【Tech Stack Interview】HRテクノロジーコンサルティング会社 X氏(創設者)

2019年08月28日

三大システムとは?

米国企業の多くは、応募までのワークフローをCRM(採用候補者管理システム)で、応募後をATS(応募者追跡システム)で管理しており、内定後にはオンボーディング(新卒・中途採用者を早く職場に慣れさせ、即戦力化するためのプロセス)用のシステムも使っています。これを弊社では三大システムと呼んでいます。オンボーディングには、HRIS(人事管理システム)で書類を管理する場合もあれば、正式なオンボーディングシステムでタスクを処理する場合もあります。この他、数百種類のソリューションがエコシステムを形成しています。

大手企業向けのATSの中で大きな市場シェアを握っているのは、Taleo[1]とKenexa BrassRing[2]です。iCIMS[3]とWorkday[4]もこの領域で成長しています。中小企業向けでは、Greenhouse[5]とLever[6]が利用されています。GoogleとLinkedIn[7]の動向も注目されています。

採用ステージ別で人気の高いテクノロジー

ソーシング・採用マーケティングの領域では、Appcast[8]のようなプログラマティック広告ソリューション、Entelo[9]といった潜在層採用ソリューション、LinkedInが広く利用されています。その他、Phenom People[10]、SmashFly[11]、Talemetry[12]といった多数のスタンドアローン型の採用マーケティング製品プロバイダーが大手企業から多額の出資を得ています。

エンゲージメント・人材供給パイプラインマネジメントについては、Phenom People、SmashFly、Talemetry、ENGAGE Talent[13]といった採用マーケティングのプロバイダーが同機能の開発に積極的に取り組んでいます。

選考・アセスメントの領域は、SHL[14]やDDI[15]といった老舗アセスメントプロバイダーと、Pymetrics[16]やKoru[17]、英国MindX[18]といったゲームベースの新しいアセスメントサービスの2つのカテゴリーに大別されます。この2つの要素を兼ね備えたShaker InternationalのアセスメントサービスVirtual Job Tryout」[19]も多くの企業から高い評価を得ています。

オンボーディングについて多くの企業が社内のATSやHRISを使っていますが、Click Boarding[20]やEnboarder[21]というオンボーディング専用のプラットフォームもあり、入社手続きをペーパーレス化し、新入社員の入社前後のエンゲージメント向上をサポートしています。これらのプラットフォームは、使いやすく、導入が容易です。役所への電子申請や企業のコンプライアンスをサポートする機能もあります。

大手企業の多くは50超と、驚くほど多くの採用テクノロジー製品を利用し、テクノロジーの年間予算も増やしています。ある有名な大手小売企業は、2018年だけで採用テクノロジーを16種類も新規導入しました。ビデオ面接製品を3~4種類も併用している大手企業もあります。

採用責任者がテクノロジーに期待する効果

企業の近年の採用活動に大きなインパクトを与えているテーマの1つは、候補者体験の向上です。多くの大手企業が、今年の最優先事項に掲げています。Survale[22]やTalentegy[23]では、候補者のアンケート調査やタレントに関するベンチマーク分析を行い、改善点を企業に示しています。企業は、候補者体験の向上に役立つ貴重なインサイトを得ることができます。

ボットやビデオといった多様なテクノロジーを採用にも活用し、求職者とのコミュニケーションを少し改善するだけで、候補者体験や採用効率、質の向上、採用にかかる日数の短縮など、企業はさまざまな優先事項に大きなインパクトを与えることができます。

採用プロセスの自動化は5割超

採用マーケティングや応募プロセスは、一部自動化が進んでいます。採用プロセス全体を通じて求職者とのタッチポイント(接点)が多数ありますが、それを自動化できることに多くの人たちは気づいていません。私個人にとっては、スクリーニングや身元照会などの領域は、自動化するのが当たり前です。しかし面接は、今後もずっと"自動化と人間の組み合わせ"で行われると思います。面接のスケジュール調整は自動化が必要ですが、重要なポジションについては今後も対面面接が常に行われるでしょう。今後5年以内に採用プロセスの50%超が自動化されると思います。

