Casefile.6 星槎国際高等学校

自分で学び方を選択し、ボランティアからインターンまで段階的に社会との接点をつくる

2021年01月15日

1999年に広域通信制高校としてスタートした同校。「生徒が学校に合わせるのではなく、学校が生徒に合わせる」をコンセプトに、生徒一人ひとりが自分に合った学び方を選択していけるのが特徴だ。授業科目は、高校卒業認定に必要な基礎科目に加え、111種類ものゼミ科目から興味関心に合わせて選択。登校日数も選ぶことができ、例えば週3~5日のオンライン授業に、月1回の登校(従来の通信型を踏襲)を組み合わせるなどのやり方が可能だ。卒業生親の会(保護者のネットワーク組織)や、民間就職会社、ハローワークなどとも連携しながら、個を尊重した就職指導に取り組んでいる。

(学校プロフィール)
星槎国際高等学校
創立:1999年4月
設置学科:普通科(広域通信制高校)、専攻科
生徒数: 298名(立川学習センター)/5562名(全国)
進路状況:進学53名、就職19名、その他13名(2020年3月卒:立川学習センター)

一人ひとりを尊重し、自分の生き方を見つめさせる

個性を尊重するインクルーシブ教育に長年取り組んできた同校。毎日通学することに息苦しさを感じていたり、得意・不得意のはっきりしている生徒、スポーツや芸術活動に没頭したい生徒、海外に住んで学ぶ生徒など、多様なニーズを持った生徒が在籍している。時間割も登校日数も自由に選べるため、難関大学を目指してとことん勉強する生徒もいれば、ほとんどをボランティア活動に費やし年間で30以上の活動に関わる生徒もいるという。そうした中、進路指導・就職指導も、単に進学先・就職先を決めるということではなく、将来どう生きていくのか、生き方や人生観について考えることを重視。不登校を経験した生徒もいる中で、外部との関わりが重要と考え、ボランティアやアルバイト、インターンシップなどを通じて段階的に、社会との接点を持ちながら、社会で生きていく一歩を踏み出せるようサポートしている。

社会と関わる環境をつくり、生徒の自信につなげる

選択式を取り入れている同校の学びは、それ自体がまるごとキャリア探求のプログラムともいえそうだが、全体として行う進路行事としては、各学年3回の進路ガイダンスや進路の選択授業がある。その中では、生徒が興味を持っている業種・職種の社会人を招いて、その人がこれまでどういう選択をしてきたのかといった話を聞く機会を設けている。また、就職指導や進学指導だけでなく、「働くってどういうことだろう」ということを考えるキャリアデザイン授業も行っている。「その授業では、働かなくてはならないという指導ではなく、“生き方や人生観を考える”ことに主眼を置いています」と、立川学習センターの山下峻先生。
その一方で、同校では学校の外で学ぶことを推進している。「学校の外での経験が、働くことを考えるのにとても良い経験になるからです。そのためには、『段階』を設けることがとても大事。例えば、いきなり企業でのインターンシップが難しいという生徒であれば、学校内で働く学内インターンシップを実施しています。まず校舎の事務や清掃からはじめて、次は近隣校舎での仕事、知り合いのいる会社とステップアップして、段々と行けるところを増やしていくんです」。そのため、立川市内に職場体験やインターンシップができる場をたくさんつくってきている。登校日数を選べるので、アルバイトやインターンシップだけで学校に来ない日を決める生徒もいれば、前期は学校に3日しか来られなかったけれど、ボランティアだけは毎週参加して、後期から学校へ来られるようになったという生徒もいる。こうした活動の記録は、インターネット上で蓄積できるようになっており、ある程度まとまった時に、個人の指導計画へ役立てていくのだそう。

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長く続けることを目的に、得意・不得意を考える

校舎での進路指導担当は現在3名体制であり、全国の校舎とも連動している。家庭とのやりとりや窓口としての役割はクラス担任が行うが、生徒はそれぞれ自分が話しやすい先生に相談するスタイルだ。進路の方向性を決定するのは、2年生の末から3年生のはじめにかけて。就職希望者は例年10~20名で、3年生の5月ごろに職種理解・企業理解を進めていくが、外部の企業合同説明会には進学希望者も全員参加する。進学者も将来働くからだ。応募先を決めるための、夏の職場見学は、「興味のあるところには行けるなら全部行ってほしい、同じ業種で最低2社、違う業種も1社見て比べてみるように伝えています。見学の際は、職業について聞くこと、また自分の求めていること、苦手なことを踏まえて話すようにアドバイスします」。得意・不得意がはっきりしている生徒も多いため、就職先を決定することより、長く働き続けることを重視しているからだ。「今の就職活動の仕組みでは難しいですが、ほんとうは、職場見学や体験の機会を増やすなど、企業側も生徒側もお互いにきちんと理解できる機会をつくれると良いと思います」。校舎での傾向としては、実際の応募はすべて学校を通じて行い、複数応募が解禁される10月(今年度は11月)以降から開始することが多いという。
一方で、外部機関との連携もはじめており、現在、高校卒の就職では民間就職会社やハローワークと一緒に取り組んでいる。「教員自身が就職活動の経験が少なく、求人票だけではどんな企業か見えないという課題を感じていたのですが、企業側からの視点で話を聞くことができ、視野が広がりました。生徒にとっても、外部の大人と話すことが経験となり、自信につながっているようです」

教員自身が学び、多様なニーズへの選択肢を持つ

他の多くの学校と同じく、同校にとっても、ミスマッチや卒業生のサポートにどう取り組むかは大きな課題だ。実際、卒業生が相談に来ることも多く、ハローワークの使い方を教えたり、企業へつなぐことも行ったりする中で、「学校として卒業生のための支援をどうしていくべきか」を、ずっと考えながら行動している。「ミスマッチが出ることは仕方のない部分もあるのですが、そこには理由が必ずあるはず。社会変化や生徒のニーズも多様化する中で、私たち自身が固定観念にとらわれずに、生徒の選択肢を増やす活動を進めていきたい」と山下先生。同校には、卒業生親の会という卒業生の保護者のネットワーク組織があり、その会を通じてインターンシップ先を開拓したり、キャリア授業の講師をお願いするなど、就職や進路指導の心強いサポーターとなっているそうで、改めて親の会との協力も考えられるかもしれない。ハローワークや民間の就職サポート会社など、外部組織との連携も試みながら、「生徒がその先の人生を考えられるようになるには、自分たちも世の中のことや社会変化について学び続けないといけない」と話してくださった。

山下先生.jpg●星槎国際高等学校 山下峻先生が考える、高校と高校の先生だからできること
・生徒が自己理解を深める環境づくり
・身近な大人としてのロールモデル。大人が考えて行動、学んでいることを示す
・自分自身の生き方を考え、他者との関わりから社会性の構築や困った時の対処法を考える場面が作れる

執筆/鹿庭由紀子
※所属・肩書きは取材当時のものです。

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