Casefile.9 名古屋市立工芸高等学校
企業・社会人・専門ナビゲーターと連携し、探究学習から就職指導までをつなぐ
電子機械科、情報科、建築システム科、都市システム科、インテリア科、デザイン科、グラフィックアーツ科と、特色ある7つの学科を有する同校。就職希望で入学してくる生徒も多いが、最近では進学者も増えており、実際の進路は就職と進学がほぼ半々。そんな同校が取り組んでいるのが、①進路指導部が主軸となり、「総合的な探究の時間」内でのキャリア教育と進路行事を効果的に組み合わせていくこと、②専門のキャリアナビゲーターとの協働で、個人面談などの就職支援を強化することだ。その取り組みについて、進路指導主事の岩佐先生にお話を聞いた。
(学校プロフィール)
名古屋市立工芸高等学校
創立:1917年4月
設置学科:電子機械科、情報科、建築システム科、都市システム科、インテリア科、デザイン科、グラフィックアーツ科
生徒数: 816名
進路状況:進学132名、就職133名、その他7名(2020年3月卒)
授業の見直し、ナビゲーターとの協働を開始
同校の進路指導部は現在11名体制。その中に、就職担当3名、進学担当3名、行事担当3名、探究学習担当が1名が在籍している。2019年度から「総合的な探究の授業」(※1)の移行期間がスタートしたことに加え、2018年から、名古屋市では市立高校にキャリアコンサルタントの国家資格を持った、キャリアナビゲーターを配置。教員とキャリアナビゲーターが連携しての支援も開始されるなど、改めて、学校全体としてキャリアプログラムや進路行事の在り方を見直す時期を迎えている。現在は、1年生で週1時間の探究学習を実施、キャリア教育の内容を少しずつ見直しながら、試行錯誤しているところだ。
探究学習で基礎をつくり、社会と接続していく
「現在、1年生の探究の時間では、主に学科を知る授業や、自分を知るという授業。これから学ぶ専門的な知識や自分の強みを、社会に出たときにどう生かせるのか、社会に貢献できるのか、自分の特徴や性格を踏まえて考えるということを行っています。これをベースとして、職業講話を聞いたり、ライフコストイベントゲームでお金について学んだりしていきます。これは、すごろく形式のボードゲームで、選んだ職業――会社員なのかフリーランスなのかお笑い芸人なのかによって毎月の手取りが変わったり、社会保険料が引かれたり、結構リアルで。実社会で生きていくのに、どれだけお金がかかるのかを実感できるものです。2年生は、3日間の職業体験がメインで、加えて、社会人講話や3年生の話を聞くなど、より職業選択を意識した行事が増えていきます」。では、社会との接続をはかる上で、企業や社会人からはどんなことを伝えてもらっているのだろう。「1年生の進路ガイダンスでは、企業のかたから、主にその会社での働き甲斐や、社会にどのように役立っているかについて。2年生では、卒業生に今の実際の仕事と高校で学んだことが、どうつながっているかといったことを話してもらいます。また、3月には学科ごとに関連する企業から話を聞く機会もありますし、探究の時間の中でも『卒業生と語る』という回を設けています」。加えて、全学年共通で行っているのが、キャリアサポートデーというイベントだ。2019年度は23社ほどが来校、体育館にブースをつくって、生徒は最大3社の説明を聞いたという。「愛知県の高校卒就職は、1人1社制をとっており、応募前職場見学も1社と決まっています(※2)。そのかわりというわけではないですが、3年間を通じて、社会人や企業に職業や仕事について聞く機会をできるだけたくさん設けています。そこで、少しでも視野を広げてもらえれば」。
働くことの意味をしっかり考えさせ、志望動機につなげる
就職指導はどのように行っているのだろうか。「進路によって指導を分けるタイミングとしては3年生の1学期末ごろ。かなりぎりぎりまで全員同じように指導しています。ただ、2年生の年度末には『進路調べ』として、その年の求人票や大学・専門学校のパンフレットなどを見て、自分が来年度どんな学校・会社を選択するのか、具体的に考えることを始めます」。就職希望者の場合は、求人票の一覧から見ていくが、その時に伝えているのは、「自分なりの観点を持って、比較する」ということ。「仕事の内容だったり、給与だったり、休日だったり、それぞれ優先順位をつけて比べさせる。その中で自分はこういう仕事がやりたいんだってことに気づいてもらえたらいい」。さらに、「進路調べは個人でやるというより、資料室に集まってみんなでワイワイやるんです。そうすると生徒同士の情報共有というのができて、自分では探せなかった企業の情報も得られるようになっています」。
しかし、実際の就職指導の場面では、志望動機があいまいな生徒が多いことに課題を感じている。「面接練習で、入社したらどういう仕事がしたい?と質問すると、求人票に書いていることしか答えられないんですね。その時は、その会社がやっている仕事は、誰のために、どうして必要なのかという理由を考えてもらう。そこを理解した上で、その仕事をやりたいかどうか確認させる。すると仕事の理解が進んで、自分のこういう強みが生かせるとか、こんなふうに会社で活躍できるとPRも考えられるし、働く動機にもつながっていくようです」。リアルな接点が少ない中でも、生徒の理解を促す関わりを意識している。こうした個別相談では、キャリアナビゲーターの存在も心強い。「教員にはない視点や、社会経験が豊富なので、自身の経験を生徒に伝えてくださったり、進路選択のアドバイスも教員とは違った視点でしてくださったりして助かっています」。
キャリア教育の共通理解を深め、新たなプログラムを
今後、学校として就職支援についてどのような取り組みを検討しているのか。今目を向けているのは、3年間のプログラムの拡充だ。「キャリア教育と、それを支える『総合探究の時間』を、どのように築いて、つないでいくのかということを、今まさに検討しているところです。その中で改めて感じるのは、キャリア教育について、先生方全員に共通の理解を持ってもらうことの難しさです。職業教育とキャリア教育がイコールになっていて、どうしても出口教育の話ばかりになってしまう。まずは学校全体として、理解した上で生徒の支援を進めていきたい」。専門高校として、「キャリア教育から就職支援まで」を、どのようにデザインしてくのか注目していきたい。
●名古屋市立工芸高等学校 岩佐武史先生が考える、高校と高校の先生だからできること
・生徒の魅力を見つけること
・生徒が見えない範囲の選択肢を与えたり、選択肢を見つけるきっかけをつくること
・身近な職業人としてのアドバイスができること
(※1)2022年から高校の正式科目として導入される
(※2)インタビューはあくまで個人の見解です。愛知県では応募前職場見学を1社に限定する旨、明文化していません。また、地域によって職場見学の位置づけや運用は異なります。
執筆/鹿庭由紀子
※所属・肩書きは取材当時のものです。