デプロイメントプラットフォーム
デプロイメントプラットフォームは、人材派遣会社向けの労働者管理システムである。一般企業向けの従業員の勤務シフト管理プラットフォームも一部含み、「トラッキングシステム」のカテゴリーに分類される。
人材派遣会社は、企業から依頼を受け、ヒアリング内容をもとに、登録スタッフの中からスキルや就業時間など顧客の要望に合う人材を選定し、顧客に紹介するのが一般的な流れである。一方、デプロイメントプラットフォームでは、企業がシステムに求人情報を直接投稿すると、プラットフォームがスキルや職歴や希望稼働日といった登録スタッフの登録情報をもとに、アプリ経由で登録スタッフに合った仕事を通知する。登録スタッフはその中から仕事を選択する。
多くのデプロイメントプラットフォームは、登録スタッフ向けアプリ、派遣会社向け専用ページ、派遣先企業向け専用ページの3つのコンポーネントをまとめて派遣会社に提供している。登録スタッフ向けのアプリは、プロフィール(スキル、職歴、希望職種や勤務地、免許や資格など)の登録、稼働可能な日時の入力、登録条件に合う新着求人の通知、紹介された仕事の承諾、出勤時の服装や持ち物などの確認、始業・終業時間の記録、自動作成されたタイムシートの提出、派遣先企業や仕事内容の評価といった機能を備えるものが多い。
派遣会社向け機能は、主に登録スタッフの情報や勤務スケジュールの管理、GPSによる始業・終業時の登録スタッフの現在地の確認などがある。登録スタッフが連絡なく欠勤する可能性を予測する機能を備えているものもある。派遣会社が、顧客企業や登録スタッフが目にする画面に自社のロゴを掲載するなど、自社のブランドに合わせてデザインを自由にカスタマイズできるものも多い。
派遣先企業向けの主な機能は、求人情報の直接投稿、派遣スタッフの稼働時間の承認や評価などがある。具体的には、下記のようなサービスがある。
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一般企業向けのパートタイムやアルバイトのシフトおよび予実管理プラットフォーム。企業は管理画面で、シフトの作成や欠員発生時のシフト募集を行う。人手の足りない時間帯を一目で確認できる。店舗や地域ごとの人件費予算を設定し、再配分や店舗間の調整を行える。作成したシフトをもとに人件費が自動計算され、残予算を確認できる。求職者は、アプリで新着求人通知の受信、応募、始業・終業時間の記録などを行う(Allwork)
- 派遣会社向けの労働者管理プラットフォーム(swipejobs、Sirenum、NextCrew、Shiftgig、WorkN、Wolf)
- 勤怠や人事管理、給与計算などの複雑なタスクをすべてクラウド上で簡単に行える人材管理システム。フォーチュン500企業の多くが利用している(Kronos)
- ATSプロバイダーのBullhornが提供する、派遣スタッフ向け求人検索アプリ。稼働可能な日時のカレンダー入力、新着求人の通知、紹介された仕事の承諾、始業・終業時間の自動計測、タイムシートの提出といった機能を備える(TempBuddy)
- 自分のデスクをもたないリモートワークまたはモバイルワークの社員と会社のニュースやイベントなど最新情報を共有し、社員のエンゲージメント向上を図るアプリ。チャット、全社員の連絡先検索、就業規則等を保存したライブラリーといった機能を備える(StaffConnect)
人事との関連性
採用担当者は、求人情報をプラットフォームに直接投稿し、即人材を確保できる。アプリ経由で従業員から稼働可能日や休暇の申請を募ることができるため、シフト作成の業務負担を軽減できる。従業員の希望に応じ、空きシフトに人員をすばやく補充し、また急な欠勤にも対応できる。出退勤時の打刻をアプリで行い、勤怠データをクラウド上で管理できるため、給与計算や支払い処理を正確かつスピーディーに行える。デプロイメントプラットフォームは、サービス、小売、イベントマーケティング、倉庫、軽工業、医療といった、離職率が高く、急遽人材の補充が必要な分野に特に適している。
サービス例
1.Sirenum
シフト管理、勤怠管理、給与計算や支払い管理などの機能を備えた人材派遣会社向けのクラウド型労働者管理プラットフォーム。医療、介護、サービス、建設、警備、物流・運送、ボランティアといった業界の一般企業にも、従業員のシフト管理機能を提供する。
派遣会社の登録スタッフは、稼働可能な日時の入力、紹介された仕事の情報の閲覧と承諾、シフトの確認や交換、始業・終業時間の記録、休暇の申請、給与金額の確認などを行う。アプリから「シフト開始」や「シフト終了」ボタンをクリックすると、稼働時間がシステムに自動入力される。派遣会社は、GPS機能で出退勤時の登録スタッフの位置情報を確認できる。その他、就労許可といった登録時の必要書類のペーパーレス化、登録スタッフが保有する免許や資格の管理、シフトの自動調整機能などがある。登録スタッフが必要な訓練を修了していない場合、アラートが表示される。
