顔認証とセンサーで商品管理から決済まで無人で行う実験店舗を運営(セキュア)
【Vol.6】セキュア 取締役 執行役員 CBDO(最高事業開発責任者) 平本 洋輔(ひらもと ようすけ)氏
これまで対人業務が中心と思われてきた接客・販売の分野だが、セキュアではAIによる顔認証やセンサーを用いて無人型店舗の開発・運営を行うほか、万引き対策などの商品管理システムでも小売店舗の省力化を支援する。ただ、同社取締役執行役員CBDOの平本洋輔氏は、「無人型店舗で利益を出したり、複数店舗を展開したりできるのは、2~3年ほど先ではないか」と予測する。無人型店舗における現状の取り組みと課題、同社が描く小売業の自動化・省力化の将来像について話を聞いた。
セキュリティの画像解析技術を利用して小売業の自動化・省力化を推進
セキュアという社名のとおり、同社は物理セキュリティの分野を中心に、入退室管理システム、監視カメラシステム、画像解析ソリューションなどの事業を展開している。さらに平本氏は、「10年ほど前からAIなどによる画像解析の技術が急速に発展し、カメラから得られる情報を活用した高付加価値サービスが可能になりました」と話す。
「当社の主な取引先は一般企業および商業施設で、前者に対しては数年前からAI顔認証による勤怠管理などのサービスを提供しています。次に商業施設でのサービスを具体化する足がかりとして、AI顔認証で入退店管理から決済まで行う無人型店舗の検討を始めました。2018年頃から企画をスタートさせ、実際に導入先が決まって店舗をオープンしたのは2020年7月のことです」(平本氏)
セキュアの無人型店舗「SECURE AI STORE LAB」は、同社が入居する新宿の高層ビルの地下1階にある5坪の店舗で、自社で運営し、出展した企業が提供する商品を販売する形をとる。出入り口のセキュリティゲートに加え、店内の天井・棚にはカメラや商品管理用のAIカメラや重量センサーなどを50基以上設置し、棚ごとに複数のデジタルサイネージも備えている。同社はここで無人型店舗の運営や業務効率化のノウハウを蓄積して、小売業へのサービス提供へとつなげる考えである。
棚ごとのカメラとセンサーで、来店客が手に取った商品も把握
「SECURE AI STORE LAB」の利用方法は以下のとおりである。来店客は初回にユーザー登録サイトで名前や決済用のクレジットカードを登録し、初回入店時に店頭のカメラで自分の顔情報を登録する。その後は顔認証で入退店ができ、店内で商品を手に取って退店用のゲートを出る際には、購入する個数がモニターに表示される。画面上の決済ボタンを押すことでクレジット決済が行われる仕組みとなっている。
商品管理には商品の陳列棚にあるカメラと重量センサーを活用する。在庫数をリアルタイムに把握して、棚卸しの作業をなくすことが可能で、商品配置の違いによる売上の変化などを知ることもできる。さらに利用客が購入しなくても、一度手に取って棚に戻した商品もわかり、年齢層や性別などと照らして、商品に興味を持つ層をある程度把握することも可能になる。また、同店は無人のため、商品を手に取ると棚の上部に設置されたデジタルサイネージに、自動的に商品のオススメポイントやクチコミ情報などが表示されるのも特徴となっている。
セキュリティ対策としては、商品が一度に大量になくなった場合などには万引きの可能性を検知して運営側に伝え、不正入場者に対しては店内のサイネージに警告を表示する。さらに、体温が高い来店客にはゲートを開けないなど感染症対策にも対応している。
「この店舗は無人型店舗の実証実験の場で、出展企業が購買情報や棚の管理情報を分析することで、商品の開発やマーケティング、効果的な陳列の検証などに活かせると考えています」(平本氏)
「@cosme STORE」や雑誌「DIME」が出展した店舗を運営
オープン時の出展企業となったアイスタイルは、日本最大級のコスメ・美容の総合サイト「@cosme」を運営し、国内外に30店近くの実店舗「@cosme STORE」を展開している(店舗は子会社による運営)。
一般的にコスメ関係の商材は、店舗では接客による適切な情報の提供を経て購入に至ることが多く、展示しておくだけではコンバージョン率が低いといわれる。「@cosme STORE」もコスメを試したり新しい商品を見つけたりする体験の場を目的とするが、実際には店員はレジや商品管理の業務に時間がとられ、来店客への接客に支障が出ているという課題があった。そのためセキュアの「SECURE AI STORE LAB」でのコスメ販売は、一般店舗の業務効率化を進めるノウハウを得る狙いもあったという。
「店員がいる店舗といない店舗を比べた場合、現時点では有人店舗のほうがよりよい顧客体験が提供できるのは間違いありません。特にコスメ商品は、最初から買う商品を決めて来る“目的買い”だけでなく、新しい商品の情報を得て、試して買う“発見買い”も多い商材といわれます。もちろん、当社もこうした業種の店舗ですべての業務を無人化すればいいとは考えてはいません。『SECURE AI STORE LAB』では実証実験のため無人化、カメラとセンサーによる棚の管理、顔認証決済など多様な技術を導入していますが、その中から企業ごとに業務の省力化が図れるサービスを取り出して提供していく考えです」(平本氏)
一方、2021年4月から出展した小学館の雑誌「DIME」による店舗は、同誌のポップアップストア的な位置付けとなっている。同誌では誌面で紹介した商品や同誌オリジナル商品などをECサイトで販売しているが、特にオリジナル商品については読者が実物に触れる機会がなかった。「SECURE AI STORE LAB」ではそうした商品を置いて読者と新たな接点を持つとともに、オフラインではどのような層が消費に興味を持つのかというマーケティングの目的も兼ねているという。
