「HRテック」においても日本はガラパゴスか 村田弘美

2016年12月21日

「HRテック」とは何か
世界の人事が注目する「HRテック」を知る

最近「HRテック」を取り上げるメディアが増えてきた。「HRテック」とは名称のとおり「HR(Human Resources)×Technology」の略称で、人事とITとの融合である。ビジネスパーソンなら名称は分からなくても、知らないうちに利用しているかも知れない。
HRテクノロジーは、人材の採用、配置、育成、給与管理、労務管理、行動管理、勤怠管理、アセスメントなどで利用した膨大な人事データなどを分析し、最適化するテクノロジーの総称である。大手企業の人事部門では、膨大な人事情報を人事管理システム(HRMS(※1) 、 HRIS(※2) )で一元管理している企業が多いが、近年はマスターデータとHRテクノロジーの専門サービスとの融合も進んでいる。
代表的なものは、"iCIMS""SmartSearch""ORACLE・Taleo"などであるが、2016年の調査(※3) では、米国の人事部が利用しているのは「"IBM Kenexa(38.3%)」「Oracle Taleo(36.8%)」「workday(34.0%)」「SAP HCM /Success Factors(30.6%)」という結果だった。総合型はいわゆる大手が占めているが、各領域では日々新たなサービスが開発されている。グローバル企業の人事は、競合他社から一歩抜きんでるために、どのようなプロセスやデータのコントロールが最も効率がよく、どのHRテクノロジーを利用したらよいのかを模索しているが、グローバルの波が5年かけてようやく日本に来たようだ。次に「HRテック」のなかから、採用テクノロジーの近況について解説する。

HRテクノロジーをマッピングする

1980年代の人材の採用は"Post and pray"(求人広告を出して祈るように待つ)。90年代はそのオンライン化。2000年代は登録された膨大なレジュメを検索しショートリストを作成していた。2010年代は採用経路も変化し人事はテクノロジーを駆使した狩り(ソーシング)をする時代になった。ソーシャルメディア、特にはLinkedIn やFacebookといったソーシャルネットワークと融合したソーシングを重視し、顕在化した採用領域から潜在化された領域まで踏み込んだアプローチをするなど、採用プロセスも変化した。採用テクノロジーの寄与は大きく、採用のアウトソーシングとともに、人事に欠かせない存在となってきた。採用テクノロジーの基本的な機能は、さまざまある採用の業務をカバーするまでとなった。
その一方で、最近の人事課題の1つに、「HRテクノロジーは多すぎてもう理解できない」ということが挙げられるようになった。HRテクノロジーは約14万あるといわれるが、以前に比べて、容易にビジネスができるようになったことで、人材関連のソリューションを提供する企業が増加したため、さらに増加している。そこで、人事にHRテクノロジーを理解してもらうために、Talent Tech Labs(TTL)社をはじめとして、各所のコンサルタントがさまざまなエコシステムを提起(※4) している。そのエコシステムも日々の変化に追いついていない状況であるものの、人事側は目安として参考にしているようだ。

図 HRテクノロジーマップ出所:TTL "Talent Acquisition Technology Ecosystem"を基に再分類し筆者作成(2016.10)

HRテクノロジーにおいても日本はガラパゴス?

リクルートワークス研究所では、デヴィッド・クリールマン氏(クリールマン・リサーチCEO)、ジェリー・クリスピン氏(CareerXroads共同代表)、ジョナサン・ケステンバーム氏(Talent Tech Labs:TTL、エグゼクティブ・ディレクター)をはじめ多くの専門家の力を借りて、約1,000のHRテクノロジーのサービス内容について調査し、28分類のエコシステムの作成を試みた(図)。28分類の詳細については、別のコラムで紹介するが、作成の途中でも統合や撤退など、さまざまな変化があったこと、また、テクノロジーは米国中心であることなどから、完成形とはいえないが、エコシステムとして整理することで、普段自分たちが採用テクノロジーと認識している視界は狭く、グローバル人事は本当に多種多様なテクノロジーを活用して取り組んでいることが分かる。