インタビュアー=ジェリー・クリスピン TEXT=杉田 万起

[1]Taleo:製品名は「Oracle Taleo Cloud Service」。人材の募集、採用、育成、定着を簡単に行えるOracleのクラウド型人材管理システム。
[2]Kenexa BrassRing:製品名は「IBM Kenexa BrassRing on Cloud」。興味喚起から選考、採用、定着までを網羅した統合人材採用ソリューション。複雑な組織のニーズに応じて、部署別に人材募集ページを簡単に制作できる。募集人員や応募状況、社内公募についての問い合わせなどが一目で分かる。
[3]iCIMS:SaaS型のエンタープライズ向けATS「iCIMS Recruit」のプロバイダー。複数のジョブボードへの同時求人広告掲載、ソーシャルリクルーティング、リファラル採用のサポート、レポーティング&アナリティクス機能を備える。
[4]Workday:人事から採用、タレントマネジメント、ラーニング、労働力管理、給与計算管理、報酬管理までを網羅し、人材、労働力、コストを一目で把握できる統合型HCMクラウドシステムのプロバイダー。
[5]Greenhouse:求人広告の作成からジョブボードやSNSへの求人掲載、採用プロセスの進捗管理、候補者管理、採用経路の分析レポートなどを網羅するATS「Greenhouse Recruiting」などを提供。
[6]Lever: 候補者のデータベース検索、Googleなどのカレンダーツールと連動した面接の日程調整、キャリアページの制作といった機能を備えるATS「Lever Hire」を提供。
[7]LinkedIn:ビジネスに特化した世界最大手のSNS。世界で 6億人超の職歴データが保存されている。
[8]Appcast:広告枠を自動買い付けし、ターゲット層に適した広告を適切なタイミングで配信するプログラマティック求人広告サービスの代表的会社。
[9]Entelo:AIを活用した人材のマッチングサービス。SNSからクローリング技術で自動収集した潜在層のプロフィールを保有。スキル、役職、就業先名、地域、経験年数、出身大学名などで候補者を検索できる。勤続年数やSNS上の活動の変化、就業先でのレイオフ、M&A、株価の下落、幹部の退職など70以上の因子を独自のアルゴリズムで分析し、90日以内に転職する確率が他よりも2倍高い候補者を抽出する機能もある。
[10]Phenom PeopleSaaS型のTalent Experienceマネジメントプラットフォーム。候補者、従業員、リクルーター、マネジャーの体験向上を促進する製品を4種類提供する。候補者体験向上の「Candidate Experience: CX」では、マネジメント経験の有無や経験年数などをもとにスクリーニングしたり、一次の電話面接の日時調整などを行うチャットボット機能や、セマンティック検索技術を用いたスマート検索、掲載コンテンツを管理するCMS機能を備えた採用情報ページを制作できる。
[11]SmashFly:AIを活用した総合採用マーケティングプラットフォーム。ATSに入力した採用情報が自動的にジョブボード、キャリアサイト、SNSなどに掲載され、応募者のトラッキングや採用ブランディングが簡単にできる。
[12]Talemetry:企業内のATSとシームレスに接続し、1つのインターフェースで簡単に候補者を検索、ソーシング、アウトバウンドマーケティング活動で候補者とエンゲージできるCRMを提供。
[13]ENGAGE Talent:AIで3万以上のウェブサイトをモニタリング&データを収集し、人材の移動を予測する「トータルタレントインテリジェンス」プラットフォームを提供。候補者やその就業先の動向を継続的にモニタリングし、候補者が転職しそうな予兆を察し、アラートを通知する機能を備える。その他、タレントマッピング、競合インテリジェンス、潜在層とのエンゲージメント、アウトバウンドリクルーティングなどの機能を1つに統合。企業の候補者発掘やエンゲージメントをサポートする。
[14]SHL:実際の仕事の場面を模した状況判断シミュレーション等の行動アセスメント、意欲やリーダーシップスタイルや仕事上の価値観などを測る性格適性テスト、弱みや強みや就職の準備度を把握する認知能力テスト(言語力、計算力、推論能力、読解力など)を提供。
[15]DDI(Development Dimensions International):行動科学をベースとしたリーダーのアセスメントや、体系的な能力開発を専門とするコンサルティング会社。短時間の適性検査や、会計、金融、フードサービス、小売、ソフトウエアおよび医療業界の具体的なスキルテストなどを提供。
[16]Pymetrics: AIや脳神経科学を活用した12種類のオンラインゲーム(素早くクリックする、クリックして風船を膨らませるなど)をもとに、AIが候補者の能力やリスクに関する意識、強みや弱みを瞬時に特定し、社内のトップパフォーマーのプロフィールと比較する。
[17]Koru:7種類のソフトスキル(やり抜く力、綿密さ、影響力、チームワーク、好奇心、オーナーシップ、洗練性)を測定し、入社後のパフォーマンスを予測する。
[18]MindX:サイコメトリクス(心理統計学)や機械学習を取り入れたミニゲームで、問題解決力、学習力、創造力、メンタルの柔軟性、定量分析力といった認知能力を測る英国のアセスメントサービス会社。
[19]Virtual Job Tryout:実際の仕事内容と類似したタスクを求職者に体験させ、ゲームのようなテストで即戦力となるスキルや知識を見極める。
[20]Click Boarding:入社手続きに必要な公的機関への提出書類をペーパーレス化し、就業初日までにする必要のあるタスクをステップ別に分かりやすく示すオンボーディング促進システム。
[21]Enboarder:ドラッグ&ドロップで新入社員のオンボーディングを促進するタスクを簡単に整理できるビジュアルオートメーションソフトウェア。
[22]Survale:採用情報ページ、応募プロセス、面接などに関する求職者のフィードバックを瞬時に集め、分析する自動労働力サーベイプラットフォーム
[23]Talentegy:候補者体験や従業員のエンゲージメントをリアルタイムで測定し、アンケートやチャットボットでフィードバックを収集する。

HRテクノロジーマップ

[マップの拡大版はこちら]

[関連するコンテンツ]

バナーをクリックして前コラムへ

関連する記事