追加検証:大企業では「企業主導の人事異動」は当たり前なのか

萩原牧子

2025年03月17日

日本型雇用というのは、大企業の正社員の雇用システムの話であるから、その実態を検証するには、従業員規模が大きい企業の勤務者に限定した方がよいのではないか——。Global Career Survey 2024 の分析報告書『「日本型雇用」のリアル』をご覧になった複数の有識者から、何度かご指摘をいただいた。

私たちのプロジェクトでは、日本の雇用の代表的な特徴のように語られる、その「日本型雇用」に該当する人が、正社員の中のどれくらいを占めるのかを検証する目的もあったために、あえて、従業員規模による集計対象の限定は行っていなかった。とはいえ、確かに、従業員規模を考慮した実態も気になるところだろう。特に日本型雇用の特徴の中でも「企業主導の人事異動」は、ある程度の企業規模がないと、異動先が存在しないというのはもっともだ。

本コラムでは、『「日本型雇用」のリアル』の追加検証として、従業員規模別に「企業主導の人事異動」の実態をGlobal Career Survey 2024(以下GCS2024)の集計から見ていく。規模が大きい企業に勤務している正社員に「企業主導の人事異動」といった日本型雇用の特徴が鮮明に見えるのかに着目したい。

GCS2024では「本人の同意なしでの業務命令による変更」という企業主導の異動に加え、「会社側からの打診に、本人の同意を得た」異動と「本人の希望」に基づく異動についても、今の会社で起こり得る可能性と過去の経験の有無を聞いている。

大企業でも「企業主導」よりも「本人の同意」前提

まず、今の会社での職種変更の可能性を見ると(図表1)、確かに「職種が変更になる可能性はない」割合が、企業規模が小さいほど高いことが確認できる。また、すべての異動について、企業規模が大きいほど、可能性がある割合が高まっているのがわかる。

ただし、興味深いのは、いずれの企業規模でも、「本人の同意なし」の企業主導の職種異動可能性よりも「本人の同意」を経る異動可能性の方が、さらには「本人の希望」に基づいた異動可能性の方が高いことだ。たとえば、1000人以上の企業規模の場合、「本人の同意なし」の職種異動の可能性があるのは35.9%と、従業員規模が小さいところに比べると高いものの、「本人の同意」を前提としたものは40.4%で、「本人の希望」に基づくものは55.3%である。
 
図表1 職種変更の可能性(従業員規模別・複数回答)
図表1 職種変更の可能性(複数回答)

経験率は「企業主導」が最も高いものの1割程度

続いて、実際の経験を見ると(図表2)、可能性と同じく、従業員規模が大きいほど高くなるものの、可能性に比べると、その差は大きくない。異動の中では「本人の同意なし」の企業主導によるものが最も高いものの、1000人以上の大企業で11.3%と、「本人の同意」を経た異動(8.9%)と2.4ptしか変わらない。
 
図表2 職種変更の経験率(従業員規模別・複数回答)図表2 職種変更の経験率(複数回答)
 

※経験率は、変更の可能性があると回答し、かつ経験した人の割合

 
次に、転居をともなう勤務地変更の可能性を見てみてみると(図表3)、企業規模が大きくなるほど可能性は高くなり、「本人同意なし」の企業主導よりも「本人の同意」を経る方が転居をともなう勤務地変更の可能性が高くなっている。
 
図表3 転居をともなう勤務地変更の可能性(従業員規模別・複数回答)図表3 転居をともなう勤務地変更の可能性(複数回答)
実際の転居をともなう勤務地変更の経験率を見ると(図表4)、企業規模が大きいほど高くなる。1000人以上では、「本人の同意なし」の企業主導によるものが最も高く、「日本型雇用」の特徴が確認できるものの、11.4%程度であった。
 
図表4 転居をともなう勤務地変更の経験率(従業員規模別・複数回答)図表4 転居をともなう勤務地変更の経験率(複数回答)

※経験率は、変更の可能性があると回答し、かつ経験した人の割合


大企業に着目しても、日本型雇用の特徴と言われる「企業主導の人事異動」の経験率は、職種、地域ともに1割程度に過ぎなかった。その差は「本人の同意」を経る異動と大差なく(職種で2.4pt、勤務地で3.9pt)、企業からの提案といっても、一方的なものばかりではないことがわかった。

また、職種の異動可能性については「本人の希望」に基づくものが1000人以上の大企業で55.3%と最も高く、「個人選択型異動」といった従業員の主体的なキャリア形成を尊重する異動の選択肢が、大企業を筆頭に広がっている様子もうかがえた。

萩原 牧子

「Global Career Survey」研究プロジェクト プロジェクトリーダー。大阪大学大学院博士課程(国際公共政策博士)修了。株式会社リクルートに入社後、企業の人材採用・育成、組織活性の営業に従事。2006年にリクルートワークス研究所に参画。首都圏で働くひとを対象にした「ワーキングパーソン調査」の設計や、全国の約5万人を対象にした「全国就業実態パネル調査」の立ち上げを経て、2019年から調査設計・解析センター長を務める。個人の就業選択や多様な働き方について、データに基づいた研究、政策提言を行う。公共経済学・労働経済学専攻。専門社会調査士。

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