HRテクノロジーマップを整理している中で、気がついたことがいくつかある。
1つは、ソーシング関連の多くの領域がLinkedInといったソーシャルネットワークとの接続を特長としていること。グローバルの世界では、ソーシャルメディアはビジネスの場で名刺代わり、また転職活用にも有効な人材プールとなっており、人材プールを通じて、個人のレジュメのデータベース閲覧や、データの取得、リファラル(知人紹介)などで成り立つHRテクノロジーが多い。しかし、この点では、日本はガラパゴスである。ダイレクトリクルーティングが増えつつあるものの、人材プールの場がないため、テクノロジーも未成熟で、人事が活用するまでには至っていない。また、個人のリクルーターや有償のリファラルも職業安定法で制限されているため、この領域に関してはグローバルと日本では異なる。
2つめは、人的資源管理の広域な考え方である。
外部人材の戦力化では、非正規や、フリーランサーへの発注管理システムに加えて、たとえば、クラウドソーシングリクルートメントのようなオンライン上で1つの仕事を世界中の質の高いエンジニアに自動的に細分化して配分するというテクノロジーは、働き方の多様化や高齢化社会においても将来性を感じる。また、面接の効率化では日程調整から面接官の評価までの一元管理をすることで、距離や時間、また重複を改善する。テクノロジーによるマッチングの高次化では、ショートリストの作成など採用プロセスの一部を効率化することで、採用に至る日数も削減できる。人事が最も待ち望んでいるテクノロジーである。
日々進化するテクノロジーを追いかける、また使いこなすのは難しいが、エコシステムなどを活用し、自社にとって有効なテクノロジーを掴んでほしい。

HRテクノロジー(採用テクノロジー分野)の28分類

1. Career Advice and Coaching(キャリアのアドバイスとコーチング)
2. Social CV and Resume Builder(効果的な履歴書作りをサポート)
3. Job Search Organizer(求人情報や応募手続きを一括管理)
4. Social Networks(SNSを利用した求人・求職活動をサポート)
5. Employer Reviews(企業に関する口コミ情報や評価)
6. Referral Tools(知人紹介プロセスを自動化)
7. Video Interviewing(動画やオンラインでの面接サポート)
8. Interview Management Tools(面接日時や工程の管理ツール)
9. Crowd Sourced Recruitment(仕事を細分化し多数のフリーランサーに業務委託)
10. Matching Systems(求人要件と求職者のマッチング、ショートリスト作成)
11. Vendor Management Systems(非正規労働者を供給するサイトの管理システム)
12. Freelance Management Systems(フリーランサーの管理システム)
13. Recommendation and Reference (求職者の身元照会や信用調査)
14. ATS-Staffing Companies(スタッフィング会社用の応募者追跡システム)
15. Job Boards(求人・求職サイト)
16. College Recruiting(新卒採用に特化した求人・求職や採用プロセスの管理)
17. Job Marketing and Distribution(ジョブボードやSNSに求人情報を一括掲載)
18. Job Board Aggregators(オンライン上の求人情報を自動収集した検索エンジン)
19. Social Search(オンライン上の情報を基に候補者のショートリスト作成)
20. Candidate Relationship Management(候補者の人材プールと管理)
21. Temporary Labor Marketplace(高度専門職、フリーランサーへの業務委託)
22. Brand Creation and Management(企業の採用ブランド構築をサポート)
23. e-Staffing(専門職やエンジニアなど厳選されたショートリストを作成)
24. Recruitment Marketplace(リクルーターの選出と複数のリクルーターや人材サービス会社の管理)
25. Psychometric Assessment(心理測定アセスメント、業務に係るパーソナリティや性格特性を測定)
26. Skill Assessment(特定のスキルを測定)
27. Resume Parsing Software(求職者のレジュメ解析ソフト)
28. ATS-Corporations(雇用主企業用の応募者追跡システム)

(※1)Human Resource Management Systems
(※2)Human Resource Information System
(※3)リクルートワークス研究所「HRテクノロジーに関する調査2016」対象は米国人事責任者209名。複数回答
(※4)エレイン・オーラー氏、ウイリアム・ティンカップ氏、カイル・ラグナス氏、ジョン・サムザー氏などがエコシステムを考案している

村田弘美

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