チラシ作成や物件資料作成など付帯業務の自動化で対人営業に集中(オープンハウスグループ)

【Vol.4】オープンハウスグループ マーケティング本部 DX部 次長 橋本 悟氏/マーケティング本部 DX部 DX戦略グループ 山尾 祥平氏/経営企画本部 情報システム部 アプリケーショングループ 主任 水上 健人氏

2023年01月16日

1997年創業のオープンハウスグループは、都心部の狭小地に独自の設計ノウハウを施した3階建て戸建て住宅を企画設計、販売する戦略でコロナ禍も成長を続けている。飛び込み営業や電話営業によるパワフルな営業集団のイメージだが、実は緻密な生産性向上の取り組みが急成長の背景にある。対人の営業活動に集中できるよう付帯業務の自動化を着々と進め、新たな発想で既存の不動産営業の殻を破る。同社DX部の橋本悟氏、山尾祥平氏、情報システム部の水上健人氏に自動化による効果や今後の取り組みについて聞いた。

営業は「介在価値」の発揮に集中し、それ以外は極力自動化

オープンハウス戸建て仲介の総契約件数の6割を占めるのが「反響営業」である。WebサイトやYouTube、SNS経由の資料請求者に対して電話やメールでアポイントを取り、商談につなげるスタイルをとる。次いで多いのは「源泉営業」と言われる独自のアプローチ方法である。

DX部 橋本悟氏

「営業が担当エリアの物件近くの路上でチラシを配りながら歩行者にお声掛けして、興味を持っていただいた方と連絡先を交換、商談につなげていきます」とDX部次長の橋本氏。昔ながらの営業スタイルだが、実は家の購入を検討している人は近所で探していることが多いため、理にかなった戦術だと言える。実際に全契約数の3割は「源泉営業」から生まれている。

営業の自動化の考え方は至ってシンプルで、橋本氏は次のように説明する。

「営業の本質的な仕事とは、お客さまのニーズを引き出して提案することで『介在価値』を発揮すること。お客さまと接していない時間は、結局、営業の業務範囲ではないので極力自動化したいと考えています」

電話でアポイントを獲得する「追客」や具体的な商談が営業のコア業務とすれば、ノンコア業務としては契約書作成や営業資料作成などがある。このうち契約書や重要事項説明書などの作成は、以前からバックオフィスが巻き取るスタイルをとっていた。しかし、例えば顧客との最初の商談時に提案用に営業が持参する物件チラシの作成。また、商談が具体化してくると必要になる物件の概要書や敷地の形状、間取り図、ゴミの集積場所などの物件資料のピックアップ作業などは営業の負荷となっていた。

「日々の営業の作業の中には、チラシなどお客さまへの提案資料作成の業務が1日30件ほどあり、かなりの作業時間になっていました。こうした営業が必ずしもやらなくていいノンコア業務をロボットに置き換えて、電話や街頭、訪問での営業活動に専念させることで生産性を高めていこうというのが私たちの狙いです」とDX戦略グループの山尾氏は強調する。

最大14パターンの表現が可能なオンラインチラシ全自動作成システム

自動化の具体的成果が上がっている取り組みの1つがAI・RPAを活用した業界初の「オンラインチラシ全自動作成システム」である。同システムでは営業が音声やテキストチャットでロボットに物件名を伝えると、チラシ作成に必要な情報をロボットが社内システムから収集し、物件チラシを自動で作成する。

「チラシデータには自動でQRコードが発行され、お客さまがスマートフォンからQRコードを読み込むと詳しい内容を確認できます」と山尾氏。

従来は営業が物件のアピールポイントを顧客のニーズに沿った表現に落とし込んだチラシを各自で作成していたが、同システムでは、「立地」「価格」「間取り」「学区」などのオススメポイントを変えた最大14パターンのチラシを短時間で作成できる。また、不動産のチラシは、景品表示法のルールに従う必要があり、その審査にも時間と労力を要していたがAIが作成することで、審査自体のプロセスも大幅に短縮・効率化した。

オンラインチラシ全自動作成システム

同様に仲介業務で営業が顧客に提示する資料については、社内の膨大な数の資料を手作業で検索・編集・結合しており、煩雑かつ単調な業務の負荷が大きかったが、「物件資料自動作成システム」は機械学習技術を活用することで、社内ファイルサーバー内の各種営業資料の分類や必要資料の抜粋、編集の自動化を実現した。また媒介物件資料(チラシ)の帯部分を検知し、自社用に差し替える作業を自動化することで合わせて年間 2万時間の工数削減を実現した。

開発(仕入れ)の生産性向上に貢献しているのが「物件資料自動取得 RPA」である。開発営業が実際に現地の視察をする際、地図や謄本情報等、物件関連資料が必要になることがある。しかし、資料の多くは社内からしかアクセスできないため、営業は外出先からオフィスにいる社員に電話して代わりに情報を取得して送ってもらうなどしていた。こうした作業をRPA活用により自動化することで、外出先から1~2分程度で必要資料を入手できるようになった。この取り組みは年間約2000時間分の労働時間削減に貢献した。

迅速な意思判断を支援する「宅地の自動区割りシステム」

同社では宅地を仕入れる際、仕入れた土地を2~3戸に区割りして販売するケースが多い。この区割り設計は従来、設計図の作成に1~2日かかっていたが、仕入れには迅速な判断が求められるため、設計期間の短縮が課題となっていた。2020年にリリースした「宅地の自動区割りシステム」は、区割りを実施する際の制約条件となる建蔽率や容積率、接道幅や隣の建物との距離や駐車場面積などのパラメータを入力するとそれを遵守した状態でのプラン候補を作成、提示してくれる。

