Casefile.4 大阪府立布施北高等学校
普通科としてはじめてデュアルシステムを導入。地元100社以上の協力を得て、生きる力を育成
2004年に、普通科としてはじめてデュアルシステム(※1)を導入。以来、地元企業の協力のもと、「学校での授業」と「企業での実習」の2つの学びを融合させたキャリア教育を行っているのが大阪府立布施北高校だ。2017年には、一人ひとりの力をひきだすエンパワメントスクールへと改変。つまずいたところを徹底的に学びなおすとともに、3つの系列“モノづくり・ビジネス系列”“教育・福祉系列”“多文化・教養系列”から、興味・関心・進路に応じた科目を選択して学習。「デュアル実習」を通じて、実社会で生きるために必要な力や将来を考える力への気づきを促している。同校の学びから就職指導まで、進路指導部長の渡邉大地先生に話を伺った。
(学校プロフィール)
大阪府立布施北高等学校
創立:1978年4月
設置学科:総合学科(エンパワメントスクール)
生徒数: 562名
進路状況:進学47名、就職79名、その他26名(2020年3月卒)
自己肯定感や社会的経験を、職業実習で育てる
高校卒就職者の減少、フリーターやニートの増加といった背景から、2004年、ドイツなどの事例をもとに文部科学省がモデル事業としてスタートさせたのが日本版デュアルシステムだ。当時の布施北高校は、生徒指導の難しさを抱える高校の1つであり、卒業生のうち約4割が進路未定のまま卒業していく状況だった。背景には、生徒が抱える課題として、学習面でのつまずきや自己肯定感の低さ、社会的経験の少なさなどがあったという。そこで、学校以外の場所で職業を体験することで、社会で生きる力を育てようと、普通科として唯一、デュアルシステムのモデル校に手を挙げたのが、取り組みのスタートだった。実習の目的は、職業の技能を身に付けることではなく、職業観を育てること。また、実際の職業体験を通じて自分の適性を考え、就職であれ進学であれ、自分の進路選択に生かしていくことだ。
生徒×企業×教員のトライアングルで課題を克服
同校のデュアル実習は、2・3年生の希望者を対象に、半年~1年の間、週1回程度・丸1日、実際に企業で職業実習を行うプログラムだ。分野は、製造と販売・サービス、保育、介護の4つで、2年生は半年ずつ2ヵ所、3年生は1年間で1ヵ所を選ぶことができる。生徒たちは1年生の9月に2日間のインターンシップを体験した上で、実習に行くかどうかを決定。2年生で全体の6~7割、3年生で5割が参加する。「実習に行くだけでなく、総合的な学習の時間の中でデュアル基礎やデュアル演習といった授業も組み合わせて行っていきます」と渡邉先生。運営はデュアル担当教員が中心となって、学校での授業設計から実習先企業との調整などを取りまとめる。生徒の希望に沿って、実習先を割り振るのもデュアル担当の役割だ。一方、実習中は、企業ごとに“巡回担当教員”がつくのだが、これはすべての教員で分担する。「実習に行った際、生徒は日誌を書くことになっているのですが、巡回担当は必ずそれを読んでコメントして、アドバイスを行います。生徒それぞれ、課題や必要なことは違います。あいさつが苦手なのか、作業が苦手なのか、うまく周りとコミュニケーションがとれないのか……。企業の方からフィードバックを受けたり、本人の話を聞いたりしながら、この部分を伸ばせるんじゃないかとか、この部分がすごく良かったよと、一人ひとりの課題を解決していけるようにしているのです。担任とも情報交換をしながら進めていますね」。また、月に1回程度は校内研修を行い、実習を振り返り、次の取り組みを考える時間も設けられている。「生徒たちには、経験を積むことで自分に自信を付けていってもらいたい。やはり実際に経験してはじめて気づけることも多いという点で、デュアル実習の意味は大きいと思います」
自分なりの企業を選ぶ基準を持つことにこだわる
進学や就職に関しては、進路指導部が企業や大学・専門学校との窓口や、全体の行事の取りまとめを行うが、生徒一人ひとりの指導を行うのは担任が中心だ。就職希望の場合、3年生の7月の職場見学に行く企業を決めるのが、前半の大きな目標。デュアル実習に行った生徒の中には、実習先企業に就職したいというケースもあるが、進路を考えられない、やりたいことがないという生徒も多い。求人票を見るときは、公開求人か指定校求人かにかかわらず、「まずは自分が何をしたいのかを見つけること。“どの仕事ならできるのかな”というのをとにかく探しなさい。その次に、給与や福利厚生を比べなさいと言いますね」。どうしても選べなければ、「まず自分の好きなことや、やってもいいと思うことを10個。次に、絶対やりたくないことを10個書かせて“絶対やりたくない”以外のところから探させたりもします」。職場見学は、進路指導部長である渡邉先生がすべて面談をし、最終決定を行っている。見学は少ない生徒で3社、多い生徒で5社ほどを回る。「1社だけ見て決めるのは難しいと思います。なので、製造に興味があるというなら、同じ製造で2つ比べてみようか。あとは、製造以外で見なくていいの?という話をして、だいたい3社になることが多いです」。そのうえで、採用枠が1人の企業に複数希望者がいた場合は校内選考となる。観点は、3年間の評定と、欠席・遅刻の数、7月の期末実力テストの点数だ。
最後に、渡邉先生が指導の中で大切にしていることは何だろうか。「その子なりの企業を決める基準があるかどうか。そうでなければ突き返します。自分の中で何が大事か、突き詰めて考えなさいと。教員に言われたからではなく、自分で決めたと思わないと、簡単に辞めてしまうことにつながると思うので」
高校でできる経験、場を使い、自己決定できる力を
地域企業の協力によるデュアル実習が浸透する一方で、就職時のミスマッチは同校でも課題に感じている。「進路指導部長になって、卒業生の就職指導もしているのですが、1か月や2か月で辞めてしまう子も多いのです。生徒自身が大人になり切れていなかったり、就職への思い違いやミスマッチがあったりするのだと思うのですが」。卒業生のフォローとして、生徒が就職した企業、求人をもらっている企業へは、次の年には必ず訪問して話を聞くことにしている。しかし、企業側や卒業生自身から問題や悩みがあると言われない限りは踏み込んでいくことも難しい。「今は求人票の数の方が生徒の数より多いので、割と簡単に就職できていしまうと現状もあるのですが、そういうものではないと。自分の進路について、もっとしっかり考えさせていかないといけない」。また、バイト先に就職したいという生徒も多いが、ほかの職業を知らずに決めてしまうことにもったいなさも感じている。「いろいろな選択肢を経験した上で、自己決定できるようになってほしいですね。担任の先生にも、生徒がこうしたいと言っていることに関して、何でそう思うのか、何でそういう結論に至ったのか、しっかり聞いてやってくださいとお願いしています。生徒自身は一生懸命考えているようでも、もっと違う道もあるかもしれませんから」
●布施北高等学校 渡邉大地先生が考える、高校と高校の先生だからできること
・就職や社会人になるにあたって、その学びの場を提供すること
・いろいろな選択肢を経験させた上で、自己決定させること
・担任が、生徒一人ひとりに合わせて進路の手伝いをしていくこと
(※1)学校での授業と企業での実習を組み合わせて行うことで、勤労観・職業観を育てる教育システム。企業での実習が正式に単位として組み込まれている
執筆/鹿庭由紀子
※所属・肩書きは取材当時のものです。