独自のTech Stack構築で採用の高度化を実現
採用に成功している企業は、どのHRテクノロジー製品を選択しているのだろうか。HRテクノロジーを利用することで、どのような効果が生まれているのだろうか。この2つのリサーチクエスチョンに基づいて、グローバル企業を対象に、ビデオインタビューとサーベイによる調査という2つのアプローチを行った。
取材企業のすべてが独自のテックスタックを組んでいる
結果としては、企業は基幹システムと採用ステージごとに、熟考を重ね選出した10~20という多くの製品を利用する独自の「テックスタック(複数のテクノロジーを組み合わせて活用する)」をつくり、自社にとって使いやすいシステムを構築している。また、インタビューを行った企業のいくつかは、新しいタレントアクイジション(TA)リーダーが着任していたが、そのミッションの1つは新たなシステムを構築することで、それにともなって旧来のシステムを見直し、新たな製品への入れ替え、もしくは補完の準備を行っていた。
HRテクノロジー製品は、顧客のニーズや技術の進化にともなって、次々に新しい商品が生み出されているため、TAリーダーはその情報収集も欠かさず行い、試行錯誤を繰り返している。取材企業のそれぞれに導入に至るストーリーがあったが、驚いたのは、取材企業はどれ一つとして同じものはない、その企業に最適化したテックスタックを組んでいたことである。テックスタックは、右へ倣えというものではないようだ。
テクノロジーの導入で採用の質が向上する
テクノロジーの導入効果については、1)採用にかかる時間が短縮できた、2)採用コストが削減できた、3)採用候補者の母集団が広がった、4)採用の質が向上した、5)リクルーターの生産性が向上した、6)採用活動を客観的に解析することで改善がはかれた、など、好意的なコメントが多かった。
最も多く利用されていたテクノロジーはアナリティクスで、これまで人手・時間・コストをかけていた業務について、単純にテクノロジー製品に置き換えただけでなく、製品に付加価値をつけている。製品名として多くの声があがったのは「LinkedIn」「HireVue」で、LinkedInはソーシングには欠かせないSNSであることは間違いないだろう。世界中の人材に容易にアプローチすることができるなど、TA業務を飛躍的に変化させた。また、ビデオ面接は初期の遠隔面接という単機能から、スケジューリングや構造化された面接手法、応募者の表情の解析まで多機能化している。これ以外にも、さまざまな領域で、採用の自動化が進んでいる。
テックスタックを組む前の準備
テックスタックを組むには、まずそれぞれの製品特性を知ることが必須である。ただ、その製品数は膨大で、把握するのは大変な作業である。そこで、全体の傾向の把握と製品特性を知るには、HR向けに行われているコンファレンスで、コンサルタントや専門家に評判を聞くなど、情報収集が欠かせない。現段階では、新しいAIやチャットボットが注目されており、製品を紹介するブースで説明を聞く、オンラインで製品のデモを見る、また実際にトライアルをする、という企業も増えている。
自社のテクノロジーを向上させるために、テクノロジーに長けた人材で構成されたチームをまるごと採用したという大胆な企業もあったが、TA部門の強化も課題の1つである。TA部門はさまざまなプロフェッショナルで形成されている。大規模採用をするTA部門では、リクルーター、ソーサー、アナリスト、オペレーション、ブランドマーケティング、スケジュール担当、正社員採用担当、新卒採用担当、上級管理職担当、その他にプログラムマネジャー、システムアナリスト、HRデータアナリストなど、多くの専門家が関わるが、自社にそのようなプロフェッショナルを抱えることができない場合は、RPO(採用プロセスアウトソーシング)という採用代行を利用しているようだ。採用プロフェッショナル22人に、「採用活動のどのくらいをRPOに委託しているか」を聞いたところ、「10%以下」が10人、「11~25%」が1人、「26~50%」が5人、「51~75%」が3人、「76%以上」が3人であった。採用活動の4分の3以上を外部委託するのは珍しいことではないようで、これは意外な結果であった。
5年後、採用業務の「4分の1」は自動化する
また、「今後5年以内に採用業務のどのくらいが自動化されるか」を聞いたところ、「10%以下」が1人、「11~25%」が11人、「26~50%」が7人、「51~75%」が3人、「76%以上」が1人という回答結果であった。半数程度が、5年以内に採用業務の4分の1は自動化するとしているが、自由記述を見ると、既にアナリティクス、アセスメント、ATS、オンボーディングは完全自動化されているという回答もあり、現実味を帯びている。前のコラムで、将来自動化してほしいものとして希望が多かったのは、スケジューリング、スクリーニング、少し先の未来に実現してほしいものは面接、選考と紹介したが、「人にしかできない業務」と「それ以外」で棲み分けが進んでいくのであろう。イントロダクションでは、採用の自動化はどこまで進むのかと置いたが、その答えが見えてきた。
自社がどのようなテクノロジー製品を利用しているかを知られたくない企業もあるが、比較的多くの企業がインタビューに応じてくれた。また自社の採用手法を積極的に公開する企業もある。企業のブランド力が高いので心配ないからなのかと思っていたのだが、TA職という職種全体がレベルアップするために公開し、共有することも必要だという。TA職のネットワークが広く、労働市場が活発化しているからこその考えであり、日本では職業別の労働市場が形成されていないため、このようなオープン化は広がらない。
世界、特に英語圏にはHRテクノロジーは数多あるが、日本語の製品となると、まだ数は多くない。日本版を開発しているところもあり、また日本でも製品の開発が進んでいる。世界からは少し遅れるが、日本でもテクノロジーによって人事・採用業務が刷新され、新たな職種が導入される時期はそう遠くないだろう。