候補者コミュニケーション
候補者コミュニケーションは、ショートメッセージ(SMS)による求職者との双方向コミュニケーションを自動化するクラウド型メッセージ管理システムである。「候補者エンゲージメント」のカテゴリーに含まれる。
採用担当者は、同システムの管理画面からPCで質問や連絡事項のSMSを作成し、求職者の携帯電話の番号宛てに送信する。テンプレートの作成・保存、メッセージ本文への宛名の自動差し込み、画像やファイルの添付、SMSの予約配信、開封率や返信率などの効果測定、配信停止申請の自動処理も行える。システムは、自然言語処理技術を用いて企業の採用情報サイトやSNSページの訪問者に自動で対応し、求職者の求人への関心の有無や希望職種などを聞き取るチャットボット機能も併せて提供する。APIを使ったデータ連携やGoogle Chrome拡張機能により、採用担当者が日常的に使うATS(応募者追跡システム)やCRM(候補者管理システム)、LinkedInなどのウェブページ上でSMSを送信したり、送受信履歴を確認できる機能を搭載しているものも多い。具体的には、下記のようなサービスがある。
- SMSによる面接プラットフォーム(Canvas)
- 求人広告やSNSへの投稿にチャットのリンクを組み込むことができるライブチャットプラットフォーム(FlashRecruit)
- 採用業務に特化したSMS管理プラットフォーム。店頭に貼ってある求人ポスターに記載されているショートコード宛てに求職者が携帯電話からSMSを送信し、応募すると、チャットボットが自動応答、または採用担当者がチャットで求職者と会話する機能を提供する(Grayscale、TextRecruit)
- 人材派遣会社を対象とした業務自動化プラットフォーム。機能の一部として、仕事状況の確認、応募者への歓迎メッセージ、面接や就業開始前日のリマインドといったSMSを企業が事前に設定したタイミングで自動送信する機能を備えている(Sense、Herefish)
- 採用やカスタマーサービス担当者向けのSMSによるコミュニケーションプラットフォーム(TextUs)
- 保険会社やフィットネススタジオ、飲食店、プロスポーツ団体、医療機関などのマーケティングやカスタマーサービス業務をサポートするSMS管理システム。顧客が店舗の固定電話の番号宛てに送った問い合わせや連絡に関するSMSを受信し、返信する機能などを提供する。採用業務にも利用されている(Zipwhip)
- 営業や採用担当者向けのメール管理システム。メールの開封やリンクのクリックの有無などを確認できるトラッキング機能などを提供する。メールの受信者がSMSで返信できるよう、メール本文内にSMSのメッセージ作成フォームを組み込む機能も備える(Mixmax)
人事との関連性
メールよりもSMSを連絡手段として好む求職者が近年増えている。SMSは一般的に、メールや電話よりも開封率や返信率が高いと言われている。メールは受信ボックスの中に埋もれてしまうことが多々あるが、SMSは受信者の目に留まりやすい。また、求職者が経験年数や資格、休日出勤や夜勤などに関する質問に「はい」「いいえ」で簡単に答えることができるため、仕事の合間でも返信しやすい。他社で働いている忙しい求職者ともすぐに連絡をとれるため、企業は応募条件を満たしているか否かを確認し、次の採用プロセスに進むことができる。
採用情報ページを訪れた求職者が、応募せずに離脱してしまうケースも多いが、SMSならば会社の在宅勤務制度や福利厚生などについて気軽に質問しやすく、応募につながる最初の一歩を踏み出しやすいといった利点がある。
採用担当者はPCの管理画面で複数の求職者とのやり取りを同時進行できるため、業務効率がアップする。担当者が個人の携帯電話ではなく、社内共通のシステムを利用することで、会社はメッセージの品質を管理し、採用ブランドを維持・強化できる。
サービス例
1.Canvas
SMSによる面接プラットフォーム。各企業にメッセージの送受信時に利用する10桁の電話番号を支給する。チャットボットが事前にLinkedInなどのSNSから応募者の基本情報を収集した後、採用担当者がPCの管理画面から応募者の携帯電話番号にテキスト形式で質問を送る。管理画面のライブラリーに保存されている面接の質問や回答集の中から、Canvasが質問や回答例をレコメンドする機能もある。面接の内容は自動的に記録され、評価や感想を記したメモとともに、社内で共有できる。会社概要や福利厚生などに関する資料や社内の様子を紹介する動画などをSMSに添付することも可能である。
飲食店予約サイトOpenTableや製薬大手Roche、その他、病院、航空会社、人材派遣会社などが看護師、理学療法士、ソフトウェアエンジニア、グラフィックデザイナーなどの採用に利用している。OpenTableは、営業やカスタマーサポートなどの採用で、電話による1次面接の代わりに活用している。SMS経由で連絡をする旨の承諾を得たうえで、飲食店で働いた経験の有無などについて質問し、回答をもとにスクリーニングを行っている。