派遣先企業は、PCの管理画面から求人情報の直接投稿やタイムシートの承認などを行う。
顧客はRandstad、Manpower、Impellam Group、Blue Arrow、Interiman Group、GI Groupといった大手人材派遣会社が多い。最近では、英国内で複数の病院や地域の医療サービスを運営するGuy’s and St Thomas’ NHS Foundation Trustが、コロナ禍での従業員のシフト調整や労働時間・疲労管理に、Sirenumの「COVID-19スタッフマネジメント」ソリューションを導入した。従業員は、アプリから自身の体調不良や、本人または家族の自主隔離を報告できる。
2.NextCrew
派遣会社向けクラウド型労働者管理プラットフォーム。主にホテル、イベント、医療、工業、経験価値マーケティングといった派遣分野を主な対象とする。
派遣会社は、NextCrewと提携するジョブボード(Indeed、ZipRecruiter、Jobtarget)に求人情報を掲載し、母集団を形成できる。登録スタッフの始業・終業時間や現在地の確認、勤怠状況の確認、タイムシートの承認、登録スタッフの評価も行える。
登録スタッフは、アプリでプロフィール(希望勤務地、スキル、免許、資格など)の登録と編集、Form I-9(就労資格証明書)など登録に必要な書類への電子署名、稼働できる日時の登録を行う。登録条件に合う新着求人をSMS、メール、アプリで受け取り、「興味あり」をクリックすると、それをもとに組まれたシフトが届く。始業および終業時間の記録、タイムシートの提出、立替金の登録、領収書などの写真の提出といった機能も備える。
派遣会社の担当者は、資格、居住地、研修の修了状況など各顧客企業が求める条件を満たす人材を登録スタッフの中から厳選し、リスト化する。企業は、プラットフォーム経由で厳選された人材に絞って求人情報を公開する。
3.Shiftgig
派遣会社向け労働者管理プラットフォーム「Deploy by Shiftgig」を提供する。プラットフォームに搭載されたアルゴリズムが、スキル、職歴、居住地、希望条件をもとに、登録スタッフと求人の自動マッチングを行う。登録スタッフは、アプリから募集要項を満たす求人のみを閲覧する。自分のスケジュールに合った仕事を選択し、勤務地の地図や服装、当日必要な持ち物などの情報を確認する。始業・終業時間を記録し、仕事内容に関する評価を提出する。フィードバックの内容をもとに、プラットフォームが登録スタッフの志向を学習し、より適した求人情報を表示する。
派遣先企業は、PCやアプリから求人情報を直接投稿する。頻繁に求人を要するシフトの内容(職種、仕事内容、連絡先情報、制服等)をテンプレートとして保存する。次回からはテンプレートを選択し、必要な人員数や日時を選択するだけで投稿が完了する。登録スタッフの評価も行う。5つ星の評価をつけた登録スタッフのみで人材プールを構築し、優先的に求人情報を知らせることができる。オープンAPIで、プラットフォームと社内の給与・請求書管理システムを連携できる。
派遣会社は、PCから登録スタッフの情報管理(プロフィール、パフォーマンス、希望条件、仕事に内容に関するフィードバックなど)や、各スタッフが閲覧できる求人情報の管理などを行う。シフトの空きが発生すると、キャンセル待ちリストに登録する他の登録スタッフに自動通知し、欠員を補充する機能もある。
ビジネスモデル(課金形態)
人材派遣会社や企業がサービス事業者にシステム利用料を支払う
人材派遣会社や企業が、サービス事業者に登録スタッフや従業員のシフト管理システムの利用料を支払う。料金を公開しているところは少ないが、利用者数やカスタマイズの度合いなどによって料金が異なる月額制のプランを提供するところもある。
今後の展望
米国では、今すぐに人材を必要としている企業と労働者をウェブやスマートフォンでつなげるオンデマンドスタッフィングプラットフォームの台頭が、人材派遣会社の脅威となりつつある。Adeccoといった大手派遣会社は資金力を生かして、自社で同様のシステムを開発している。自社開発は、自社特有のニーズに合わせて機能やデザインをカスタマイズできるというメリットがあるが、一方でコストや時間がかかるため、顧客基盤が小さい中小規模の派遣会社にとってはハードルが高い。デプロイメントプラットフォームが提供する既存のシステムを利用することで、顧客企業と登録スタッフをつなぐオンラインツールを低コストで提供し、双方の満足度を高めることができる。
隙間時間など働きたい時間や場所に合った求人情報を検索し、気軽に応募できるアプリが増え、その利便性に慣れ親しむ求職者が増えている中、同機能を提供できる派遣会社は登録スタッフ数の増加を見込める。逆に提供できない派遣会社は、今後ユーザー離れが起きる可能性が高い。
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