐阜県立岐阜商業高等学校
創立:1904年4月
設置学科:流通ビジネス科、情報処理科、会計システム科、国際コミュニケーション科
生徒数: 1,115名
進路状況:進学313名、就職83名、その他2名(2020年3月卒)

1~2年で身に付けた、商業の知識と技術を実践

株式会社GIFUSHOの取り組みは、2014年文部科学省のスーパー・プロフェッショナル・ハイスクールの研究指定を受けてスタートした。その後、岐阜県独自のスーパー・グローバル・ハイスクール指定を経て定着している。「商業高校として、以前からいろいろな催し物などで、商品を販売したり、商品開発をしたりということをやっていました。そうした背景もあり、簿記などの資格取得に力を入れるのはもちろんなのですが、もっと実学的に外と連携してやっていけないかということで始まったのです」。根底にあるのは、ビジネスで地域に貢献する人材を育てること。1~2年生のうちは、ビジネスマナー、商業の基礎を着実に身に付け、3年次では全校生徒が必ず何らかの形で会社運営に関わっていく。

仕入れから販売、納税まで科をつないでビジネスを学ぶ

株式会社GIFUSHOは、高校版「総合商社」として、生徒たち自身が、対外企業との交渉、扱う商品の仕入れ、商品開発、販売、お金の流れ(損益計算書・貸借対照表の作成、納税まで)を実際に経験する。販売は流通ビジネス科、会計は会計システム科、ネット販売・アプリ開発などは情報処理科、海外調達・展開は国際コミュニケーション科といった具合に、各科が連携し、まさにリアルな会社組織として活動しているのだ。「流通ビジネス科(販売事業部)では、クラスごとに扱う商品を考えるんです。例えば地元の菓子メーカーと交渉して『あられ』を仕入れ、ネット販売したり、ショッピングモールに出店交渉をして店舗での販売も行ったり。海外展開では、2018年に香港FoodExpoへ出展、2020年度は台湾の学校に修学旅行先として岐阜を考えてもらえないかということで旅行会社と組んでプレゼンテーションをしたりもしています」。これらの活動は、主に課題研究や総合実践の授業の時間を使っているという。「毎年、生徒が入れ替わるので運営は手間がかかる部分もありますが、それでも年々生徒主導になってきていると感じます。自分たちで考えて、悩んで、取り組むことが楽しいとか、販売で人と触れ合うことが楽しいという生徒もでてきています」。また、一方で、「実際にやってみたことで、自分は、やはり会計処理や事務処理が向いているかなといったことも、考えられるようになってきているように思いますね」。

身近な先輩のリアルな言葉で企業を知る動機付けに

「進路指導に関しては、1年生の段階では主に担任が中心ですが、2年生くらいからは進路に分かれた関わりとなっていきます。指導の考えとして、1~2年のあいだは、いきなり外に目を向けるというよりは、商業高校として、ビジネスマナーや資格取得といった基礎をしっかり身に付けることに集中させたいという考えがあります」。そのため、1年次の職業インタビューは全員必須だが、2年次のインターンシップは希望者のみ。一連の活動の中で、目を引くのが「内定企業研究発表会」だ。これは、3年生が内定をもらった企業とその産業全体について、自分で調べて発表するというもの。3年生にとっては入社までに自分に目を向けることになるし、1~2年生にとっては、将来を考える上で取り組むべきことを考えるきっかけになる。「体育館で全体発表をしたあと、3年生が6人ずつくらいに分かれて1~2年生のクラスへ行き、近い距離で話すんです。そうすると多くの質問が出るので、身近な先輩から話を聞くというのは大きな動機付けとなっているようです」。もちろん、就職希望の生徒だけでなく、進学希望の生徒にとっても大きな意味がある。「大学へ行った後地元に戻って、本校から高卒で入社した生徒がいる同じ企業に入社する生徒が結構いるんです。その時地元の企業を知っておくことが助けになっていると思いますね」

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個別の就職相談については、担任を中心に、就職指導担当が3名であたっている。求人を探す際には、まずは職種をよく見ることを一番に伝えている。「生徒の中には企業名や職種で選んでしまうことがよくあるんです。例えば、求人票に事務職とあっても、仕事内容をよく見ると電話対応が多い場合もあります。初対面の人と話すのが苦手だからPCでの事務作業を希望しているとしたら、その子には向いていない仕事だったということになりかねません。仕事内容が本当に自分に向いているのか、よく見てほしいですね」。指定校求人に希望者が複数いた場合には、校内選考となるが、その場合は、成績や資格取得、部活動などすべての活動を点数化した評定点により順位付けをして決定する。「生徒には、そういう観点で評価するよと言ってあるので、納得してくれていると思います」。一方で、2~3年生の企業見学会では、学校求人以外の企業へも、生徒が自分で調べて見学へ行くこともある。「学校求人以外の企業についても生徒はよく調べているんです。見学に行って、応募にチャレンジしたいとなれば、その時は学校から企業へ求人票を出してもらえるようにお願いして、学校求人にしてもらいます。生徒には、企業との信頼関係を大事にするように常々言っていて、“求人票をいただく=必ず応募する”ということが大前提であると話しています。ハローワーク経由で求人票を出していただくのは、万一、内定取り消しとか、条件が違うといったことがあった時に生徒を守るため。卒業した後も、少しでも学校として生徒の力になってあげたいのです」。仕事については、「いい仕事、悪い仕事というのはない。必要とする人がいる以上、その仕事があるわけで、必ず誰かの役に立っている。誰かに貢献してるのが仕事。そのことを忘れないでほしい」と生徒に伝えている。

将来のビジョンと進学・就職を結んで考える場を

多くの高校で、就職のミスマッチの課題があがる中、同校では卒業生が相談にくるといったことはそれほど多くない。「ありがたいことに、伝統的に本校の生徒を採用していただいている企業が多いので、身近に同窓生がいて、企業も育て方に慣れているということもあって、辞めてしまう子というのは、1年以内で1人いるかいないか。3年でも5名以下だと思います」。あえて課題をあげるなら、「最近、とりあえず進学という流れを感じることですね。大学に行った生徒に話を聞くと、地元に戻って高卒の子と同じ仕事がしたいといった話がよく出るのですが、大卒の子には、もう少し大学の経験を活かした仕事もしてほしいのです。とりあえず進学する子の課題は、大学へ進学して自分は何を学び、どんな将来を目指すかを考えられていないことだと思います。一方で、高卒の子に対して、地方の中堅・中小企業では、就職してからいろんなことを経験させ、総合職として将来を担ってもらうような取り組みをしてる企業がたくさんあるのです。そうした入社後の育成について、進学希望の生徒に伝えきれていないように思います。そういうことを、進学、就職に関係なく幅広く伝えていきたいです」。さらに、長年、就職指導を担当する特定の教員だけにノウハウが蓄積されていることも気がかりのひとつ。高校卒の就職指導のノウハウを引き継ぐ、後進の育成も今後着手していきたいと語ってくださった。

石井さん.jpg●岐阜県立岐阜商業高等学校 石井義徳先生が考える、高校と高校の先生だからできること
・就職の相談で、細かなところまで手を差し伸べてあげられること
・企業を選ぶ時、ひとつの面だけでなく、別の側面からのアドバイスができること
・卒業生と在校生を、結び付けてあげられること

執筆/鹿庭由紀子
※所属・肩書きは取材当時のものです。

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