「土地はすべて一点ものであり、そこに建築基準法など複雑な要素がからみます。最終的には建蔽率や容積率はもちろん斜線制限や天空率などすべての要素を考慮しなければなりませんが、本システムについてはまだ精度的に課題があり、そのまま建築に入れる段階にはありません。しかし、検討初期段階で何棟建つのかスピーディーな判断が欲しい際には一定の効果を発揮します。当社では年間1万棟近くの戸建て需要があり、限られた人的資源では応えきれない部分がありますので、当面はAI+人で、徐々にロボットに作業を置き換えていきたいと考えています」(橋本氏)

system宅地の自動区割りシステム

直近では新しい顧客体験を作る試みも始めている。例えば業界初の「AI営業スタッフ」は、顧客がチャットボットで気軽にオンライン上で家探しの相談ができ、検討を進められるように作られた。コロナ禍で店舗へ足を運べない人やオンラインで希望通りの物件を探し出すのが難しい人にとっては、プロと相談しながら家を探すような体験を得られる。2022年5月には宅建業法改正により電子契約が解禁されたが、同社では物件閲覧から売買申し込みまで、マンション購入をオンラインで行うことが可能な「OPEN RESIDENCIAオンラインストア」のサービスも開始した。今後は売買契約およびローン契約までをオンラインで完結できる仕組みの構築を目指している。

「これは物件を洋服や本のようにワンクリックで買えるサービスで、24時間365日、価格や間取りなどの資料の閲覧ができ、資金計画のシミュレーションや簡易的な審査、クレジット決済での申し込みなどが可能です。既存の業務効率化とは違う切り口で、新しい顧客体験を実現するDXにも取り組んでいます」と橋本氏。

付帯業務の自動化は進むが、対人営業そのものの価値は不変

DX戦略グループ 山尾 祥平氏国内の宅地仕入れ業務について、「社外とのやりとりが発生する部分は自動化がしづらい」と山尾氏は語る。「地元の不動産会社さんとやりとりする場合、ITリテラシーの格差が問題になることがあります。多くの不動産会社ではいまだに物件情報などをファクスや電話でやりとりすることが多いのです。将来的に見れば、こうした業界の慣習も変えていかなければなりません」(山尾氏)

また、コアの対人営業活動そのものがAIやRPAに取って代わる可能性については、橋本氏は現段階では実現性は低いと見る。

「誰しも理想の家というものがありますが、現実的にはそれを叶える完璧な物件はありません。予算や立地、間取りや周辺環境など、どれかは妥協せざるを得ないのが不動産の商品特性なので、最後の段階で人と話してその妥協点を探る作業が不可欠です。10年、20年のスパンで営業の自動化について見た場合、そこまで劇的には変わらないと私は考えています。過去10~20年で見てもパソコンやスマホを使うようになったという変化はありますが、対人の部分はそこまで大きく変わってはいません。不動産は人生で最も高い買い物になる人も多くいるため、信頼できる人から買うという考え方はこれからも残り続けると思います。付帯業務で自動化は進みますが、本質的な介在価値の部分は変わらないのではないでしょうか」

DX人材に求められるのは「課題発見力」と「意思の固さ」

今後の自動化の余地については「まだまだある」と橋本氏。現在は戸建て事業の自動化を急ぐが、それ以外の事業はまだ手付かずの部分が多いという。

同社ではアメリカの不動産を日本の富裕層に投資商品として販売しており、現地の不動産の管理も行っている。家賃の設定については現地のサイト情報などを参照するが、当該物件の内装や設備の状態などを鑑みたうえで最終的に判断する。この部分はロジカルに規定するのが難しいという。

「現地とのやりとりもまだアナログだったりします。本来自動化できる作業ですが、できているのは感覚的にまだ1、2割ぐらいしかない感じです」(橋本氏)

山尾氏も「工数の削減だけでなく、事業サイクルの短縮によってお客さまがよい商品を早く手に入れていただけることが大きなバリューになっています。今後も自動化についてはどんどん進めていこうと考えています」と意欲を見せる。

アプリケーショングループ 主任 水上 健人氏システムを担う水上氏は「これまでは事業部ごとに局所的な自動化を進めてきたため、同じ土地、建物の情報を仲介部門と建設部門別々で管理していました。これからの課題は事業部横断の全体を見据えた自動化、データ化を進めて無駄を省くことです」と語る。

2021年の10月に立ち上がったDX部(9名)のメンバーはもともとマーケティング部(約40名)、情報システム部(約40名)からの異動者で連携が取りやすく、事業部からの要望をそれぞれに橋渡しする形でDX化を強力に進める。推進メンバーに求められるスキルに関して橋本氏はこう語る。

「現場の課題を発見したうえで、解決策の要件定義までを導き出すのがDX部のミッションですから、テクニカルスキルも大切ですが、業務理解のほうがより重要です。どういうプロセスで現場が動いていて、どこに課題やボトルネックがありそうかを特定する課題発見力ですね。具体的なRPAの実装などについては情報システム部と連携して進めていきます。最も大切なのは『意志の固さ』だと思います。『プロセスを変えましょう』と呼びかけると、どうしても現状維持バイアスが働きがちです。そこを地道に説得して回る粘り強さや意志の固さが重要なスキルだと私は考えています」

(聞き手:坂本貴志村田弘美、高山淳/執筆:高山淳)

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