「この場合、デジタルサイネージは『DIME』本誌の商品紹介ページを表示するなど、雑誌との連動性を高めています。当社が無人型店舗の開発を支援する場合は、このように来店客に“発見買い”を促すタイプを目指したいと考えています」(平本氏)
既に2022年2月から日本郵政の2拠点(東京中央郵便局、横浜市の都筑郵便局)で試行が始まった「JPショールーム」では、「SECURE AI STORE LAB」で培ったAIカメラシステムやAI(画像認識)技術が使われているという。これは郵便局の空きスペースに日本郵政のECサイトで販売している商品の展示スペースを設けることで、郵便局の利用者に商品を発見する場を提供するもので、セキュアは画像認識で来場者の年代や性別、視線などを分析し、どんな商品に興味や関心を持ったか、などの情報を日本郵政側に提供している。
無人型店舗の普及にはコストダウンと目的・立地の選別が必要
ただ、平本氏は「実際に店舗を運営し、取引先企業との商談を重ねるなかで、無人型店舗の普及に向けた課題も浮き彫りになった」と現状を分析する。
「最も大きな課題はコストです。コンビニエンスストアなど一般的な小売業の店舗で得られる営業利益が年2~3%と言われるのに対し、無人型店舗への初期投資が例えば1000万円、ランニングコストが毎月数十万円かかるとしたら、費用対効果が見込めないという経営判断になるでしょう。また、何かトラブルがあった時、例えばシステムにエラーが出て復旧をしなきゃいけないとか、商品の補充などをしないといけないとか、その対応のために裏に人がいなければならないということになれば、やはり無人では難しいところもあります」(平本氏)
この場合の初期投資にはセキュリティゲート、店内のカメラやセンサーにかかる費用が金額として大きい。さらに、ランニングコストにはAI顔認証や来店客の行動分析を行うために利用するクラウドサービスやサーバーの費用負担が発生する。現状では、クラウドサービスの利用料などの負担が大きく、導入に二の足を踏む企業も多いという。
「会計の精度についてもまだ課題はたくさんあります。精度が低い状態であれば、来店客が出口で製品情報の入力をやり直さなければならず、結果として待ち時間が発生してしまうということにもなりかねません。ただ、3年後や5年後になれば設備やクラウドサービスの大幅なコストダウンが進み、AIの画像解析の精度が上がっていくことで、普及に弾みがついていくと思います。また、『SECURE AI STORE LAB』は小売業の未来像という位置付けで、先進的な技術を多く盛り込んでいますから、実際には設備を簡素化してコストを下げることも可能です」(平本氏)
何を目的とした無人型店舗かによって、必要な設備は変わってくる。例えば同社が目指す“発見買い”ではなく、“目的買い”を主とした店舗であれば、あるコンビニエンスストアのミニ店舗のように、簡易な入退場管理システムと店舗内の監視カメラ、セルフレジという構成でも無人型店舗は実現可能だ。
「いわば自動販売機の延長上にある無人型店舗で、このタイプは立地が上手くハマれば普及は早いでしょう。駅や空港の利用客が通りすがりに買い物をするような店舗なら、ある程度決まった品揃えでもよく、多機能なサービスも必要とされないので無人化に適していると思います」(平本氏)
そのほか、平本氏は無人化と親和性の高い事例として、ECサイトがメインの書店が新たな本との出会いの場を提供するために店舗を作るケースなどもあげている。一方で、コンビニのように商品の種類やサイズが多様で、多くの人が来店する可能性がある場合には無人化は難しいだろう。また、生ものなどを扱う場合は衛生管理者をどうするかといった問題など人の確認をどうするかといった規制の観点からの課題も残る。
一部を無人化するハイブリッド店舗では、DXの徹底でさらなる省力化を
店舗で店員が行う多様な業務についても、発注や商品の並べ方など過去のデータを基にロジックが組めるものなら自動化は十分可能で、「売れた商品を補充する品出し作業はロボットで置き換えができ、現状では個別性が高くAIでの代替が困難な接客業務も、技術の進歩により将来は代替可能になるでしょう」と平本氏は予測する。
「ただ、そうした店舗の利用客がAIやロボットによる接客を喜ぶのか、それで何度も利用してくれるのかを考えると、すべては無人化しないほうがビジネスとして成功するかもしれません。例えば、スーパーの店舗などを見ているとお客さんは回遊するんです。ですから目的買いをしているわけではないんですね。そして、そこでお客さん同士の出会いであったり、店員さんとのやりとりであったり何かしらのコミュニティーが生まれているケースもあります。地域や世代によって、店舗での接客に何を求めるかは異なりますが、私自身は人と人とがつながる場としての店舗を求める利用客が一定数は残ると思うんです」(平本氏)
「SECURE AI STORE LAB」で行っているような棚卸し作業の軽減のほか、発注業務の自動化など一部の業務を無人化し、接客はあえて人が行う。あるいは日中は店員が対応し、利用客が少ない夜間は無人化する。そうしたハイブリッド店舗のスタイルなら、一般的な店舗でも導入が進むのではないかと平本氏は考える。
「小売業では、DXによる省力化の余地はまだまだ多く残っています。細かいところでは価格表示のデジタル化もそうですし、新人教育を各店舗の店員でなく本社がオンラインで一括して行えば、現場の戦力を減らさずに済みます。利用客向けに加え、社内の省力化も同時に進めることで、人材不足に対応すべきと私は考えています」(平本氏)