料金体系は、サブスクリプション型(金額は要問い合わせ)。企業規模や業種など、企業のニーズに合わせた料金プランを提供している。2019年にATSプロバイダーのJobviteに買収された。
2.TextRecruit
候補者エンゲージメントプラットフォーム。企業は、店頭や大学キャンパス内に掲示する求人ポスター、採用イベントの配布資料、バスのラッピング広告、SNSへの投稿などに、TextRecruitが支給した5桁のショートコード(例:97211)とキーワード(例:Recruit)を記載する。それを見た求職者が携帯電話からショートコード宛てにSMSを送信すると、AIを搭載したチャットボットが自動的に求人情報を送信し、経験年数などについて質問する。次に面接日時を調整するリンクを送信する。飲食チェーンChipotle Mexican Grillは2018年時点で、国内の2,100の店舗にポスターを掲示し、地元から人材を調達している。
チャット形式によるオンラインイベントの管理機能もある。採用担当者はイベントページのURLを記載したSMSを求職者に配信する。求職者は都合の良い日時を選択し、参加申し込みを行う。イベント当日は、リクルーターとプライベートチャットでやり取りする。
VMware、Hard Rock Cafe、Domino’s Pizza、UPS、Chewy、アメリカ海兵隊など200社超の企業や組織が利用する。
料金は、企業のニーズ、ユーザー数、月間コンタクト件数によって異なる(2014年設立当時は、1ライセンスあたり月額19ドル、49ドル、99ドルの3種類)。2018年に、大手HCM(人事管理システム)プロバイダーのiCIMSに買収された。
3.TextUs
主に採用や営業、カスタマーサービス担当者を対象とする、SMSによるリアルタイムのコミュニケーションプラットフォーム。企業はSMSをPCの管理画面から求職者やカスタマーに送信し、管理する。複数の求職者とのメッセージの履歴を一括管理し、未読、既読、会話終了といった状況別に分類できる。SMSを一度に100通まで一斉送信できる。音声によるメッセージ作成機能や、返信率や登録解除件数などを測定するアナリティクス機能もある。採用担当者向けのiOSおよびAndroid対応アプリを利用して、会社の電話番号経由でSMSを送受信したり、TextUsに保存されているメッセージ履歴の確認や連絡先の検索を行える。
高等教育、医療、不動産管理、金融、NPOなど様々な業界に対応したサービスを提供している。約800の人材派遣・紹介会社も人材のソーシングやオンボーディングにTextUsを利用している。たとえばTemp Talentは、以前はリクルーターが個人の携帯端末に登録スタッフの連絡先を保存し、求人情報、面接、タイムカードの提出締め切りなどの連絡をSMSで個別に行っていた。TextUsの導入により、PCの管理画面からSMSを一斉送信できるようになった。SMSの送受信記録をCRM(候補者管理システム)に保存する手間もかからなくなった。インターフェイスが使いやすい、ATSとデータ連携できるといった点も利用者から高く評価されている。
料金体系はサブスクリプション型で、ユーザー数によって異なる3種類の料金プランを提供している。
ビジネスモデル(課金形態)
企業がサービス事業者にシステム利用料を支払う
企業がサービス事業者に、SMSを送受信・管理するシステムの利用料を支払う。ユーザー数や使える機能の種類などによって料金が異なるサブスクリプション型のプランを提供するサービス事業者が多い。
今後の展望
企業向けモバイルエンゲージメントサービスOpenMarketが行った調査では、ミレニアル世代(1981~1996年生まれ)の約75%が電話よりもSMSを好むと答えた。これを受けて米国では2017年頃から、「テキスティング」を若い世代の採用活動に活用する企業が増え始めている。特に大量の人材を必要とするサービス業や医療分野において初期スクリーニングでSMSが使われるケースが多いようだ。
SMSは携帯電話に標準搭載されており、別途アプリをダウンロードする必要がない。企業は若者だけでなく、幅広い層にアプローチできるため、採用活動に利用しない手はない。
テキストリクルーティングサービスを提供する事業者は年々増えており、Shortlisterには、テキストリクルーティングプラットフォームとして約70社がリストアップされている。iCIMSやBullhorn、Monsterといった大手HCMやジョブボードがSMS管理システム事業者と提携または買収し、自社の機能やサービスにSMSを導入するケースも見られる。2020年以降、新たな動きが出てくることも予想される。今後に注目したい。
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