デジタル化・業務の自動化とともに、リアル店舗は体験価値創造の場に変わる
【まとめ】自動化・機械化による働き方の進化 販売編(前編)
お店で買い物する際、事前に専用アプリをダウンロードしてアカウントにサインインするだけでレジを通さずに決済が可能な「Amazon Go」など、海外では小売業界のDXが進んでいる。国内でもスマホ決済の導入や無人店舗の普及など業務の自動化が進みつつあるが、小売業全体では慢性的に人手不足の状況が続いている。前編では販売職の主なタスクの内容を探りながら、自動化・機械化によって働き方がどう変化していくかを考察する。
現在の販売職の働き方と自動化・機械化へのロードマップ
■小売業における労働者の主なタスク
小売業で働く人の基本タスクを整理すると、主な業務は「レジ・接客」「陳列・補充・棚卸」「管理・販促」に大別できる。
多くの店舗で「レジ・接客」業務の中心的なタスクは、レジにおける会計業務となる。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)によると、「レジ・接客」業務は小売業店舗業務全体の約3割の人時を占めるという。接客業務については、入退店時の挨拶や商品説明などの問い合わせ・苦情対応、アパレルなどであれば洋服・靴・メガネなどの採寸やフィッティングなどの業務が発生する。特にアパレルやコスメ、家電量販店、書店などは販売従業員の専門性や特定顧客との長期的な付き合いが付加価値となり、売上を左右する側面も大きい。一方で、スーパーマーケットやドラッグストア、コンビニエンスストアなどの場合、商品のある棚の問い合わせや欠品・クレーム対応などのほかはセルフサービスが基本となり、レジ・接客領域の業務はその多くがレジ業務に集中していると考えられるだろう。
「陳列・補充・棚卸」は商品の品出し、整理、前出し、欠品チェック、補充、鮮度や損傷チェックなどの業務がある。この業務は店舗業務の3~5割の人時を必要とし、バックヤードとの往復や中腰での長時間作業など身体的な負荷も大きい業務になる。また、在庫の棚卸作業は通常3カ月~1年に1度のタームで行われるが、こうした業務も在庫と実際の会計上の数字の突き合わせが煩雑であり通常業務と並行しての準備作業に前後の期間を拘束されるなど負荷が大きい作業になっている。近年では、ネットスーパーなどECと連携して店舗で商品をピックアップ、配送するなどのオペレーションも発生している。
「管理・販促」は商品の値付け、発注、売上管理、本部への報告、需要予測、チラシの企画、催事の計画、ディスプレイ制作など販促策の企画・実行、シフト管理、衛生対策、防犯対策など幅広いタスクがある。こうした管理業務は多くの店舗において店長などによって 担われているが、多くの業務に忙殺され長時間労働に追われている人も少なくない。
■小売業は典型的な労働集約型産業。自動化による生産性向上が不可欠
小売業のうちスーパーマーケットやコンビニエンスストアは、コロナ禍にあっても巣ごもり需要などから業績が堅調な一方、慢性的な人手不足に悩まされている。人手不足の解消や競争力向上のために機械化、自動化による生産性の引き上げが不可欠な状況にあると言える。スーパーマーケットは典型的な労働集約型産業であり、日本の小売業は特に1人あたりの生産性が低く、スーパーの従業員の平均給与額はアメリカの3分の1程度だという。今後については必要最小限の人手で店舗を運営し、高水準の給与を保証できるように生産性を上げることが鍵になるだろう。スーパーでは顧客のレジ待ちが課題になっており、多くの店舗はピーク時に合わせてレジ係を配置するが、通常の時間帯は逆に非効率になりがちである。本研究のインタビューで扱ったスーパーマーケットカスミのように商品のスキャンから決済まで顧客自らが行う完全セルフサービスの普及によって、レジの無人化が進むことになるだろう。
コンビニエンスストアでも同様に人手不足が叫ばれており、24時間営業に伴うオーナーの負荷が社会問題化するなどしている。コンビニ各社はスマートフォンで商品のバーコードを読み取りキャッシュレス決済ができる「スマホレジ」やセルフレジの導入を進め、運営の効率化を急ぐ。
陳列作業でもロボットの導入が始まっているが、例えば一般的なスーパーマーケットの商品数はおよそ1万5000SKU(受発注・在庫管理を行う際の最小の管理単位のことで、同じ商品でもパッケージ、入り数などの違いで区別する)ある。生鮮食品から日用雑貨まで形も大きさもバラバラであり、商品の入れ替わりが激しく、複雑な期限管理が必要なことがロボット導入の阻害要因となっている。発注作業については従来の人手による作業の場合、誤発注や発注忘れ、二重発注による欠品や在庫過多が、機会ロスや想定していなかった値引き販売につながってしまっており、AIの進化とともに精度の高い自動発注システムへの期待が高まっている。
■レジ・陳列作業は先行して自動化が進行、人は体験価値の創造へ
スーパーマーケットの店舗作業のうち平均的にはレジ・接客業務が約30%、品出し・陳列・棚作業は約40%、その他が30%程度を占める。このうちレジ業務については顧客自身がバーコードの読み取りから精算まですべてのレジ業務を行うフルセルフレジ、バーコードの読み取りを店員が行い、精算は設置機器で顧客が行うセミセルフレジの導入が進んでいる。セルフレジ全体の導入率は23.5%で、51店舗以上を保有している大手では70.6%という高い設置率となっているが、26~50店舗の中堅で39.3%、4~10店舗という地域密着型では12.8%にとどまる(2021年スーパーマーケット年次統計調査報告書)。レジの小型化や客側のセルフ受け入れが進めば、いずれすべてがセルフレジ化もしくはスマホレジ化していくだろう。2040年頃には「Amazon Go」のようにレジ自体が存在しない店が当たり前になっているかもしれない。
品出しや陳列作業については、レジ・接客業務よりも省人化の難度は高い。ただ、ファミリーマートが2024年度までに自動で陳列棚に補充するロボットを300店舗に導入する計画を策定しているなど取り組みも進みつつある。現状は飲料など形状が一定のものが中心だが、パッケージの統一化や技術の進化とともに適用範囲が拡大していくだろう。
値付けや売上管理、棚卸などについては電子棚札で需給に応じてAIが自動的に値決めして価格表示するようになり、天井・棚にカメラや重量センサーを設置することで客が買い物かごに商品を移動した時点で自動決済されるようになる。本部の管理システムと連動させることで完全無人化も夢ではなくなる。
一方で試食販売やマグロの解体ショーのような催事など、そこでなければ得られない体験価値は他店との差別化要素として残るだろう。また、ECが拡大するなか、ZOZOや丸井の「売らない店」のようにプロが時間をかけて洋服をコーディネートするなど、専門店は「買う」から「発見する、体験する、カスタマイズする」場に変わっていく。
後編では、「レジ・接客」「陳列・補充・棚卸」「管理・販促」のタスクごとに各領域での自動化や働き方の進化について解説していく。
キーとなる思想とテクノロジー
・無人レジ(セルフレジ) ・スマートストア
・無人型店舗 ・RFID
・顔認証決裁 ・電子棚札(ESL)
・AIカメラ ・スマートショッピングカート
・スマートディスプレイ ・商品棚管理ロボット
・デジタルサイネージ ・AIバーチャルアシスタント
・流通BMS ・マイクロ・フルフィルメントセンター
・メタバース
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(執筆:高山淳、編集:坂本貴志)