キャリア教育開始15年。高校の進路指導はどのように変化したのか?

2020年11月20日

2006年、学校でのキャリア教育が本格的にはじまった。当時は、新卒者の早期離職やフリーターの増加が問題視され、学校から社会への移行上の問題を解決することが狙いだった。「円滑な移行」を実現する方法として、政策としてのキャリア教育は、その後、職場への適応・職業観の醸成・基礎力の開発を目的として進められた。

リクルートワークス研究所では、わが国のキャリア教育開始に先立ち、提言書『分断されたキャリア教育をつなぐ。』(2004)を発行した。そこでは、個人のキャリアはつながったものであるにもかかわらず、学校のキャリア教育は分断されていることを指摘し、関連する3つの課題を提示した。①小中高の学習内容の分断、②カリキュラム間の分断、③学校と外部支援組織間の分断だ。当時は、職場体験をしてもそれが学校での学習とどのようにつながっているのかはよくわからず、中学校の職場体験先と高校のインターンシップ先で生徒は同じ活動をしたりしていた。外部関係者が学校に入ろうにも非常にハードルが高く、外部との協働はなかなか進んでいなかった。

これら提言書で指摘した3つの分断は、15年が経って果たして改善されたのだろうか。

近年、学力の向上、総合的な探究、キャリア教育、進路指導、就職指導、生徒指導、部活動指導など、高校の教育活動は多岐にわたる。教員の働き方改革が問題となる一方で、生徒らの多様な成長スピード、多様な学習スタイル、多様な進路希望、多様な学習環境など、「個人にあわせた教育」を理想論に終わらせないためには、高校教員だけでなく、外部の力が欠かせない。キャリア教育が開始されて以降、キャリアアドバイザーの配置や企業など外部講師による講話、大学教員による模擬授業などもおこなわれるようになっており、外部人材が高校のカリキュラムに関与するケースは年々増加している。特に高校でキャリア教育を進めていこうとした場合、工業高校や商業高校などの専門高校に限らず、普通科でも企業や専門学校・大学などと何らかの形での連携は欠かせないだろう。しかし、外部連携については積極的な高校がある一方で、消極的な学校もまだまだ多い。いかにして生徒のキャリア形成に必要な連携を進めればよいのだろうか、高校は生徒のキャリア形成にどのような役割を担い得るのだろうか。

個人のキャリア形成における高校キャリア教育の役割

本プロジェクトは高校卒就職で起きていることについて、当事者・企業・高校の視点から、その「間」にある問題をあぶりだすことを目的としている。「高校に聞く。キャリア教育と就職指導」では、キャリア教育・就職指導における学校と外部機関との「間」の連携に焦点をあて、インタビュー結果を報告する。

インタビューでは、9校の高校を対象にキャリア教育および、就職指導の内容を聞き、学校外部との連携がどのようにおこなわれ、その中で高校はどのような役割を担っているのかを尋ねた。結論を先取りすると、高校のキャリア教育は、生徒ニーズの多様さを反映するように、かなり多様な連携を前提におこなわれていることが明らかになっている。

続く第1回からは、以下のような連携をおこなう、高校のキャリア教育・就職指導を紹介する。(順不同)
・地元企業とのネットワークを活かし、進学で他県に就職した生徒のUターン就職を支援する機関をつくろうとしている高校
・地域のNPOと協働でカフェを運営し、生徒らの対人スキルの強化に力を入れる高校
・1年生から職場見学、複数の職場で働く経験を通して、学ぶ目的を考え、最終的な進路選択につなげる高校
・人口減少が進む地域の中でどのように仕事を選び、地域で生きていくのかを地域企業との連携の中で考えさせようとしている高校
・地元商品の販売だけでなく、企業との交渉や仕入れ、お金の流れを管理することを日常の学習として取り入れている高校
・できないことをできるようにするのではなく、カバーできる別のスキルを身に着けることを目的としてNPOでの実習経験をおこなう高校
・外部人材を面接官とした面接練習を通して、「なぜその企業で働きたいのか」を考えさせる高校
・自分なりの仕事選択の軸を持つために、半年から1年の職業実習をおこなっている普通科の高校

インタビューでは、生徒らのキャリア形成をうまく進めることができないことに対する課題を赤裸々に語ってくださったケースもある。これら一連のインタビューからは、いかに生徒の実態にあわせた学校から職場への移行を支援するか、生徒らの成長を願う高校教員の姿が見えてくる。生徒らのトランジションに対峙する先生方はいつも生徒の成長に真剣だ。

しかし、その一方で学校だけではなかなか見えてこない、学校と企業、当事者、関係機関の「間」でおこっている仕組み上の問題もいくつか存在することが明らかになってきている。我々は、これら三者の「間」にある問題にも目を配りながら、学校インタビューの中で明らかになった多様なキャリア教育・就職指導の在り様を報告する。
学校インタビューから明らかになった事柄は、今後、「全国高校キャリア教育・就職指導調査」にその一部を反映し、追ってリリースする予定だ。

執筆/辰巳哲子